第二章 18 次の戦い
18 次の戦い
ミーヤ、マアチ、ボウは、山の中を進んでいく。相変わらず、他の魔物狩り屋の気配は無い。中級者はまっすぐ山奥に行くが、三人は浅いところを回っているからだ。
そして、初心者向けの魔物が見つかった。
「ゴブリンだ」
ミーヤが小声でつぶやく。視界の先、木陰に紛れて、それはいた。
体つきは人間と似ているが、背丈は成人の半分ほど。全身が緑色で、ぼろをまとっている。つり上がった目、とがった耳、耳まで裂けた口。人間に敵意しか無い、凶悪な顔つき。手には棍棒。
一匹だけで、こちらには気づいていない。ミーヤ達は注意して歩いていたので、先に気づけた。
「まずは二人でやってみろ」
ボウが、いつでも助太刀できるように剣に手をかけながら、小声で言った。
ゴブリンは初心者向けとはいえ、葉獣より強い。一匹300テニエル前後だ。二人は静かにうなずいて準備を始める。
さっきと同じように、ミーヤは水、マアチは炎の魔法を手の中に出すために精神集中する。
さっきと違い、ゴブリンはこちらにまだ気づいていないので、やや遠くにいる。二人は手の中に気合いを込めつつ、静かに歩いてゴブリンとの距離を詰めていく。
ミーヤはゴブリンの右側へ、マアチは左側へ。
「!」
ゴブリンが二人に気づいた。どちらを狙うか迷ってから、、ミーヤに向けて走り出した。
「……水よ!」
狙われたミーヤは、準備していた魔法を放つ。
直進してくるゴブリンに、水の玉をまっすぐ投げる。だがゴブリンも正面からそれを見ている。だから当たる直前で、ゴブリンはジャンプしてよけた。
「っ!」
ミーヤはうめき、逃げようとする。ゴブリンはそんなミーヤを追ってくる。
「……炎よ!」
横から、マアチの火の玉がゴブリンに放たれる。
「ギャッ!」
ミーヤしか見ていなかったゴブリンに、火の玉は直撃した。
「やった!」
ミーヤが声を上げる。逃げる素振りはゴブリンのおとりになるためだ。ゴブリンと向き合うミーヤは、魔法が当たればよし、外れても、マアチの方を見ずに、ゴブリンの注意を引きつければ良かったのだ。
「グゥゥ……」
ゴブリンはうなり、マアチを見る。火の玉一つ当たったぐらいでは倒せない。ゴブリンは次はマアチに狙いを定め、走り出した。
マアチは防御に徹する。ゴブリンの棍棒をかわし、木々の間を駆け回り、木を盾にする。その間に、ミーヤが精神集中する。
ゴブリンとは何度も戦っている。ゴブリンが一匹なら、ミーヤとマアチではさむように立ち、狙われた方が防御、もう片方が攻撃、という戦法を繰り返す。ゴブリンは人間より小さいし、二対一だ。何度も勝っている。
だが、楽勝とはいかない。
ドンッ!
「痛ってえ!」
ゴブリンの棍棒が、マアチの太ももに当たった。攻撃を全てかわし続けるのは難しい。
「……水よ!」
ミーヤの準備が整い、水の玉がゴブリンに命中する。ゴブリンはよろけるが、まだ倒せない。
「グアア!」
ゴブリンは憎しみに満ちた目で、もう一度棍棒を振り上げる。打撃を受けたマアチはまだ動けない。ゴブリンはマアチに腕を振り下ろす。
ズバッ!
ボウが駆け寄り、ゴブリンの腕を切り落とした。
ゴブリンの腕は、棍棒を握ったまま、肘から切断された。
体から離れた腕は、溶けるように消えていく。
魔物は、世界のエネルギーの具現化。ゴブリンが手に持つ棍棒も含めて、エネルギーのかたまりなのだ。本体から切り離された部分は、魔物としての形を保てなくなり、消えていく。
「まだ倒せてないぞ! 油断するな!」
ボウは次の攻撃はせず、二人に言う。これは二人の練習なのだ。ボウが倒してしまっては意味が無い。
二人も理解しており、戦闘態勢に戻る。今は回復魔法を使うより、ゴブリンを倒すのが先だ。ミーヤは水の玉を準備する。
マアチは防御に徹するが、足を痛めたので早くは走れない。
「ガルルッ!」
棍棒を失ったゴブリンは、動きの鈍ったマアチに体当たりする。そして耳まで裂けた口を開き、マアチの足に噛みつこうとする。
「ああっ! こいつ、同じとこを!」
棍棒で殴られた太ももを噛まれそうになり、マアチがゴブリンを押し返す。だが防ぎきれず、ゴブリンがマアチに噛みつく。
「痛えんだよこの!」
マアチは腰回りのゆったりした藍染めのズボンを履いていた。鎧では無いが厚手だし、肌との間にゆとりがある。だからズボンは噛まれたが、足にはゴブリンの牙は少ししか届いていない。とはいえ、抵抗を止めればもっと深く噛まれるだろう。マアチはゴブリンを必死で抑える。
「……水よ!」
精神集中を終えたミーヤが、大きめの水の玉をゴブリンに投げつける。無防備なゴブリンの背中にそれは直撃し、ゴブリンは動きを止めた。
「ガ……」
ゴブリンは動きを止め、溶けるように光になった。
光が、ミーヤ、マアチ、ボウの蓄光石に吸い込まれていく。
「や……」
「やったあぁ……」
ミーヤとマアチが脱力する。




