ヘタレと軍師
石田三成隠居から早くも一年。
黒田長政は、大坂城下黒田邸の玄関に立っていた。
黒田家臣の母里太兵衛は、主人の背中をじっと見つめる。
「……殿。」
「……行って参る。」
「はい。」
5分後。
まだ動かない。
「殿。」
「行って参る……。」
10分後。
「……殿。」
「うん……。分かってる。」
更に10分後。
「……早よ行けぇぇぇー!!」
太兵衛、ついにキレた。
「分かってる!分かってるって!」
「分かってんやったら、早よ行ってください!
ほら!嘉明様も!いつまで座っとるんや!」
長政を迎えに来たはずの加藤嘉明は、立ってすらいない。
「あああーー!!佐吉の兄ぃ、絶対怒っとるわぁぁー!!今更何しに来たんやって言われるんやぁぁ!!」
「うるさっ。」
太兵衛は呆れていた。
大の大人が、子供のように駄々を捏ねている。
「太兵衛……付いて来てくれ。」
「無理です。」
「頼むわぁ……。」
「無理ですって。」
「太兵衛ぇ〜。」
「無理です。殿が留守にする間、誰が留守を預かるんですか?」
「利安と之房がおるやないかぁ〜。」
「あの二人はまた別の御用があるんですよ!」
太兵衛は面倒くさそうに、息を吐く。
「ほら!早よ行かな!まぁた、次行く〜、になりますよ!
去年から、何度もそう言うて、延期してるでしょ!」
太兵衛は、嘉明の首根っこをヒョイと捕まえて立ち上がらせた。
「あああーー!!あかん!!足が震えて行かれへん!!」
「七本槍が何言うてんやっ!!早よ行かんかいっ!!」
太兵衛が二人まとめて外に放り出そうとした、その時……。
「なんや、まだ行ってへんのかい。」
廊下の奥から、官兵衛の呆れた声が響く。
「父上……。」
「官兵衛様ぁぁ!!頼んますっ!!付いて来てくださぁぁい!!」
「……ん?」
官兵衛は太兵衛を見る。
太兵衛は小さく首を横に振る。
「先程から、この調子です。」
「何してんねん……。」
「官兵衛様ぁぁーー!!兄ぃ、絶対怒っとるっ!!俺と長政が姿見せた瞬間、鉄砲構えるんや!」
「そこまでやるかぁ!
虎之助と市松は帰って来たやろが!」
「無理やぁぁぁーー!!俺は無理やぁぁー!!」
「……はぁ。」
官兵衛は額を押さえた。
「父上……付いて来て下さい。俺と嘉明だけじゃ、無理や。」
「……お前もか。」
官兵衛は全てを悟った。
こりゃ、自分が連れて行かないと、二人は一生玄関から動かないと……。
「……太兵衛、儂も出る。支度せぇ。」
「大殿……。」
「このままやったら、ずっと玄関に張り付いたまんまや。」
「……はぁ。かしこまりました。」
こうして急遽、黒田官兵衛の佐和山行きが決定した。
佐和山へ向かう道中、官兵衛はずっとぼやいていた。
「ほんまに……。おっさんをこき使うなよ。」
長政と嘉明は縮こまっていた。




