出迎え
「ジルバ、すごく機嫌がいいじゃないか。」
「ああ、今日はすごくいいことがあったので。」
私を膝に乗せてニコニコしているジルバは今までに見たことがないくらい生き生きとしている。
それもこれも全て、今日の朝から始まった。
◇◇◇
「お嬢様、あったかくなっているといっても、朝はまだまだ冷えます。こちらのストールをどうぞ。」
私は屋敷の玄関前で、ジルバが来るのを待っていた。
いつも目が覚めた時には隣にいたので何時に来ているのかわからず、メイドたちに時間を聞いてそれに合わせて今日は早起きをした。
「それにしても、ジルバはいつもこんな早い時間に来ているのね。一体何時に寝ているのかしら。」
夜は私が眠るのを見てから帰っている。どこに住んでいるのかはわからないが、睡眠時間が少し心配にもなる。
少し待っていると、馬車の音が聞こえはじめ、ジルバの乗る馬車が見えてきた。
「え、エヴァ!?なぜここに・・・。ああ、手も顔もこんなに冷えてしまって・・・。とりあえず、中に入りましょう。」
私を玄関先に見つけるや否や走って駆け寄ってきたジルバに、手とほおを撫でられ、屋敷の中に入れられる。
「ジルバを待っていたんです。」
応接室に行き、朝から外にいた理由を話せば、ジルバは驚いて固まる。
「これからは、少し未来にも目を向けてみようと思います。」
私の言葉に顔を明るくし、キラキラとした瞳でこちらを見つめる。
「エヴァ!それでは、これからはもっとエヴァが楽しいと思えるものを探してきます!一緒に色々なところに出かけてみるのはどうですか?」
急に言動が幼くなったように感じるが、そんなジルバが可愛く見えて思わず笑みが溢れる。
「ああ・・・。今日は何ていい日なんでしょう。今日は記念日です。・・・ですが」
緩くなっていた表情が引き締まり、見つめられる。
「こんなに朝早くから外に出ていたのはあまり褒められたものじゃありませんよ。それに、いつもならまだ寝ている時間でしょう。寝不足で倒れたらどうするんです。それに、まだまだこの時間は寒いんですよ。風邪を引かないか心配になります。」
「ごめんなさい・・・」
ジルバに怒られるのは初めてだったので少し落ち込むが、心配から言ってくれているのがわかるので、素直に謝る。
「でも、嬉しかったです。ありがとうございます。」
心の底からジルバがそう思ってくれているのがよくわかる。
「はいはい、それ以上は手を出さないように頼むよ、ジルバ」
ノックもなしに入ってきたのは兄だった。
「お兄様。ノックはしてください。」
「おはようございます、アベル。手を出したりはしませんよ。まだ。」
ノックをしてと伝えてみるが、スルーされ、「まだとはなんだ!」とジルバに突っかかっている。
「エヴァが許してくれるならばいつでも・・・ね?」
ね?と期待の込められた瞳を向けられても、今の私にそんなことを考える脳みそは残っていないので、目を逸らしてそっぽを向く。
「まだまだ道のりは長そうですね。」
「コチラにも心の準備というものがありますので。」
「エヴァ!心の準備なんて一生しなくていいからな!」
そばで騒ぐ兄が何よりも騒がしい。
「そんなことより、お兄様がどうしてここへ?」
「ああ、忘れてた。朝食の時間だからな。迎えにきたのだ。」
そう言われて初めて時計を見れば、朝食の時間になっていた。
「あ、もうそんな時間・・・。お父様とお母様も待っているでしょうし、行きましょうか。」
ジルバの膝の上から降りて2人をおいて食堂に向かって歩き出す。
背後からは2人の「待って」という声が聞こえるが、かまっていると父と母をさらに待たせることになるので、スルーしながら歩き続ける。
ジルバの走る音が聞こえれば、すぐにエスコートするように手を拾われる。
夜会でもパーティーでもないので、別にいらないと言ったこともあったが、いつどこでも関係なしにエスコートはしていたいというジルバの意志だった。
「おはようございます、3人とも。」
「おはようございます。お母様」
「おはようございます、侯爵夫人」
食堂に入れば優しい笑みを浮かべたお母様が出迎えてくれ、促されるようにそれぞれが着席する。
全員が座ったのを確認して、朝食の時間が始まる。
内容は、今日の用事や今後のイベント関係の前触れ、それ以外は、他愛のないファミリートークになるが、当たり前のように会話に混ざるジルバに違和感は全くない。
ジルバの溶け込む能力が高いのか、私の家族たちの適応能力が高いのか。
はたまたどちらともなのかはわからないが、穏やかに朝食の時間は過ぎていった。




