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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
文化祭
12/43

譲れない戦い

俺は明日香先輩と戦う。

これは譲れない戦い

絶対に勝ってやる。

……そう内心息巻いていたのだが。


勝負の形式に問題があった。

テニス。これはまだいい。やった事はあまりない。近所の子供達とぐらいか。

問題はダブルスである事。


「私のペアはそこのコウスケよ!」


「ええ!?俺?」


最初は拒否していた如月も何か耳打ちされると顔を赤くして、

渋々頷いていた。

彼も俺と同じピンクのパットを拾った仲間なのかもしれない。


「ごめんね?俺も本気を出さなきゃいけなくなった」


本気を出す程?俺はあのピンクの正体の方が気になっていた。


話が逸れたな……


「あの、明日香先輩?一つだけお願いが……」


「なに?言ってみなさい。簡単なものじゃなくても聞いてあげてもいいわよ」


高圧的で高貴的な明日香先輩は、その雰囲気通り、寛容でもある。


「テニスは如月とシングルで勝負できませんか?」


「……ユウ?どこまで私を!」


きぃ!と怒り出す先輩に焦りながら、


「いえ!俺がペア組めないだけですから!」


「は?……ユウぐらいなら誘えば何人もOKしてくれるでしょ?」


何を訳わからないこと言ってるの?と言わんばかりに首を傾げている。

……それはイケメンに限るだ。


「いえ……俺は女子にかなり怖がられているんで。仮にOKしてくれても敵にも味方にも萎縮してしまいますよ」


言ってて悲しくなるなこれ。視界の隅で秀が笑ってるし……あいつは許さん。


「ああ、なるほど。それは可哀想ね、でもクラスの女子なら1人ぐらいはいるんじゃないの?」


「……いない事はないですけど。即席のペアじゃ、先輩達には勝てませんよ」


チームワークが組めないなら最初から個人的に戦った方がマシだ。

明日香先輩も俺の主張に納得顔をしている。これで大丈夫だろう。


「それだったら私……」


「……私が有宇のペアになる」


朝日奈さんが声を出す。

それを静かな無感情な声が遮る。

綺麗な肩まで伸びた銀の色の髪の少女は周囲の視線を釘付けにする。

明日香先輩の前を立ち塞がる。


「貴女……ルリ?何で貴女みたいな方が?」


「私は有宇の家族だから……家族の危機に一緒に立ち向かうのは当然。」


淡々と話す姿は無表情でなにを考えているか分からない。


「家族?ルリとユウが?それって……」


「先輩。そいつは……小中が同じな赤の他人ですから」


先輩が決定的なナニかを言う前にそれを言葉を重ねて制する。

その声色はいつもよりも穏やかではっきりとした拒絶があった。


「る……佐伯さんも変な誤解を生むような事はしないでくれないか?……いい迷惑だ」


気づけば、低い声が出ていた。

彼女の金の瞳に映る俺は酷く、睨みつけていた。


「でも……どうするの?このままじゃ有宇は1人で……」


初めて彼女の瞳が感情に揺れていた。

怯えではなく、悲しみでもない。

心配だった。


「1人でもやるさ。俺は今までだって1人でやってきた。あいつがいるから1人でもやれてきた。だから今度だって相手が2人だろうが1人でやるさ。俺の大切な場所を壊そうとするならそれを俺が叩きつつぶす」


