優先順位。謝罪より、猪鍋
佐和山城。
加藤清正と福島正則は、揃って佐和山を訪れていた。
手には菓子折り。
官兵衛から『酒は持って行くな。』と厳命された結果である。
「いや〜!虎のおっちゃんも市のおっちゃんも、気まずいから来うへんのちゃうか思ってたけど〜!
良かった〜!来てくれたんやぁ!」
二人を出迎えた重家は、やたら機嫌が良かった。
その後ろに立つ島左近も、表情こそ変わらないが、どことなく嬉しそうに見える。
「重家……。」
「ん?」
「佐吉は。」
「いま雑草抜いとる。」
清正と正則は顔を見合わせた。
「……なんで?」
「薬草畑作っとるん。」
「そ、そうか。」
思わず納得してしまった。
「こっちこっち!」
重家に案内されながら畑へ向かう。
途中で、清正は腰の刀を抜き、左近へ差し出した。
「左近殿。」
「はい。」
「預かっといてくれ。」
左近は一瞬だけ目を細めた。
「……かしこまりました。」
正則も刀を外す。
「頭下げに来たのに、刀はいらんやろ。」
「せやな。」
すると重家が首を傾げた。
「雑草抜くのに刀は邪魔やろ?」
「違う。」
「違う。」
即座に否定された。
「……重家。」
清正は重家の前に立ち、目線を合わせた。
「なん?」
「おっちゃんらな。」
「うん。」
「お前の父ちゃんに頭下げに来たんや。」
重家は目をぱちくりさせた。
「え?……え?そうなん?」
「そうや。」
「菓子持って来てくれたから、茶ぁしに来たんかと思うた。」
「んなわけあるかぁ!!」
二人の声が綺麗に揃った。
重家は不思議そうな顔をする。
「父上、別に怒ってへんで?」
「……それが怖いんや。」
正則は遠い目をする。
畑に近付くにつれ……誰かの怒鳴り声が耳に入る。
「こらぁぁぁ!!またお前かぁぁぁ!!」
「……佐吉やな。」
「佐吉や。」
四人は急いで畑へと向かうと。
広い畑を走り回る猪、槍を持って猪を追い掛け回す三成が……。
「今日こそ鍋にしたるわぁぁ!!覚悟せぇぇ!!」
気のせいだろうか、猪は必死だ。
「ああ〜、アイツまた来たんや。」
「昨日も来ておりましたな。」
「……え?猪が?」
「高麗人参の味を覚えてもうたか知らんけどなぁ。」
重家はのんびりした口調で答える。
すると、突然。
猪は方向転換して、重家と左近、そして清正と正則の方へ突進して来た。
「うおっ!」
「若殿!」
左近が重家を庇うように一歩前に出たが。
「虎ぁぁ!!」
「なにぃぃ!?」
「市ぃぃ!!」
「おう!」
「ソイツ捕まえろぉぉぉ!!今日こそ鍋にしたるわぁぁぁーー!!」
清正と正則は顔を見合わせ、腕を捲る。
「佐吉ぃ!その槍、貸してくれっ!」
正則がそう叫ぶと、三成は迷う事なく槍を投げた。
槍を受け取った正則が構える。
そして、一撃で猪を仕留め、清正が猪の首を掴み最後の仕留めに掛かった。
「はぁ……はぁ……流石やな。」
ようやく追い付いた三成は肩で息をしていた。
「左近、人集めろ。血抜きや。」
「はっ。」
左近は一礼して、城の方へと走って行った。
「はぁ〜……。ようやっと捕まえられたわ。」
「父上!今日は鍋なん!?」
「せやな。」
「やった!」
「虎も市も食うてけや。」
「おう。」
「あんがと。」
「……あれ?何しに来たん?」
「「今ぁぁ!?」」
「おっちゃんら、菓子持って来てくれたでぇ!」
重家は、清正から受け取った菓子折りを嬉しそうに見せる。
「茶ぁしに来たんか?」
「お前もかぁぁ!!」
「親子やなぁ!」
三成はきょとんと首を傾げていた。
再会からまだ五分ほど。
まだ誰も謝っていなかった。




