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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
文化祭
21/43

文化祭開幕!

「はぁ……」


「有宇、もう何度目のため息だよ」


俺と秀は看板を掲げて客引きをしている。

クラスではわたあめを売っていた。


「いや、だって紅葉が……」


ため息の理由。

それは、紅葉が朝になって風邪を引いていたのだ。

何故すぐに気づいてやれなかったのかと頭を抱える思いだ。

紅葉は文化祭を楽しみにしていたから、随分と落ち込んでいた。

俺もまた紅葉と一緒に回りたかった。

それに風邪を引いた紅葉を一人きりにするなんて、胸が張り裂けそうだ。


「まぁ、それは心配なのは分かるけどさ。今はどうしようもないんだから」


そう、だからため息が出るのだ。


「ったく。少しぶらぶらしてこいよ。それで気が晴れるとは思えないが、しないよりもマシだろ」

「いやでも、客引きが……」


「それは、プラカードを掲げて歩くって事でセーフだろ?」


確かに客引きになるな。

じっとしてると落ち込んでいくし、少し歩くか。


「ありがとな」


「おうよ!交代の5分前ぐらいには帰ってこいよ」


交代まで70分。


「あ、あと、ナンパして番号ゲットしたら俺にもくれよ?」


「馬鹿か?」


そんな事は絶対になさそうだけど念のためな〜と

ニヤニヤしている秀。


揶揄ってくる秀に何か報復してやろうかという気分を抑えて、

俺はプラカードを片手にぶらぶら歩く事にした。


いつも賑やかな学園がさらに賑やかになっていた。

人、人、人……大繁盛だ。

親子連れ、他学生、近所のおじさん、おばさん。

勿論この学園の生徒も皆楽しそうだ。


お祭り気分だから大分外れている奴もいる。

そこは相手が迷惑そうにしていなきゃご愛嬌といったところだろう。

中学生も来ているようだ。学校見学も兼ねて遊びに来たのようだ。


「……あれ?」


客引きに揉みくちゃにされている女の子に見覚えがあった。


「わぁ!可愛い!コスプレしてみない?」


「え?ちょっ」


「ね?少しだけだから」


「コスプレするなら私達の所でしない?」


「いや、その……え?服がっ!」


女の子を揉みくちゃにしているのが同性であるから少しはいいのだろうけど、

往来の場だ。男の視線もあるから……


そんな事を言い訳に俺はその集団を掻き分ける。


「っ結衣!」


「え?有宇さん!?何でここに?」


「いいから掴まれ、走るぞ!」


掻き分けた隙間から結衣の手を引っ張り出して、

そのまま走る。


「ちょっと!強引な勧誘はご法度だよ!!」


……あんたらが言うか、それを。


無視して校舎裏まで走り続ける。


「はぁ……はぁはぁ……ありがとう、ござい、ます」


「……っと。ここまでくればだいじょ……」


振り返ると服がはだけて着崩れしている結衣。

素肌や下着まで見えてしまっていて、咄嗟に視線を外す。

しかし、それに気づかないわけなくて、


「っっっっ!!!」


ガバッと胸元を急いで隠す。


「……見ました?」


顔を真っ赤にした結衣は涙を瞳に溜めながら睨みつけてくる。

ここで見てなかったなんて言っても意味ないだろうな。


「ごめん。少しだけ見えた」


「ぅぅぅ!!」


さらに真っ赤になった結衣はそのまま大爆発かと思ったが、


「……はぁ。もういいですよ」


大きくため息をついただけだった。


「その代わり!一緒に文化祭回ってください!」


弾けるような笑顔で結衣は見つめてくる。

……客引きがあるんだよな。

それなのに、結衣と文化祭回るのっていいのか?