俺は彼女から視線を外してもう一度明日香先輩を見つめる。


「そういう事ですから。先輩方は2人でいいですよ?」


そう言ったのだっだけど。

明日香先輩は大きくため息を吐いて、


「……分かったわ。テニスの事はコウスケに任せるわ」


こうして不穏な空気のまま、戦いの火蓋は切って落とされた。


◇◆◆◇


「すごい数だね!1日告知してこれなんて……」

ひかりちゃんの感嘆にも似た声をあげる。

確かにこれはすごいね……


翌日。

会場……と言っても学園内にあるテニスコートなのだけど、

そこは人で混雑していた。


蒼井 有宇対如月 浩介のテニス勝負。

テニスを知らない人でも見ものだと思うだろう。

テニスを知っている人でも目を輝かしてその瞬間を待っていた。

何でも如月 浩介君は中学時代全国に出たことのある実力者なのらしい。


「大丈夫かな?蒼井くん……」


「そうだね。ずっとベンチで座っているだけだもんね」


ほぼ同じタイミングでウォーミングアップを始めた2人だったけど、

蒼井くんは一通りこなすとベンチに座って俯していた。


「大丈夫……集中してるだけ。大切な人の為なら有宇は絶対に負けない」


蒼井くんが負けないと断言する佐伯さん。

でも、揺れた瞳と噛んだ唇。

ぎゅっと手を胸元に寄せた。

そんな仕草が堪らなく不安にさせる。


いつもはもの静かな蒼井くんが、

あんなに女の子と話していたのは初めて見た。

それに、明確な拒絶の瞳をしていた。


この2人に過去に何かあったのかもしれない。

でも今は……


「……………っ」


視線をあげた蒼井くんは怖かった。

テニスだけに集中して、周りが見えていないよう。

瞳は何も写っていないかのように据わっていて、

不気味な程の集中力。


不安が私の心を渦巻いていくテニス勝負が今始まろうとしている。


「あお?そんなに心配なら声かけてきたら?」


不意にひかりちゃんに声をかけられた。


「え?……でもあんなに集中してるんだから、迷惑だよ」


「でもなー?あんな調子だと危ないから。給水だってしてないし」


ひかりちゃんの言うことももっともだけど……


「クラスメイトが心配して近くに寄るのは全然不自然じゃないしな。俺が行っても無意味だろうし、頼むよ」


室井くんまで。

室井くんが駄目なら私も駄目なような気もするけど。


「大丈夫!あいつも男だしな。男より可愛い娘に心配された方がいいだろ!」


「……それは下心ある男だけ。有宇は違う」


「言い切っちゃうのかよ……」


室井くんはガクッと肩を落としていた。


「……有宇がされて喜ぶのは紅葉に応援された時」


「ああ……それだわ。俺が間違ってたよ」


2人とも見合わせて納得した顔をしていた。


行かない方がいいんじゃ?


「まぁまぁ……あおが心配してるのは確かなんだし。それにほら!渡したい物だってあるんでしょ?」


でも、心配なのは確かで。

渡したい物だってある。


触れてしまえば壊れてしまいそうな蒼井くん。

それほど、その人が大切なんだよね。


「っ……?」


少し心臓が靄のかかったような違和感に襲われる。

それを胸の中から追いやりたくて、

私は無視して蒼井くんの所へ向かった。


◇◆◆◇


「蒼井くん?」


顔を上げてしばらくコートを見つめていると、横から石川さんに話しかけられる。

ボトルと小さな箱を抱えている事から、

俺が微動だにしない事を心配して来てくれたのだろう。


「大丈夫……勝つから」


「え?……うん。でも無茶しないでね?」


一瞬、驚いた顔をしていたけどどうしてだろう?


「無茶するさ。なんせ相手は全国にも行った奴なんだからな」


そう言うとさらに悲しそうな顔をしていたが、

何でそんな顔をするのか分からなかった。


「そうだね……でも力だけは抜いてね?力んでたら明後日の方向にいって実力が出せないってひかりちゃんが言ってたから」


「そうなのか?」


「うん、『身体はホット、頭はクール』って試合前によく自分に言い聞かせてた」


身体が温まってなければ動けるものも動かせない。

頭も熱くなり過ぎれば、冷静で柔軟な対応ができなくなる。


「……ありがと。参考になった。」


「うん……あとこれ。本当はもっと早く渡そうと思ったんだけど。話しかけられなくて」


朝からずっと考え事をしていたからな。

話しにくい雰囲気を出していたかもしれない。

……いつも通りだって?


