早よ決めろ
その頃、それぞれの領地では……
上杉景勝は家臣らを集め、雪対策について協議していた。
宇喜多秀家は揉める家臣たちの仲裁に走り回っていた。
大友義統は復興のため、領内を飛び回っていた。
そして、毛利輝元はというと……
「うーん……。」
悩んでいた。
「うぅーん……。」
まだ悩んでいた。
「むむむ……。」
やっぱり悩んでいた。
部屋の外。
襖の隙間から中を覗いていた二人の若者は、顔を見合わせる。
「まだ悩んどるわぁ。」
「悩んでますねぇ。」
毛利秀元と小早川秀秋である。
二人は揃って溜め息を吐いた。
実はこの二人。少し前までは仲が悪かった。
『余所者がぁ!』『はいはい。』というやり取りを繰り返していたのだが。
ある日、お互い本好きであることが判明。
気付けば本の貸し借りをする仲になっていた。
人の縁とは不思議なものである。
「今日はどの辺で悩んどるんじゃろ。」
秀元が呟く。
「跡目でしょうねぇ。」
秀秋も頷いた。
「殿の御子である松寿丸様が継ぐのが筋でしょうが……。」
「家臣らが納得せん。」
「ですなぁ。」
秀秋は肩を竦めた。
「人妻を強奪し、その女に生ませた子、という見方をする者もおりますし。」
「こら、言い方。」
「でも、事実ではないですか?」
秀秋がケロッと答えるので、秀元は困った顔で笑う。
「……でも、まぁ……確かに。
皆も口に出さんだけで、思うておるじゃろな。」
二人は揃って遠い目をした。
少しの沈黙。
「……秀元様は?」
「何が?」
「跡目です。殿の養子にございます。」
秀元は困った顔をする。
「それに、家臣らや領民らの信頼も厚い。
秀元様が継ぐのが、一番丸く収まるのでは?」
しかし、秀元は首を横に振る。
「……いや、私が継いだら家が割れる。」
「……え?なんで?」
「嫡流じゃない、と言うてくる者が出てくるわ。」
「……ああ。」
秀秋は察したが、まだ納得していない様子。
「秀元様かて、毛利元就公の孫で、殿の養子やのに……。」
「ははは。毛利の嫡流は殿じゃけえのぉ。
能力と家が納得するかは、また別の話じゃ。」
「なるほど……。」
二人は頷き合う。
そこに……
「その通り。」
突然声がした。
「「うわっ!?」」
二人が飛び上がる。
いつの間にか、南の大方が立っていた。
「み、南の大方様。」
「盗み聞きは感心せんなぁ。」
「申し訳ございません。」
「申し訳ありません。」
即座に頭を下げる二人。
南の大方は苦笑しながら縁側へ腰掛けた。
「まぁ、気持ちは分かるわ。」
二人も並んで腰を下ろす。
「私が子を産めれば、一番早いんじゃけどなぁ〜。」
「……。」
「……。」
微妙な沈黙。
「こればっかりはなぁ。」
「そうですねぇ。」
「そうですね。」
秀元と秀秋は頷き、南の大方は空を見上げた。
「松寿丸を私の養子にして、そのまま跡目にする手もある。」
「それが一番丸い気もします。」
「問題はそこまでの過程じゃ。」
「そこなんですよねぇ。」
三人同時に溜め息を吐いた。
「私があの子を守れば守るほど……あの子の身を危うくするかもしれんしな。」
「万が一にも、松寿丸様の身に何かあったら……。」
秀秋が呟くと、南の大方は即答した。
「真っ先に疑われるのは私よ。私の身が潔白であってもな。」
「ああ。」
「ですよねぇ。」
秀元と秀秋は納得した。
再び沈黙。
「でもなぁ。」
南の大方が口を開く。
「はい。」
「はい。」
「当主として、バシッと早よ決めてほしいわ。」
二人は大きく頷いた。
「分かります。」
「めっちゃ分かります。」
「はぁ〜……ウチの亭主は、優柔不断じゃけぇ……。」
「分かります。」
「本当に。」
三人は揃って部屋を見る。
襖の向こうから、「うーん……。」という声が聞こえた。
三人は顔を見合わせる。そして……。
「「「早よ決めろ。」」」
見事に声が揃った。




