第二章 19 魔物と魔法と関係
19 魔物と魔法と関係
「こら、気を抜くんじゃない。周りに新手がいないか確認するんだ」
ボウが二人に注意する。ゴブリン一匹は倒したが、二匹目がいないとは限らないのだ。
「あ、そ、そうだった」
二人は気を取り直し、周りを確認する。魔物の気配は無かった。
「いない、よね?」
「ああ。いてて……」
確認を終え、マアチはその場にしゃがみこむ。
「大丈夫か?」
ボウが駆け寄る。
「ああ、そこまでひどくはねえよ」
マアチの藍染めのズボンは、ゴブリンの歯形に少し穴が開いたが、血があふれるほどでは無かった。雨で暇な日にでも針と糸で軽く縫い合わせれば元通りだ。棍棒のダメージもただの打撲で、骨まで折れてはいないだろう。
「回復するね」
ミーヤがマアチの隣に座り、精神を集中する。
ミーヤは中級の回復魔法を習得している。
『人間の治癒力を高める精霊の力を、一瞬、呼び出す』魔法。『時間を掛ければ魔法無しでも治る人体の損傷を、精霊の力で短時間で修復する』のが、回復魔法。
マアチも初級の回復魔法は習得している。だが初級は、転んで足をすりむいた、包丁で指を軽く切った、程度の怪我しか治せない。医者に診せるほどでもない、自分で薬を塗って数日で治る程度の怪我を、一瞬で治すのが初級の回復魔法だ。
ミーヤは中級なので、ひどい打撲も治せる。だが中級にも幅があり、ミーヤは中級のまだ序盤だ。骨折の一つぐらいなら治せるが、骨折が複数あると、全て治すには精神力が持たないかもしれない。
だからマアチも回復魔法の練習は続けている。回復役は複数いた方が安心だし、ミナミライの村には医者がいない。何かあればライの町の病院まで行く必要がある。怪我だけでも治せれば便利なので、回復魔法は習得して損はないのだ。
とはいえ、ボウは魔法が苦手で、まるで習得出来なかった。だから得意を伸ばそうと、筋トレにいそしんでいる。
「傷よ……癒えよ」
ミーヤの回復魔法が発動した。マアチは痛みが引くのを感じる。
「おお、楽になったぜ。ありがとな」
マアチが立ち上がり、屈伸する。足は正常に戻った。
「兄貴の手助けがあったから、三等分になっちまったな」
マアチは自分の蓄光石を見る。300テニエルのゴブリンの三分の一の光が入った。さっきの葉獣と合わせて150テニエルぐらいだろう。輝きはまだ銅の色だった。
「葉獣ほどじゃないけど、ゴブリン相手でも、水の玉より火の玉の方がダメージ大きそうだよね。やっぱり私、水以外の攻撃魔法も覚えた方がいいのかなあ」
ミーヤも自分の蓄光石を眺める。輝きはマアチと同じだ。
新たに魔法を覚えるには、代金を払って魔法屋に通う必要がある。初級魔法を最短で習得しても、10,000テニエルはかかる。
魔法を授ける能力のある精霊は、常に人間に好意的に魔法を教える。つまりプラスのエネルギーだ。だから、世界には同じだけのマイナスのエネルギーが溜まっていく。人間への敵意だ。それが魔物になる。
人間がその力を得ることで世界に『魔物』を生み出すので、『魔法』という呼び方をするのだ。
人間に魔法を授けるには、たくさんのエネルギーがいる。だから魔法を授ける精霊を所持する税金は高く、魔法屋の料金も高くなる。
「魔物によっては、火より水の方が効く奴もいる。それに、俺の昔のパーティには回復魔法専門の人もいたよ。さっきのマアチみたいに攻撃されても、すぐに回復してもらえるんだ。
ただ、戦闘が早く終わった時は、その人の蓄光石には何も入らないんだ。魔物を倒した後で回復魔法を使っても、魔物の光は吸い込まれないからね。でも回復役がいると安心して戦えるから、みんな、回復された回数に応じてお金を払ってた。
魔物の光は蓄光石に均等に入る、とはいえ、人間が柔軟に対応しないといけないから。パーティの中には、自分が一番貢献したのに、他の奴と等分なのは嫌だとか怒る奴もいたし」
ボウの言葉に、ミーヤとマアチは顔を見合わせる。
「う……魔物狩り屋の人間関係って、色々大変そう……」
ボウは笑った。
「その辺は経験を重ねるしか無いよ。まずは、仲間への敬意を忘れないことだな。俺は魔法は全然駄目だから、二人が魔法を使えるのはすごいと思ってるよ」
ミーヤとマアチも笑った。
「魔物狩り屋を始めたばっかりの私達が安心して戦えるのは、ボウ兄さんがいるからだよ」
「さっきは助けてくれてありがとな、兄貴。ミーヤも、ミーヤがいないと、オレは自分の怪我を自分で治さなきゃならねえ。痛いときに集中するのって難しいし、オレの回復魔法は初級だし。ミーヤは回復魔法が中級まで使えるんだから、もっと自信持っていいんだぜ」
三人はうなずきあった。
「さあ、次の魔物を探そう」
気合いを入れ、三人は山の中をまた歩き出した。