「有宇さん……いいですよね?」


覗き込むようにおねだりしてくる結衣。

さっきの涙の名残か、瞳が綺麗に揺らいでいて、

大きくため息が出る。


「って何でそこでため息なんですか!?」


「いや、そういうのは余り良くないなって。勘違いしていい気になられたら大変だぞって思っただけだよ」


「こんな事特別な人にしかしませんよ?だから大丈夫です!」


「だからそういう無防備な所を見せるのが危ないって」


「大丈夫です!有宇さんは絶対に私の嫌がる事はしないって分かりますから」


何の疑いようのない、自信に満ちた笑顔を俺に向ける。

その笑顔が余りにも、無警戒で無防備で、

その信頼に答えなきゃなと思うと同時に、

変な輩に捕まらないように守ってやらないとという

元からほぼ常時発動しているお兄ちゃん気質である保護欲。

それが紅葉以外の人物に掻き立てられる。


「そ、れ、に……有宇さんならそういう事してきてもらってもいいですよ?むしろ大歓迎です」


「……はぁ」


「何でそこでまたため息なんですかー!!」


断固抗議しますと、真っ赤に怒る結衣。


しかし、有宇にとっては良かったのかもしれない。

揺れ動かされたわけを考える前に気持ちが落ち着いた。

そのおかげで揺れ動かされた理由を考える事をしなかったのだから。


それから交代で戻らなければならない時間まで結衣と2人で文化祭を見て回った。

時間にしては3、40分。

短い物であったが、その分模擬店や即興劇など立ち見できるものを色々回れたから

充実感が大きかった。


「そろそろ戻らないといけないですよね?」


「まぁね。一応サボってるようなものだしね」


「じゃあこれは内緒ですね?ふふふ」


子どものような微笑みに俺も笑って返す。


急に結衣は確信めいた顔をする。


「有宇さん。困ってる事ありますよね?」


「え?……なんで?」


態度に出ていたとは思えない……ため息か?


「有宇さんの顔色を見れば1発です!……と言いたい所ですが、ただの女の子の勘です」


「女の勘って凄いな」


「ふふ、そうでしょ?女の子は男の子には理解できないぐらい凄いんですよ」


自慢げに胸を張る結衣。

それが背伸びをしている子どものように見えて微笑ましい気持ちになる。


そうして俺は人物や事柄を掻い摘んで説明する。

何故踏み込めないのか、

まず、どうして踏み込もうとしているのか、

そんな事を結衣に尋ねていた。


「おぉ……まさか、敵に塩を送らなければならないなんて……私も頑張らないと」


話を聞いてすぐに何か呟いていたが聞こえない。

何か分かったのか?

首を傾げていると、

こほんと咳をして、


「あー。それは有宇さんが考える事ですね」


「さっきの意味ありげな呟きは何だったんだよ……」


「いやいや、まだまだこれからですよ!」


ガクッと肩を落としてしまうと、

結衣は早とちりしないでくださいと胸を張る。


「何故か、どうしてか……たぶんこの2つは理由が同じだと思います。私からすれば何だって話ですけど……この理由は自分自身で見つけなきゃ駄目です。絶対に」


「でも、それじゃ、いつまでたっても……」


「それぐらいの理由すら自分で分からないのなら、最初から踏み込まない方がいいですよ。有宇さんもその人も傷ついてしまうかもしれないから」


そう言う結衣は悲しそうな笑顔を見せる。

まるで経験があるかのような。

何処か昔の事を思い出しながら話す結衣は

いつもとは違う大人びた姿だった。


「でもまぁ……人間、考えなしで動く方が多いいですし、そっちの方が上手くいくこともありますからね〜自分の思うがままに行動してみるのもいいと思いますよ?」


結衣は誤魔化すようにそっぽを向いて頬をかく。


「でもそれは他人の場所に土足で踏み入るようなものだろ?」


「そうですね……それで拒否されちゃったら私が有宇さんを慰めてあげますよ?」


嬉しそうに手で撫でるジェスチャーをする。


「ふふ、何だそれ?」


「あはは、これで怖いものなしですね」


「そう、かもな。」


踏み込む理由は結局自分で考えるしかない。

直感だけが踏み込むべきだと叫んでいる。

でも、もう傷つくのも傷つけられるのも嫌なんだ。

だから必死になって理由を探す。

まるで言い逃れできないのに言い訳を探す子どものように。


だからこそ、結衣に考えなしで、思うがままに動いてみればと言われた時、

雷に打たれたような衝撃と、

打ちあげられた魚が水を欲するような誘惑を感じた。

自分も結衣の言う通り、心のままに動いてみたい。


その先に何があるのか。

拒絶か受容か。

どちらにしろ、関係が変わってしまう。


変わりたいのか?俺は……

だったら何に?

赤の他人から何に俺は……


結衣に相談した結果、少しだけ楽にはなったけど、

問題は何1つ解決すること無く、新たな問題を生んでしまった。


「ありがとな。結衣のおかげでますますわけが分からなくなったよ」


「えぇー!なんですかそれ!」


「……でも前には進めると思う。だから、ありがと」


「あ……ふふ、どういたしまして!これは次のデートの貸しにしといてあげますね?」


自分の事のように嬉しそうに笑う結衣。

その笑顔が少しだけ胸を苦しませる。


「ああ……任せろ。何てったって結衣が宣言通り満点持って来たんだからな。ご褒美はちゃんとあげなちゃな?……あとデートじゃないから」


そこだけははっきりとさせておく。


「ふふ、そこは気持ちの持ちようですよ!私は全力で甘やかしてもらうので!」


決定事項ですからと、ビシッと腰に手を当てる。


そして、結衣は突然距離を詰めてきて、

身体が密着する。


「……だから、ちゃーんと受け止めてくださいね?」


耳元で甘えるように囁く。


「ではでは!私はここで!」


悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべて駆けていく結衣。


「………またな」


煩く拍動する心臓を落ち着かせながら

俺はクラスの屋台に戻った。


お読みいただきありがとうございます。


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