春の花嫁行列
慶長十六年の春。
大坂城に豪華絢爛の花嫁行列が入城した。
豊臣家当主・秀頼と、徳川二代将軍秀忠の長女・千姫の婚礼である。
本来、千姫の輿入れは慶長八年を予定していた。
しかし、その話を聞いた茶々は即座に反対した。
「いや、早い!」
周囲はぽかんとした。
「まだ七歳の子じゃ!
せめて姫が十五、六になってからにせよ!」
当然ながら、秀頼もまだ十歳と幼い。
"豊臣家の権威はまだある"
それを全国に見せつけたいとする周囲の思惑とは別に、茶々にとってはそんなことは関係なかった。
子供は子供だ。
更に、千姫の母であり、茶々の末妹でもあるお江も夫の秀忠へ泣きついた。
「もう少しだけ……。」
「お江。」
「もう少しだけ側に置いてください……。」
流石の家康と秀忠も、それ以上話を進めることは出来なかった。
そして月日は流れ――
慶長十六年。
十五歳となった千姫は、大坂城へ輿入れすることとなる。
この頃には豊臣家も”摂家”として広く認知されていた。
摂家の一つである豊臣家と、徳川将軍家との縁組。
史実では政治色の強い婚姻として知られる二人だが――
この世界では少し事情が違う。
これは、将軍家と豊臣家の縁組である前に、家族同士の縁組だった。
宴は三日間に渡って行われ、初々しい夫婦を祝福した。
「収まるとこに収まったみたいやな。」
高砂に座り、お互いの顔を見て頬を赤らめる秀頼と千姫に、寧々は上機嫌だった。
「誠に。一先ずは落ち着きました。」
茶々も上機嫌で、寧々の盃に酒を注ぐ。
「お茶々はどないすんの?」
「う〜ん……。暫くは千姫の後見に専念しようかと。まだ十五ですし。
奥向きの事、儀礼、礼儀作法……教える事がまだあります。」
寧々は酒器を手にし、茶々の盃に酒を注ぐ。
「落ち着いた頃に、出家しようかと。」
「ほう。」
「その時は、寧々様のお近くにおらしてもらっても?」
「ほほほ!竜子さんも喜ぶで。」
二人は笑い合う。
「……天下は徳川になりました。
太閤殿下は、なんと申されるでしょう……。」
寧々はそっと盃を置く。
「案外、笑ってるかもしれんでよぉ。
天下の為に、無理に戦して、家が滅んだら元も子もない。」
「……そうですね。」
「お茶々……。ようやってくれた。
周りの言葉に流されず、惑わされず、よう耐えてくれたな。
アンタが豊臣家存続と秀頼の事を考えくれたお陰で、今日というめでたい日を迎えたわ。」
茶々はふっと笑う。
「私のした事なんて、たかが知れてます……。
ひとえに、豊臣家の存続をと思ってのこと。
それから……高台院様や竜子姉様たちが支えてくれたお陰です。」
「まぁ!」
二人は改めて笑い合う。
春の宴は、どこまでも続いていた。




