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本人が一番困惑してます

慶長七年。


石田三成、挙兵していない。


直江状、届いていない。


そもそも、家康は秀頼の養育や政務で忙しくて上杉を煽っていないし、上杉もそれどころではなかった。


毛利は領地経営と後継者問題。


宇喜多は家臣団の仲裁。


大友は領地復興。


東北勢は雪。


島津は島津。


小西行長や片桐且元も、それぞれの仕事で手一杯だった。


結果――


徳川家康は朝廷より征夷大将軍への任官を受けた。


名実ともに天下人である。


大坂城にて、任官の報せを受けた家康は、しばらく無言だった。


「……正信。」


「はい。」


「儂、何かしたか?」


本多正信は少し考えた。


そして真面目に答える。


「朝廷への工作。」


「うむ。」


「秀頼様の養育。」


「うむ。」


「奉行衆の仲裁と調整。」


「うむ。」


「諸大名との折衝。」


「うむ。」


「その他諸々の調整。」


「うむ。」


家康は腕を組んだ。


「……戦しておらぬよな?」


「しておりませぬ。」


「会津討伐を考えておったが……。」


「出来ませんでした。」


「……なんで?」


正信は顔を逸らした。


「某が聞きたいです。」


沈黙。


「……。」


「……。」


家康は天井を見上げた。


「天下人とは、こんなになるものじゃったか?」


「某も存じませぬ。」


「そうか。」


「そうです。」


再び沈黙。


やがて正信が口を開く。


「ただ。」


「何じゃ。」


「皆、殿のところへ相談には来ました。」


「うむ。」


「毛利も。」


「来たな。」


「宇喜多も。」


「来たな。」


「上杉も。」


「来たな。」


「大友も。」


「来たな。」


「奉行衆も。」


「来たな。」


正信は一拍置く。


「皆、殿を頼りにしておりました。」


家康は少しだけ目を細めた。


「……そうか。」


「はい。」


「そういうものか。」


「そういうものかと。」


しばらくして、家康は深く息を吐いた。


「まぁ、なってしもうたもんは仕方あるまい。」


「左様ですな。」


「働くか。」


「はい。」


翌日、家康は茶々に呼び出された。


「此度の征夷大将軍の任官、誠におめでとうございまする。」


茶々は静かに家康を祝った。


ここで、普通なら……

『てめぇ!豊臣家から天下を奪ったな!』

『家臣の分際で天下人とはどういうつもりだ!?』


などなどの罵詈雑言を浴びせるところだろう。


しかし……


超現実主義な茶々は違う。


「徳川殿……いえ、上様。」


「……はい。」


茶々は立ち上がり、家康の前に座る。


その目は怒りに支配されていない。困惑の色もない。


ただ、"秀頼の母"として、"豊臣の母"として、座っている。


「お願いがございます。」


「何なりと。」


「高台院様をはじめ、私たち豊臣家が望むものは、家の存続。」


「はい。」


「それから、秀頼の後見を。」


「承知いたしました。」


そして、茶々は外に視線をやる。


「最後に……。これは私の願いです。」


「はい。」


「これから先……民を燃やさぬように……。」


静かに、しかし、はっきりと強い口調だった。


「……お頼みいたします。」


茶々は深く頭を下げた。


「お任せ下さい。」


家康もまた、茶々へ頭を下げる。


その頃、佐和山城。


「父上ー!」


「何やー!」


重家が廊下を駆けて来る。


「徳川様、征夷大将軍になったらしいで!」


「ほう。」


三成は薬草を干しながら頷いた。


「天下人や!」


「そうか。」


「驚かへんの?」


三成は少し考えた。


「まぁ。」


「うん。」


「妥当やろ。」


「終わり!?」


「終わりや。」


重家は呆れた。


その時、畑の方からガサガサと音がして、三成の目が細くなった。


「……おるな。」


「ん?」


「猪や。」


三成は立ち上がった。


「父上、話終わってへんのやけど。」


「猪の方が大事や。」


「そうなんや。」


天下人が決まった日も。


佐和山は平和だった。

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― 新着の感想 ―
本来の歴史だと命燃やして『今こそ自分が何とかしなきゃ』と反徳川として立ち上がった三成がこの時空だと燃え尽きちゃって帰農したから「関ヶ原の合戦」の基点が潰れてるのよね
百姓には天下より畑を荒らす猪や鹿を狩るべし慈悲は無い。
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