小さな箱を手渡され、そこには砂糖漬けのレモンが入っていた。


「ありがと……1個だけ食べるわ」


レモンの酸味と砂糖の甘さが丁度いい塩梅になっている。

試合前じゃなければ全部食べたいと思った。

……そんな事を考えられるぐらいには落ち着いたみたいだ。

全身の力が程よく抜けていく。


「ありがとな。俺絶対勝つよ」


「う、うん……」


困ったような顔をして頷く石川さん。


「だからそれ、残して置いてくれ。美味しかったからな?」


立ち上がり、顔の緊張が解けていた俺は自然と笑みを浮かべていた。

それを見て、初めて石川さんは複雑な顔ではない、

にこやかな顔をする。


「うん……頑張って、応援してる」


さぁ……勝負を始めよう。


◇◆◆◇


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします、いい勝負にしよう」


手を伸ばしてくる。

さっきまでの俺なら、馴れ合ってる暇なんてないと

睨み付けて、如月に困った顔されて、手を引っ込めさせていただろう。


俺は俺のやりたいことをやってきた。

その度にこうやって邪魔が入る。

しかしそれをいつも何とかしてきた。

今回もそれでいい。

相手が全国だろうが勝つ。

だけどそれとこれは別だ。

スポーツマンでないにしても、

勝負をするのなら、その精神にのっとるのは当然だ。

それぐらいにはさらに落ち着いていた。



このテニスはフルではない。

3ゲーム先取で勝ちだ。

短期決戦に持ち込めば、勝ち目はある。



笛が鳴る。

第1ゲームのサーブ権は俺。


放つべきポイントを一瞥する。

そしてボールを高くあげる。

俺も柔らかく腕をあげ……落ちてくるボールと最高到達点が重なった瞬間。

力む事なく、しなるように叩く。

それが運動連鎖を止める事なくボールに力が伝わっていき、

浩介のコートを射抜いていく。

前のラインのギリギリを突いてくるボールに浩介は手も足も出ずに第1ゲームは有宇が先取する。

ラリーは全国相手に技術がない俺に駆け引きは無理だ。

でもサーブなら……

簡単な事ではないが最高速度、最高威力で叩き込めばサービスエースを取れる。

それでゲームを制する。

これが俺の作戦。



第2ゲームは全くの逆の結果になる。

たとえレシーブできても力負けして次の球に反応できない。

それだけでなく、技術もあり、ネット際に落とすという芸当もこなしてくる。


冷静さを失いかけるが、石川さんに言われた事を思い出して第3ゲームに向かう。



◇◆◆◇


3ゲーム目。

蒼井くんのサーブに慣れた如月くんに追い詰められてたが何とか奪取した。

際どいボールで左右に揺さぶられても、

その際に何度も転び、擦り傷だらけになったとしても、

蒼井くんは何かに取り憑かれたかのように何度も起きあがる


「凄いな……野生の本能みたいだ。テニス経験なんてないんだろうからほぼ勘で切り替えしてるから頼りざるを得ないんだろうけど」


勝負勘をその場で作り上げることができる蒼井くん。

あらゆる部活にこれから引っ張りだこになるんじゃないかと感心する室井くん。


「自分の身体能力の限界を勘定に入れずに戦っている。だからあんな無茶できる」


静かな声で話す佐伯さん。


「……何が蒼井くんをあそこまで駆り立てるんだろうね?」


「大切な人のため?だよね。でもあんなボロボロになったら……」


ひかりちゃんの疑問に答える私だったけど、

蒼井くんのあんな姿を見たその子はどんな顔をするだろう。

こんな姿になって欲しくないと泣くのかな?

それとも頑張ってくれてありがとうと笑うのかな?


「それぐらい大事な勝負ってわけだ、あいつに取ってあの子は代わりのいない大切な人なんだからな」


室井くんの言葉が胸に刺さる。

なんでこんなにモヤモヤするんだろう?


◇◆◆◇


そして最終セット。

運がいいのか俺にサーブ権が回ってくる。

1発で決めることはもうできないけど、

ラリーを続けられるようになり、駆け引きの幅が広がる。

けれど……かなり厳しい。

脚は疲れと痛みから徐々に震えが出てきていて、

腕も衝撃に耐えられなくなっている。

俺は如月みたいに技を知らないから力任せにやるしかない。

唯一の武器のサーブも今じゃ本当に当たりが良かった時しか入らない。

さっきからデュースの連続。

力が入らなくなっている俺はイレギュラーなコースにボールを落とす。

それが如月を苦しめている。


「っそ!」


ボールをスライスさせてコートの前に落とす。

如月がやっていた技だ。見様見真似だけどできた。

流石経験者な事だけあって驚いた顔はしていたが何とか返す。

だけどそれはふんわりと上がった球で……


「っら!」


スマッシュを如月のコートに叩きつける。

これでデュース……振り出しだ。


深呼吸をしてボール片手に構える。

俺はさらに高くボールをあげる。

そして全身の力を程よく抜いて、俺は飛ぶ。


「ここに来てジャンプサーブかよ!?」


外野から秀の驚く声が聞こえる。

確かにジャンプサーブは初心者には難易度が高い。

打点も変わるし、力んでしまうかもしれない。

そうなれば空ぶってしまうか、明後日方向に行ってしまう。

慣れないジャンプサーブをレシーブをされたら反応できないかもしれない。


でもメリットはある。

足の力をさらに伝えられる。

打点が上がればそれだけ鋭角に貫く事ができる。


俺にここで勝負をかける。

焦れったいのはこれまでだ。

そろそろ身体の限界が近い。

特に右腕は悲鳴を上げている。


しかし相手も経験者。

多少苦しい顔をしていたがレシーブする。

顔に出てたように苦しかったのか、

ただ俺のいる所に返す事しかできなかった。

力を振り絞って叩き込む。

如月も何とか反応したのだが……


「っっしま!?」


その球は観客の方へ飛んでいく。


バコっと肉と球のぶつかる音。

女生徒の悲鳴。

痛みに耐えるように蹲る少女。

その少女は石川さんだった。


お読みいただきありがとうございます。

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