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石田三成、薬屋を始める

世の中が大坂城再建で賑わっている頃……。


ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ……


佐和山の石田三成の邸宅から、薬研を回す音が響く。


この頃になると、石田家の拠点は佐和山から彦根に移っていた。


理由は簡単、幕命だ。


「佐和山、ちょっと不便じゃ無い?近江って街道警備とか流通とかの要だから〜。」


要約すると、こんな事を言われた。


そして、重家は彦根に新たな城を築いた。

佐和山には三成と妻のうた、身の回りの世話の侍女数名と護衛の家臣数名が残った。


「佐和山はえらいスッキリしたなぁ。」


乾燥させた薬草の籠を抱えて、正則が入って来た。


「隠居してんのに、んなに要らんがな。」


「殆ど彦根の城に持って行ったんか〜。」


「使えるもんは、使わな。必要なもんだけ残してくれてるから、それでええ。」


正則は、最近ようやく家督を息子の忠勝に譲り、隠居した。

そして、後見と実務を甥で養子の正之に任せ、少しずつ世代交代をしている最中だ。


隠居して時間が余ってるもんだから、長浜から佐和山へしょっちゅう行き来している。


薬草を種類ごとに分けながら、正則は呟く。


「……お前は何しとるんや?」


「胃に効く薬を煎じとる。

大坂城代様から直々にな。」


「……絶対、大御所(家康)から、お前の薬はよう効くって話聞いたんやろうな。」


「かもしれん。」


「……それにしても。」


正則は薬研を見た。


ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ。


三成は黙々と薬草を挽いている。


「お前、隠居して何年や。」


「ん?……さあ?」


「さあって。」


「一々、数えてへん。」


正則は呆れた。


「佐吉。」


「なんや。」


「お前な。」


一拍。


「大坂で奉行してた時より、生き生きしとるぞ。」


三成の手が止まる。


「そうか?」


「そうや。」


即答だった。


「畑作って。」


「うん。」


「猪追い掛けて。」


「うん。」


「薬草育てて。」


「うん。」


「薬作って。」


「うん。」


「百姓やないか。」


「失礼やな。」


三成は不服そうだった。


「薬師や。」


「そこかい。」


正則は吹き出した。


「大殿。」


侍女が静かにやって来て、三成へ文を差し出す。


「大和の大谷刑部様より。」


「アイツはもう大和に住み着いとるやないか。」


侍女からの文を受け取り開くと、横から正則が覗き込んでくる。


『佐吉へ。

この間、送ってくれた薬膳茶、よう効くわ。

ところで、お前はいつになったら、大和に来るんや。

ええ加減、顔見せろ。

大谷刑部』


正則が吹き出した。


「紀之介は相変わらずやな〜。」


「せやな。文の最後に毎回”顔見せろ”って書いとる。」


そっと文を畳んでいると、今度は玄関の方から声が響く。


「大殿ぉー!」


家臣が駆け込んでくる。


「どうしたぁ?」


「大坂より書状にございます!」


正則と三成は顔を見合わせた。


「また胃薬か。」


「またやろな。」


家臣は息を切らせながら文を差し出し、三成が開く。


『至急。』


そこまで読んだ時点で、正則は笑い始めた。


「絶対胃や。」


三成は続きを読む。


『城の再建に関する評定が長引き、胃が痛い。』


「胃やった。」


「胃やったな。」


『前回の薬をお願い致したく。』


三成は静かに文を畳んだ。


「市松。」


「ん?」


「陳皮取って。」


「はいはい。」


正則は薬棚へ向かう。

その背中を見ながら三成は呟いた。


「世の中、平和になっても胃痛は無くならんな。」


「原因がおるからな。」


「誰や?」


「城の事になると、目ぇ見えんようになる馬鹿ども。」


三成は妙に納得した。


「……まぁ、人間なんちゃうたかて、達者が何よりやな。」


三成は再び薬研を回し始めた。

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