文化祭と演劇メンバー
文化祭。
それはどの学校も一大イベントの1つであると思う。
出店、お化け屋敷、手芸体験、部活動の報告会……
中でも演劇に力を入れているクラスが多い。
「ほーい!演劇メンバー決めるよー!」
教卓に立つ朝日奈さん。
委員長じゃないんだけどな。
演劇メンバー。
それは各学年、各クラスの数人が集まって、
それを何組かに分けて学年を越えて演劇をする。
俺のクラスは5人出るらしい。
「やりたい人いなそうだからクジねー」
できればクラスがいい。
演劇メンバーは帰る時間も遅くなるだろう。
それに何か演じるっていうのも難しそうだ。
紅葉は俺が何かやるって聞いたら喜んで見に来てくれそうだけど。
「……それはいいな」
「どした有宇?いきなり笑うなんて気持ちが悪いぞ。どうせ紅葉ちゃんのことだろうけど」
「うっせ……ただクラスの方が早く帰れそうだなって思っただけだよ」
「はいはい、フラグ頂きました」
何言ってんだとこの時俺はそう思ってた。
演劇メンバー
・蒼井 有宇
「なんだ、と?……」
しかし、現実はそう甘くない。
演劇メンバーの中には俺の名前。
くそ……フラグってそういう事か。
自ら建ててしまっていた。
「お、有宇もか。よろしくな?」
秀もらしい。
本当によく俺といるよな?
石川さんに勘違いされてもおかしくないかもな。
他のメンバーも書き出されていく。
・蒼井 有宇。
・室井 秀。
・朝日奈 ひかり。
・石川 葵。
・佐伯 瑠璃
以上が演劇メンバーだった。
「……」
「あ、朝日奈さんに葵ちゃんもか。いいメンツだね?」
「そうだな」
「……佐伯さんもいるみたいだね?」
「…………そうだな」
佐伯 瑠璃という少女。
「………」
彼女は黒板を一瞥すると、何の関心も、感情の吐出もしないまま、読書に戻る。
周りからは、
『白猫』
『歩く銀書庫』
だとか言われている。
前者は女子が、後者は厨二な男子が名付けていた。
「有宇、大丈夫か?」
「もう問題ない。もう何もないからな」
そう、何もない。最初から何もなかったんだ。
「そっか……あ、見てみろよ、葵ちゃん面白い事になってるぞ?」
秀はこの話はお終いと話を変える。
それに少し感謝しながら、石川さんを見る。
「ああ…………」
頭を抱えて困っていた。
あまり前に出るタイプじゃないもんな。
でも朝日奈さんがいるから大丈夫だろ?
「ほんと、参ったよ……ふふ」
有宇は葵が俯いていて気づかなかったが、
葵は困った言葉を口にする裏腹、顔は嬉しさににやけていた。
お昼になって俺は久しぶりに学食に来ていた。
寝坊してしまって、朝ご飯は作れても弁当までには手がつけなかった。
「有宇どれにするか?俺はこれだ!限定品なんだってよ!」
フレイムドラゴン定食……竜田揚げのことだろうけどネーミングセンスが。
「俺は蕎麦だ。安いしな」
180円。中々に良心的だと思う。
俺達は各々に買い、席に着く。
「水汲んでくる。秀は?」
「おう、頼むわ」
そうして俺は給水機に向かっていったのだが……
あまりの混雑に肩が女生徒とぶつかってしまう。
「すいません」
「気をつけなさい!怪我したらどうするの?」
金髪の髪を左右に結っていて、リボンが違う事から先輩だと言うのが分かる。
高圧的な態度に萎縮してしまう。
怖いな……もっとこうお淑やかな感じがいいな、石川さんみたいに……
「……なんか失礼な事考えてるでしょ?」
「いえ、そんなことは……」
「ふん!次は気をつけなさい。私じゃなきゃ怪我するんだから」
「はい、ごめんなさい」
頭を深く下げると満足したように立ち去っていく。
ふぅと安心していると、少女からピンク色のパットが落ちる。
「なんだろ?……先輩!これ落ちましたよ?」
「何よ?……って!そ、そそそれっ!」
かあぁっと顔が真っ赤になっていく先輩。
何故か周りの女生徒達は笑ったり、困ったり、複雑な表情をしている。
ガバッと俺からそれを奪うと、
「うううう!」
涙が溜まった瞳が俺をギロリと睨む。
