佐和山郵便事情
今度こそ終わったと思った、そこのお前。
……残念!
番外編です笑
石田三成がキレて、佐和山へ帰った後。
大坂城は大混乱に陥った。
当然である。三成が居なくなったのだから。
各地から届く書状、山のように積み上がる帳簿、終わらない評定、増え続ける案件。
そして何より――誰も全体を把握していなかった。
「治部殿を呼び戻せ!」
誰かが言った。
「そうや!」
誰かが頷いた。
そして始まった、お手紙攻撃。
『帰って来て!』
『検地が終わらん!』
『予算が足りん!』
『儀礼の費用はどうする!』
『朝鮮との和睦交渉が!』
『南蛮との交易が!』
『太閤殿下の月命日が!』
『大和大納言様の法事が!』
『大政所様の――』
ここで一度整理しよう。
これ、全部三成がやっていた。
いや、その間お前ら何しとってん、である。
もっとも、三成自身が、「俺がやった方が早い。」と言って引き受けていたのも事実だった。
そして周囲も周囲で、「治部殿ならやってくれる。」と思っていた。
結果、治部殿が居なくなった現在、皆が困った。非常に困った。
しかし、三成を呼び戻す為に佐和山へ送られたその大量の書状は、一部を除いて三成の元へ届くことはなかった。
三成がせっせと畑を耕し、猪や鹿を追い回している頃。
佐和山城の一室で、三成の正室であるうた、三成の忠臣たる島左近、舞兵庫、蒲生郷舎が大量に届いた書状を確認していた。
「御方様、毛利様より。」
左近が一枚の書状を手に取る。
「燃やして。」
うたは書状を確認しながら、短く答えた。
「はっ。」
「御方様、宇喜多様より。」
「燃やして。」
「御方様。上杉の直江殿より。」
郷舎が手にしているやたらと長い書状に、うたは顔をしかめる。
「なんて?」
郷舎は書状に目線を落とし、そして……。
「責務を果たせ、とのこと。」
それだけ告げた。
うたは手元の書状に視線を戻して、短く指示をする。
「焼却。」
「はっ。」
完全に流れ作業である。
「……伊達様より。」
「伊達様?」
全員首を傾げる。
「なんて?」
「……元気か、です。」
「……殿へ。」
この人、絶対『治部殿はどんな反応するだろう』と面白がって出してるだろ。
「御方様、小西行長様より。」
「……小西様?」
うたは首を傾げる。
「なんて?」
「去年の検地帳簿どこにある?とお伺いです。」
「……殿へ。」
「はっ。」
「長束様と浅野様も同じです。」
「なんて?」
「大納言様と大政所様の法事について。いままでの帳簿はどこにあるか、との事。」
「……殿へ。」
「はっ。」
仕分け作業は着々と進んでいく。
「御方様、大谷刑部様より。」
「なんて?」
「大和の湯はよう効くぞ。
お前も、うた殿連れて偶には来い。」
「殿へ。」
うたは即答した。
「はっ。」
そこへ、小姓が追加の書状を持って来た。
「片桐様より、文にございまする。」
「……読み上げなさい。」
「はっ。」
小姓は書状を開き、読み上げる。
『佐吉くんへ。
元気ですか?
兄ちゃんはもう限界です。
早く帰って来てください。』
うたは暫く考える。
「胃かな?」
「胃やろ。」
「胃やな。」
3人の意見は一致していた。
そして、うたは顔を上げる。
「殿へ。」
「はっ。」
こうして、届いた大量の書状はうたや左近たちにより仕分けられ、大半は焚き火の燃料にされていたのだった。
その頃、畑を耕していた三成は、顔を上げて腰を叩く。
「静かやなぁ〜……。」
大坂の大混乱なんて知ったこっちゃない三成。
空を見上げて、「ええ天気やなぁ。」と呟き、作業を再開した。
【オマケ】
「淀の方様より。」
うたは一瞬、目を見開くが直ぐに指示を出す。
「殿へ。」
「はっ。」
茶々の手紙は無事に三成の元へ届けられた。
「淀の方様、なんて〜?」
正則は今日も三成のパシリをしている。
この人、暇じゃないはずなんだが、しょっちゅう来ている……。
三成はふっと小さく笑って読み上げた。
『治部殿へ。
ちゃんと寝ておりますか。
秀頼が自分の名を書けるようになりました。
徳川殿の顔色が悪いです。
且元が近江に帰りたい、と言い出したので引き留めてます。
小西殿や長束殿たちはあちこち飛び回ってます。
皆、疲れているようなので、胃に効く薬を送ってください。
きっと喜びます。』
三成と正則は顔を見合わせる。
「市、陳皮取って。あと、乾姜と甘草や。」
「はいはい。」
後日。
各所に届けられた胃薬。
「ほう……。」
家康は漢方オタクに火が付き……
「いや!ちゃう!帰って来い、言うてんねん!」
且元は号泣。
「ふむ……。」
小西さんたちはくれるというので、有り難く貰っておいた。
そして、全員こう言うのである。
「効くわ。」
なお、誰一人として『帰って来てくれ』という本題は解決していなかった。




