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毛利さん、遂に泣き付く

慶長八年。

家康が征夷大将軍に任命され、江戸幕府が成立した。


幕府成立の年。

本来であれば、秀頼と千姫の婚儀が行われる予定だったのだが……。


「早い。せめて姫が十五、六になってから。」


と、反対し、更には千姫の母であるお江が泣きついた。


「もう少しだけ…。」


結果、秀頼と千姫の婚儀は、千姫が十五歳になるまで延期となった。


慶長十年。

家康は嫡子である秀忠に将軍職を譲り、自らは大御所となった。


秀忠将軍就任の儀礼の為、家康は秀忠と共に上洛していた。

それに合わせ、各大名たちも上方に集結していた。


「ふう……。やる事が多くて敵わぬのう……。」


秀忠はトボトボと京都御所の廊下を歩いていた。


「これも、天下の将軍のお勤めにございまする。」


秀忠の少し後ろを歩くのは、本多正信の子、正純。


すると、バタバタと向こう側から騒がしい足音が聞こえて来た。


「……何事じゃ?」


秀忠が足を止めると、物凄いスピードで、毛利輝元が秀忠目掛けて走って来た。


「上様ぁぁぁ!!お助け下さいませぇぇ!!」


「……え?」


そして、輝元はそのまま秀忠に抱き付いた。


「も、毛利殿?如何なされたのじゃ!?」


秀忠と正純はアタフタしている。


「もう無理ですぅぅぅ!」


泣き止まない輝元をそのまま引き摺り、秀忠は家康の元へと向かった。


「父上ぇ!」


家康が顔を上げると、秀忠に抱き付き引き摺られている輝元。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。

秀忠は疲れ切った顔をしており、控える正純は困惑していた。


「……なんじゃ?こりゃ?」


家康の疑問は当然である。


そして、輝元は……。


「大御所様ぁぁぁ!!どうかお助けをぉぉぉ!!」


ターゲットを家康に変更した。


「ああー!!分かった!分かったから!!一先ず、落ち着かんかっ!」


暫くして……。


輝元をどうにか落ち着かせた家康は、茶を一口含んだ。


「跡目か?」


秀忠に鼻を噛んでもらった輝元はコクリと頷く。(おっさん、何やってんねん……。)


「跡目()です。」


「……も?」


秀忠は顔を上げる。


「……領地も。広すぎます。」


「知っておる。」


「中国八カ国もあります。」


「確かに、広いですな。」


正信は静かに目を閉じる。


「分配したいが、誰を何処にやれば良いのか、もう分かりませぬ。」


輝元は、秀忠から差し出された手拭いを受け取り、涙を拭う。


家康はこの時、思った……。


まだ悩んでたのか!?と……。


「一門も、近頃は家臣らも"もう早よ決めてくれ"と申してきます。」


そりゃそうだ。六〜七年は流石に悩みすぎだ。


「そう思い、一門を集めたのですが、決めきれず……。」


この人、決まりかけた時に「でも〜……。」で振り出しに戻してる可能性がある。


「幕命とあらば、文句も出ますまい。」


「要は丸投げじゃな。」


「決めきれませぬので……。」


家康と秀忠は顔を見合わせ、溜め息。


「確かに……難儀ですね。」


「難儀よのぉ。」


そして、急遽開催された『毛利、どうする?』会議。(ネーミングセンスもっとどうにかならんか?というツッコミは無しで。)


家康と秀忠の前に広がる中国八カ国の地図。


「先ず、萩は……。」


「そこは本家では?」


「異論ありません。」


輝元、即答。


「広島は如何する?」


「そこは実務が強い者を。」


すると、正純が口を開く。


「吉川殿は如何か?実務も出来ますし、調整役も出来ます。」


「うむ。吉川ほど適任はおらぬな。」


あっさり決まった。


「岩国は要所じゃ。」


「……毛利秀元は?」


「統治も安定しております。何より、領民からの信頼も厚い。」


「ならば、秀元は岩国へ。」


順調に決まっていく。


「小早川秀秋は如何する?」


すると、輝元は顔を上げた。


「あやつ、普段はやる気がないですが、やらねばならぬ状況に追い込めば力を発揮すると思います。」


どこのブラック企業ですか。


暫く考えて……。


「……周防は?」


「うむ。」


秀秋さん、まさかの周防に放り込まれた。


「まぁ、小早川家臣もおるしの。」


丸投げやん。


そして、肝心の跡目は……。


「我が妻は、家の為に必要とあらば松寿丸の後見となると申しております。」


「流石は毛利のご正室。腹が据わっておられるわ。」


家康はゆっくりと顔を上げる。


「毛利の跡目は、輝元殿の嫡男の松寿丸。」


こうして、輝元が六、七年悩んだ問題は、僅か半日で終わった。


知らせを受けた毛利家中は、一同に安堵した。


「やっと決まった……。」


「長かった……。」


「初めから、こうしておけば良かったのでは?」


家臣の一人がポツリと呟く。


「其方ら、納得するか?」


秀元の言葉に、家臣らは首を傾げた。

そこに、秀秋の明るい声が響く。


「まぁ、この日の為に、今までがあったと思えば、良いのでは?」


「……それも、そうですね。」


「……秀秋。」


南の大方に呼ばれ、秀秋が姿勢を正す。


「周防、よろしくね。」


「……え?」


「大丈夫や、お前はやれば出来る子じゃけぇ。」


秀秋はゆっくりと秀元を見る。

秀元はめっちゃ笑顔だった。


「働け。」


「ああああーーーー!!荷が重いってぇぇ!!」


秀秋の絶叫がこだました。


そんな秀秋をよそに、南の大方は小早川家臣団に視線を向ける。


「この子、お願いね。」


「「お任せを!!」」


「まぁ、周防や言うても、半分じゃ。」


「それでも荷が重いぃぃーー!!」


「働け。」


南の大方は、容赦なかった。

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