怖くないんだけど狂気を感じた。
「ぜっったい!許さないんだからーー!!」
泣きながら走り去っていく先輩。
「なんだったんだろ?……まぁいっか」
この時は不思議な先輩にあったなと、
この後の苦労を知らない俺はそう思っていた。
◇◆◆◇
有宇が(?)騒ぎを起こしている中……
葵と如月 浩介も食堂にいた。
2人とも有宇と同じ理由で学食にパンを買いに来ていた。
しかし、ここのパンは人気もあり、10分もしない内に売り切れてしまうのが常だ。
日頃から弁当持ちの2人は知らなかったことなのだが。
「「あっ」」
最後の一個のメロンパンを掴む手が重なる。
そして2人ともその手を離して譲り合う。
そんな姿に浩介は笑って、メロンパンを手に取る。
「はい、これ食べて?」
葵の手のひらにメロンパンを包み込むように手渡す。
「石川さん、じゃあね?」
「あ、ありがとうございます!」
少し顔を赤くしていた彼女は我を返るとガバッと頭を下げていた。
そんな姿ににやける口元を手で隠して浩介はその場を離れた。
「あれ?売れ切れてたの?」
「いや、譲った」
「譲ったって……ああ、なるほどな?」
浩介の友達であろう男は葵を見て合点がつく。
「そりゃあ、パンとす……」
言いかける男の口を浩介は抑える。
男も来ることが分かって揶揄っているから、
瞳で語ろうとしていた。
「勘弁してくれよ?そういうのは居ないところで頼むよ」
しぃーと指を一本立てて困った顔をする浩介。
分かったと肩を叩くと口が解放される。
「っぷあ!……ったく、いつもは余裕そうなお前もこの事になると焦るのな?面白くていいよ」
笑う男に浩介も少し困り顔だけど笑っていた。
浩介も本当に嫌がることを男はしないと分かっているからだ。
ーーピロン!
携帯が鳴る。中身を確認すると……
『コウスケ!確か同じ組みだったよな?演劇メンバーになれ!絶対だぞ?』
との事だった。
「全くあの人は……」
急に命令されるのはいつもの事だ。
今回はどんな面白いことがあるのか少し楽しみになる。
「……石川さんも演劇メンバーならいいんだけどな」
そんな淡い期待を抱きながら、浩介は男にパンを分けて貰うのだった。
◇◆◆◇
「有宇、行こうぜ!2人も待ってるからよ」
放課後。演劇メンバーは初打ち合わせがあるみたいだ。
紅葉に遅くなると連絡を入れる。
「……2人?」
「ああ、佐伯さんは先行っちゃったよ。朝日奈さんが捕まえてくれてればいいんだけど」
……いいか。
「お待たせ2人とも!有宇が遅くてさ?」
「ごめん、少し連絡入れてた」
「ううん、大丈夫だよ?私も今連絡してたから」
「よし!皆揃ったし……って瑠璃ちゃんは?」
「……1人で向かったんだろ。問題ないんじゃないか?」
1人で居たいのなら無理に群れなくてもいい気がする。
自分から1人になるのはいいのだ。
問題は悪意を持って孤立させられる事なのだけど、この3人がいれば大丈夫だろう。
会議室に着く。
既に多くの人が集まっていて、時間もそろそろといったところだ。
演劇メンバーは1、2年生で構成されている。
3年生は受験生という事でクラスの出し物だけだ。
……有志だからクラスの出し物すらしないという所もある。
だから、こういう補充みたいなメンバーがいるのだけど。
1年生は6クラス。それを2クラスで分けて3組作っている。
これは体育祭の組み別対抗戦の時もなのだけど、今はいいか。
たしか同じ組みなのは……如月 浩介が率いるクラスだったな。
彼は来るのだろうか?
「あ!あ、あ、あんた!」
いきなり悲鳴にも似た怒号を響く。
どうしたんだろう?
「あんたよ!あ、ん、た!」
ビシッと指を指す先輩。
その行方はどうやっても俺である。
「……おれ?」
「そうよ!……さっきはよくも私を辱めてくれたわね?」
「有宇?お前何したんだ?」
またなんかやったのか?と言わんばかりの呆れ顔をする秀。
知らんがな……
さっき?
睨みつけてくる先輩をよく見る。
金髪の髪が風になびいていた。
……金髪?
