表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

女たちは冷静に世を見つめる

大坂城の奥御殿。


茶々は、寧々に手紙という名の報告書をしたためていた。


『治部殿が佐和山へ戻られて、一月が経ちました。

奉行衆は毎日責任の押し付け合いをしております。

且元が近江に帰ろうかと申してます。

政務に関しては、徳川殿が踏ん張っているお陰で何とかなってます。

秀頼が自分の名を書けるようになりました。』


茶々は、一度手を止める。


『近頃は、毛利や宇喜多、上杉ら大老衆が"このままでは豊臣家の天下が危のうございます。"とうるさいです。

口を動かすより先に手を動かしてほしいものです。

最後になりましたが、此度の大坂城奥向きの人員配置です。ご査収ください。』


茶々は筆を置き、読み返す。


「……あの、御方様。」


「なにぃ〜?」


茶々の後ろに控えていた、乳母の大蔵卿局がそっと声をかける。


「あの、近ごろ徳川様が秀頼様の後見のようなお振舞いを……。」


「事実や。秀頼はまだ幼いん。」


「ですが……。」


「前田の親父殿亡き今、頼れるのは徳川殿しか居らぬ。」


「それでは、豊臣家の天下が!」


茶々はゆっくりと振り返る。


「……太閤殿下がどのようにして、天下を手中に収めたか、忘れたんか?」


大蔵卿局は息を飲む。


「三法師様を織田の後継者に据え置かれ、ご自分はその後見となられ、実権を握られたんやで。

そして、いつの間にか、織田の天下から豊臣の天下になった……。」


茶々はふっと息を吐く。


「太閤殿下はね、豊臣家を頼む、と仰られたん。

豊臣家の天下を頼む、とは言われていない。

私が望むものは、豊臣家の家名存続と秀頼が元気で居てくれること。

それは高台院様かて、同じや。」


大蔵卿局は何も言えない。


「戦して何になるん?得る物もなく、減るだけやんか。

その皺寄せは民へ向かう。

無理に戦をしたところで……その後はどうすんの?」


茶々は小さく笑う。


「いま、天下を収められるのは、徳川殿や。

政務は……まぁどうにか回っておるし、秀頼の後見もしかと務めてくれている。

それに、民も飢えていない。

天下があーだこーだ叫んでる人たちより、よっぽど有益やんか。」


大蔵卿局はゆっくりと頭を下げる。


「天下を取るより、生き残る事の方が難しいで。」


そして、折り畳んだ文を差し出す。


「高台院様へ送って。」


大蔵卿局は何も言えなかった。

戦を知らぬわけではない。


だが、天下を取ることばかり考えていた自分と、天下を取った後のことを考えている茶々との差を思い知らされた。


「かしこまりました。」


大坂城より届いた文(報告書)を読んだ寧々は、鼻で笑う。


「今更、佐吉の苦労に気付きよったわ。」


「……奉行衆にございますか?」


寧々の側に座る京極竜子が首を傾げる。


「今まで佐吉が全部段取り組んで回してたけど。

その歯車が一つ欠けただけでコレや。」


寧々は竜子に手紙を差し出す。


「……まぁ。」


竜子は目を細めた。


「やはり、宇喜多や毛利はうるさいですか。」


「お茶々の後ろに隠れて、ギャーギャー言うとるだけやろ。」


「面と向かっては、喧嘩しないのですね。」


「んな度胸あるなら、とっくにやっとる。

さてと……返事書こうか。」


寧々は新しい紙に筆を走らせる。


『秀頼が、自分の名を書けるようになったのは何よりです。

奉行衆に至っては、放っておきなさい。

且元にはもう少し耐えろ、と伝えて。

徳川殿は信用するには少し危ないが、政が滞りなく進むのであれば、信頼しても良い。

毛利たちには"うるさい。なら、お前がやれ。"と言ってやりなさい。

配置については問題なし、そのまま進めるように。』


寧々は筆を置く。


「さてと……。天下はどこへ向かうやろうね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