知らん
佐和山城。
春である。
城内の畑では、三人の男が黙々と作業していた。
石田三成。
加藤清正。
福島正則。
天下に名を馳せた武将たちだ。
なお、やっていることは薬草のタネ撒きだった。
「そこ、もう少し間空けろ。」
「こんぐらいか?」
「うん。」
三成は頷く。
「ほな次。」
「おう。」
平和だった。
しばらくして、正則が何気なく口を開く。
「そういや。」
「ん?」
「俺、国替えなったわ。」
三成の手が止まる。
「どこ?」
「長浜や。聞いて!三十二万石やで!加増や!」
「ふーん。」
三成の手が再び動き出したので、正則は眉をひそめる。
「反応薄ない?」
「国替えやろ?」
「そうや。」
「なら国替えや。」
「そうやけど!」
清正が吹き出した。
「相変わらずやな。」
「そうか?」
「そうや。」
正則は肩を竦めた。
「まぁ、幕府からしたら都合ええんやろ。」
「何が。」
「近いから。」
「何が。」
「お前や。」
三成は首を傾げ、正則は呆れたように笑う。
「困ったら相談しに行けるやろ?」
「ああ。」
「あと、俺も来やすい。」
「それはそうやな。」
「それだけかい。」
「それだけや。」
清正は笑いを堪えながら種を撒いていた。
「そういや、石田はこのままか?」
三成はふっと小さく息を吐く。
「ああ。動かす理由が無いって言われたらしいわ。」
「確かにな……。」
「それより……お前はええんか?」
三成が清正を見る。
「何が。」
「肥後。空けっぱなしにしとる。」
「今回は儀礼での上洛や。」
清正は手を動かしたまま答える。
「終わったら帰る。」
「そうか。」
「そうや。」
再び静かになる。
天下人が決まり、世の形が変わろうとしているのに、会話は畑から動かない。
やがて正則が思い出したように顔を上げた。
「そういや。」
「ん?」
「忠興、来たか?」
三成は吹き出した。
「ああ、来たで。」
「やっぱりか……。」
「来たか……。」
清正と正則は同時に遠い目をした。
「幽斎様と一緒に。」
「やっぱりや。」
「予想通りやな。」
三成は笑いながら続ける。
「門の前で固まっとった。」
「何刻。」
「一刻半ぐらい。」
「長いわ。」
「長いな。」
「最後は?」
「幽斎様に首根っこ掴まれて、引き摺られて来たわ。」
沈黙。
「……。」
「……。」
「忠興やな。」
「忠興やな。」
「忠興や。」
三人は揃って頷いた。
ふと、清正の手が止まり、空を見上げる。
「どうしたん?」
「俺ら……何のために戦ってたんやろ。」
「……ん?」
三成と正則は顔を見合わせる。
「太閤殿下が天下取って……。秀頼様が跡継いで……。んで、気付いたら、徳川の天下や。」
沈黙。
そして、三成が息を吐く。
「知らん。」
「ええ〜?」
三成は肩を竦める。
「寧々様と淀の方様は、豊臣家の天下より、豊臣家の永続を望まれた。
豊臣家を残すために戦った……そう思うたらええんちゃうか?」
三成はタネ撒きを再開する。
「……んまぁ!考えたところで、答えは出んでぇ!なったもんはなったんや!
これからも、俺らのやる事は変わらん!
それでええがな!」
正則もタネ撒きを再開した。
「……せやなぁ。」
清正も気を取り直して、タネ撒きを再開した。




