気付けば、五日経ってました
猪鍋を囲み、酒を飲み交わした頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「もう遅い、泊まってけ。」
三成にそう言われ、清正と正則は佐和山城に泊まった。
「明日こそ……。」
「頭下げるで。」
そう決心して、眠りについたが……。
翌朝。
日の出と同時に、三成に叩き起こされた。
「虎ぁぁ!市ぃぃ!いつまで寝とるんやぁ!さっさと起きぃ!!」
布団を剥ぎ取られる。
「ちょ!まだ日の出やん!」
「働かざる者食うべからずや!さっさと着替えろ!」
三成に言われるがまま、着替えて付いていくと、昨日の畑。
「また猪が出るかも知れんから、柵を作ろう思うてんねん。」
この一言で、重度の城オタクである清正の火がついた。
「高さはこんぐらいやと思うてんねんけど。」
三成は自分の腰辺りに手をやる。
「足りん!」
清正に即却下された。
「え?足りん?」
「もう少しや!猪は跳ぶ!」
「え?跳ぶん?」
「高さはこんぐらいや!」
清正は近くに並べてある木を取り、土に刺す。
「うん。お前が言うんなら、間違いないやろ。」
「市松!杭打っていくぞ!」
「おう!」
三成の妻・うたが気を利かせ、朝食は握り飯を持って来てくれた。
「もうね〜!あの猪!しつこいぐらいに来てたんですよぉ!」
「力仕事なら任せてちょう!」
「まぁ〜!助かりますわ〜!」
握り飯を差し出すうたは、上機嫌だった。
三人とも気付いていなかった。
この柵作りが終わる頃には、更に二日が経過していることを。
清正と正則が佐和山にやって来て四日目。
三成は薬研を回していた。
「虎ぁ〜、陳皮取って〜。」
「はいはい。……何を煎じとるんや?」
「胃に効く薬や。」
「……なんで?」
「そろそろ、徳川様の胃が痛い頃やろ。
俺の代わりを務めて下さってるから、こんぐらいせな……。
大坂に戻ったら、渡しといて。」
「分かった。」
三成と清正が部屋で胃薬を煎じている頃。
「ほらぁ!もう一遍やぁ!戦場は待ってくれんでよぉ!」
「はぁ、はぁっ!……お願いしますっ!!」
左近に頼まれ、正則は石田家臣の若手たちの稽古をつけていた。
稽古終わり、正則は三成の部屋を訪れる。
ちょうど、うたがお茶とお菓子を持って来てくれたので、三人でお茶をする。
「そういや、紀之介はどないしてんのや?元気か?」
大谷吉継。
石田三成の親友と言われる男は、その身体は病に蝕まれていた。
「ようやっと、療養に専念しよったで。」
「今は大和で湯治中や。
少しだけやけど、ようなっとると聞いた。」
「そうか……。まぁ、生きてんのやったら、何よりや。」
そして、五日目……。
「佐吉。俺ら、そろそろ戻るわ。」
「え?戻るん?」
「いつまでも、大坂空けるわけにはいかんでよぉ。」
「せやなぁ。……まぁ、また来るんやったら、今度は饅頭持って来て。」
「任しとけ!」
支度を終えた清正と正則は、門へと出た。
見送りは三成のみ。
「気ぃ付けて帰りや。」
「……子供やないんやから。」
「分かっとる。徳川様によろしゅうな。」
「ああ。……佐吉。」
「ん?」
清正と正則は深々と頭を下げた。
「すまんかった。」
「もっと……話すべきやった。」
三成は固まる。
沈黙が流れ、先に口を開いたのは、三成だった。
「……え?なんでなん?」
「「……はぁぁ!?」」
思わず頭を上げる。
「いや、だって、もう終わった思うてるん。」
「……なんや。それ。」
清正と正則は全身の力が抜けた。
そして、三成はクスリと笑う。
「まぁ、俺はもうあそこに戻るつもりはないけど……。
なんかあったら、また来い。
愚痴ぐらいは聞いたるがな。」
「……ああ。」
「ほな、気ぃ付けて。」
清正と正則は、馬に跨った。
「次来る時は、饅頭やな。」
「ああ、待っとるわ。」
「じゃあな。」
清正と正則は馬を走らせた。
三成は、その背中が見えなくなるまで見送った。
「なぁ!虎ぁ!」
「なん?」
「気まずいの俺らだけやって、重家が言うとったけど!ホンマやったなぁ!」
「せやなぁ!」
清正と正則が覚悟を決めて謝罪に来た結果……
謝罪まで五日も掛かってしまった。