食堂で会ったツインテールの先輩。
あんなに高圧的な感じだったけど、
髪を下ろすと、何処かの令嬢みたいだ。
今も高圧的なのは変わらないのだけど、高貴な印象の方が大きい。
「……ピンっぬぐぐ!」
「っっっっ!!私が死んじゃうじゃない、殺されたいの?」
ピンクの人と言おうとした口は鼻まで手で覆われて、呼吸ができなくなる。
情けなのか少しだけ隙間が空いているのだけど、
柔らかい手に息を当てるのも吸うのも憚れて呼吸が止まる。
生命の危機を感じながら、ぽんと肩をノックする。
それで気づいた先輩はようやく手を離してくれる。
「っぷあ!……ゴホゴホ……なんでこんな……」
咽せるのをなんとか整える。
「それは……私をまた辱めろうとしたからよ!!2度で飽き足らず3度まで!……もう許さない、勝負しなさい!」
涙を瞳に溜め込みながら、キリッと睨む彼女。
左手は腰に手を当て、右手は俺を指差す。
泣きべそかいている少女みたいな彼女に何も言えないでいる。
勝負っていきなりすぎてわけわかんない。
説明してくださいと視線を合わせると
「その前に……」
「その前に?」
「貴方の名前を教えなさい!私の名前は神宮 明日香よ!」
「……蒼井 有宇です」
ピンクの人もとい、神宮先輩。
人に名を聞く前にちゃんと自分も名乗るあたり常識人なのかもしれない。
そんな子を怒らせるって俺は何をしたっていうんだ?
「それで神宮先輩?勝負ってのは……」
「ユウ?明日香と呼びなさい!苗字は嫌なの、私を見てない気がして」
嫌悪感を露わにする先輩。
もしかしたら今日イチに怖いかもしれない。
「……明日香先輩。でいいですか?」
「まぁいいわ。それで勝負の事を聞きたいみたいね?」
ガバッとまるでマントを翻すように指をさしていた右手を腰に当てる。
「私達とテニスのダブルスで勝負しなさい!」
「テニス?……ダブルスっ!?」
突然すぎて頭が回らない。
「3度も私を辱めたのよ?貴方をこき使いたくて仕方がないの!でもそれは可哀想だからチャンスをあげようっていう事よ。感謝しなさい?」
こき使いたいって……本音が出ちゃってるんですけど。
「……ありがとうございます?明日香先輩」
流れで感謝してしまったけど。
「いい事よ……それでユウが負けたら私のお願いをなんでも聞くの」
「な、なんでもだって!?」
おい、何でそこで秀が一番驚いているんだよ?
「だって美少女に何でもしなきゃいけないんだろ?ご褒美じゃねぇか!?」
駄目だこいつ……
秀に残念そうな瞳を向けていると、
「そうね?確かに違う人から見ればご褒美かもしれないわ。何なら勝負なしにこき使ってあげても良くてよ?」
「こき使うって……具体的にはどんな感じなんですか?」
「あら?興味あるのかしら、私に?」
「いえ、申し訳ないって気持ちがありますから。俺にできる事があれば……」
何に謝らなきゃいけないのかは未だに分からないけど……
一瞬だけ不満そうな顔をした明日香先輩。
何かまた言ってしまっただろうか?
「……まぁいいわ。貴方が負ければ、私の部活に入ってもらうわ」
「部活……ですか?」
「そう。ボランティア部!平日は私と部活。休日も私と泥だらけになるまでやってもらうわよ」
「なるほど……」
というか先輩、ボランティア部なのか。
少し意外だと思ってしまった。
「どう?勝負なしで入部させてあげてもいいわよ?」
「いえ、闘います。俺、休日は大切な人と過ごすって決めているんです」
臆する事なく、明日香先輩を見つめる。
これは譲れない。いや、これだけは譲れない。
自分だけにしか影響しないものなら二つ返事で引き受けていただろう。
紅葉が家にいるのに出かけたのはこの間がイレギュラーだったからだ。
紅葉を1人にしておくなんて考えられない。
周り女生徒は俺の徹底抗戦に悲鳴をあげていた。
そんなに怖いのか?
「大切な人だって!」
「何この展開!!」
男達も、
「あいつに女だ、と?」
「どんな美人なんだ……」
「お近づきになりたい……」
誰がこんな獣みたいにギラギラさせてる奴らを、
紅葉に会わせるかよ。
文化祭の時は注意しないとな。
周りも有宇も勘違いを起こしながら話は進んでいく。
「大切な、人?……そんな人がいるというのに貴方は……いいわ、お互い譲れないものがあるのなら……私が正面からそれを叩き潰してあげるわ」
紅葉よりも明日香先輩自身を優先させろということに不満を持つ有宇。
辱めた自分の勧誘よりも彼女を優先させようとする有宇に怒りを感じている明日香。
お互い何か見落としてすれ違ったまま。
今ここに戦いは始まる。
「あのー?役割決めたいんですけどー」
少女の嘆きは誰にも届かなかった。
ユニークPV200を突破しました!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
まだまだ拙い文章で探り探りではありますが、
これからも応援よろしくお願いします。
御意見、御感想お待ちしています!




