細川幽斎と黒田官兵衛は、自分の子育てに少し自信を無くす
三成が佐和山へ戻って一ヶ月が経った。
今日も今日とて、奉行衆は責任の押し付け合いだ。
間に入って止める片桐且元は、疲弊し切っていた。
「はぁ〜……。」
どうにか言い争いを収めた且元は、トボトボと廊下を歩いていた。
「佐吉がおらんようになった途端に、これか。」
直ぐ近くで三成を見ていた且元には分かる。
あの男が、どれだけの仕事を抱えていたのか。
どれほど、周りに恨まれようとも、決して己の信念を曲げなかったかを。
「……儂も近江に帰ろうかな。」
且元はヤケクソになっていた。
「あら、ええんやない?」
慌てて振り返ると、淀の方こと茶々が立っていた。
「御方様!」
茶々はゆっくりと且元に近付く。
「今日もご苦労さん。」
「……痛み入ります。」
「治部殿がおらんのは、確かに痛いけど……。
みんな今まで、治部殿に頼りっぱなしで、それが当たり前やと思うてたみたいやね。」
「はあ……。」
「まぁ、まだ徳川殿が居てくれてるし。なんとかなってるけど。
内部分裂すんのは時間の問題かな〜。」
めっちゃ、他人事である。
且元は自分の胃がキュッとなったのを感じた。
同じ頃。
大坂城下の細川邸。
上座に並んで座るのは、細川幽斎と黒田官兵衛。
下座に並んで座る細川忠興、黒田長政、加藤清正、福島正則、加藤嘉明。
全員、縮こまっている。
「……忠興。」
「はい。」
幽斎に呼ばれて、忠興は小さく顔を上げる。
「馬鹿。」
「はい。」
続いて、官兵衛。
「長政。」
「……はい。」
「阿呆。」
「はい。」
「清正、正則、嘉明……。お前らもや。大馬鹿が。」
「「「……はい。」」」
幽斎が更に追い討ちを掛ける。
「全員揃いも揃って、どうしようもない馬鹿とはなぁ。」
官兵衛は首を横に振る。
「ほんま、救いようのない阿呆やなぁ。
はぁ……どこで育て方間違えたんや。」
返す言葉もない。
幽斎と官兵衛は顔を見合わせ、盛大に溜め息を吐く。
「望み通り、三成は退いたぞ。」
「で、どうなった?」
「……政務が回りません。」
「奉行衆が責任の押し付け合いしてます。」
「せやろ?」
官兵衛は懐から煙管を取り出し、火を入れる。
「ほんまに……。一時的な感情に任せてやった結果がこれや。」
「流石に三成が不憫やわ。」
更に縮こまる、戦場の猛者たち。
「佐吉がせっかく頭下げようか、少し歩み寄ってみようか思った矢先にこれや。」
官兵衛の言葉に、全員顔を上げる。
「……三成が?」
「は?俺らに頭を下げる?」
幽斎は目を細めた。
「なんや、気ぃつかんかったんか?」
「いや、だって……。」
「聞いてへん。」
幽斎と官兵衛、本日何度目か分からない溜め息を吐く。
「お前ら、三成の何を見てたんや?」
「アイツの顔見たら直ぐに分かるわ。
それになぁ……。佐吉は儂に間に入って欲しいって頭下げて来たんや。」
「……嘘やろ?」
「嘘言うてどないすんねん。」
「"市松の好きそうな酒用意したい"って、三成は儂にも相談してきたで。
そんで、付き合いのある酒蔵を教えたんや。」
沈黙。
「虎之助、市松、孫六。」
官兵衛に呼ばれ、清正、正則、嘉明は官兵衛の方へ姿勢を正す。
「お前たち……太閤殿下の子飼い衆で、佐吉とは同じ釜の飯食ってきた幼馴染やろ?
その幼馴染のお前らが気付かんで、儂らが気付くって……。
お前らの目ぇはどこについとるんや?」
官兵衛の言葉に下を向く。
「……はぁ。そりゃ、佐吉も匙投げるわな。」
「むしろ、ようやってた方やと思いますよ?
儂ならとっくに投げ出しとるで。」
「せやなぁ。」
「……三成は今ごろ……。」
「昼寝しとるんちゃうか?」
その頃、佐和山城では……。
「……ぐぉっ……。」
官兵衛の予想通り、三成は縁側で昼寝していた。
「父上、父上。」
三成の肩を揺らし、起こすのは長男の重家だった。
「ん〜?……なんや、寝てたんか。」
「母上が、明日雨やと思う言うてます。」
「んなら、畑に藁敷いとくか。」
三成は起き上がり、城内の畑へと向かった。
ちなみに……。
重家は、帰って来た三成に突然家督を譲られて、大変困惑したが、一ヶ月もすれば慣れた。




