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20/30

世の中は天下泰平、佐和山は今日も猪を追い回す

慶長十七年。


豊臣家は京都へ拠点を移していた。


きっかけは実に単純である。


「大坂城、広ない?」


茶々の一言だった。


奥御殿にて。


茶々は帳面を片手に盛大な溜め息を吐いていた。


「警備に人手掛かる。」


「はい。」


「修繕にも金掛かる。」


「はい。」


「儀礼の度に京と大坂を往復。」


「はい。」


「面倒くさい。」


大蔵卿局は返事に困った。


茶々は真剣だった。


「そもそも、うち今は摂家やろ?」


「はい。」


「なら都の方が便利やない?」


「それも……そうですね。」


大蔵卿局は、茶々に一礼する。


「では、幕府へ書状の手配を。」


大蔵卿局は仕事が早かった。


「じゃあ、書状の支度するわ。」


茶々は筆を取り、即座に幕府へ相談した。


数日後。


「都へ移りたいそうです。」


正信の報告を聞き、家康は目を瞬かせた。


「何故じゃ。」


「大坂城が広いそうです。」


「……。」


「管理が大変だとか。」


「……。」


「あと、往復が面倒だそうです。」


家康はしばらく黙り、そして小さく笑う。


「淀の方様らしいのう。」


そう呟いた。


更に茶々は高台院へ文を送ると、返事はべらぼうに早かった。


『京都新城、空いとるで。』


「決まりやな。」


「はい。」


豊臣家の引っ越しは異様に早かった。


秀頼、千姫、茶々、家臣たち。


全員まとめて京都へ移動。

気付けば大坂城は空っぽになっていた。


「で、大坂城は?」


家康が聞くと、正信は黙って文を差し出した。


『管理よろしく。』


沈黙。


「……。」


「……。」


「押し付けられたな。」


「押し付けられましたな。」


こうして大坂城は幕府直轄領となった。


そして一年後。


京都新城。


「若様にございまする!!」


産声が響いた。

千姫が、第一子となる男の子を出産した。


「産まれた!」


「産まれたで!」


「初孫や!」


茶々と高台院は大騒ぎだった。


「秀頼に似とる。」


「千姫にも似とる。」


「可愛いなぁ。」


「可愛いなぁ。」


そんな会話をもう三回以上している。

秀頼と千姫は苦笑しつつ、見守っていた。


元号が慶長から元和に変わった、夏のある日……。


ゴロゴロゴロ……。


昼過ぎから、雷鳴が響き続けていた。


そして――


ドォォォォォォン!!


巨大な轟音が大坂を揺らした。


大坂城の火薬庫へ落雷し、大爆発を引き起こした。

炎は瞬く間に大坂城を覆い、大炎上。


消火活動を終えた頃には……大坂城は灰と化していた。


大坂城代となっていた家康の孫の松平忠明は、燃え尽きた大坂城を、暫し呆然と見つめた。


「……再建に取り掛かる。幕府へお伺いを。」


「「はっ!!」」


忠明は再建に向け、直ぐに動いた。


大坂城炎上の知らせを受けた茶々は、しばらく黙っていた。

その隣に座る高台院も、神妙な面持ちだ。


「燃えたそうで……。」


「らしいなぁ。」


再び沈黙。


庭では幼い孫と千姫が笑っている。


「やはり……寂しいですね。」


茶々がぽつりと呟いた。


「そうやね。」


高台院も頷く。


「あの城には色んな思い出があります。」


「あるなぁ。……でも、まぁ。」


高台院は小さく笑った。


「形あるもんは、いつか壊れる。」


「……そうですね。」


二人は静かに庭を見つめた。


その頃、佐和山城。


「父上ー!」


重家が走って来る。


「何やー!」


畑で薬草を干していた三成が顔を上げた。


「大坂城、燃えたらしいで!」


「ほう。」


「落雷やて。」


三成の手が止まり、しばらく空を見上げた。


「……父上?」


三成はふっと笑う。


「太閤殿下が焼いたな。」


「は?」


重家は首を傾げる。


「あの城は役目を終えたんやろ。」


「そういうもんなん?」


「そういうもんや。」


三成は再び薬草へ目を向ける。


その時――


ガサガサっと、畑の奥から聞き慣れた音がし、三成の目が細くなる。


「……おるな。」


「ん?」


「猪や。」


三成は槍を掴んだ。


「父上。」


「何や。」


「天下泰平やな。」


三成は少しだけ笑う。


「せやな。」


そう言って走り出した。


豊臣は残った。


徳川も残った。


人々は笑っていた。


そして今日もまた、石田三成は猪を追い回した。


――完――

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― 新着の感想 ―
これはすばらしい改変もの。
終始蚊帳の外だった伊達政宗が不安の種。 あいつ秘かに逆転の一手とか考えてそう。
なんか色々ほっこりしましたw
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