EP9. 拾った少年は元暗殺者でした
「皇女様 ごきげんよう」
「先生ごきげんよう」
今日は歌の授業。
黄緑色の淡い髪に、金色の羽の髪飾りをしたレイチェル先生。
先生の周りには、小さい妖精達がフワフワ飛んでいた。
妖精の一人が私を見つめたかと思うと、他の妖精を呼び出した。
「この子、前と光の色が違うね?」
「ねー?何でだろう? 」
「不思議―! 」
―妖精の声が聞こえる……!―
色が違うという言葉を聞いた私は、瞳が少し揺らぐ。
妖精達をあまり見ないように、視線を天井に向けた。
~~♪
ピアノの優しい音色と先生の甘い優しい声が部屋に響く。
「お歌始まった!」
「このお歌、好き!一緒に歌っちゃおう」
「私も~レイチェルの声、好き」
妖精達は、先生と一緒に歌いながら嬉しそうにピアノの上を飛んでいる。
曲の途中で、キラキラとした粒子が妖精の羽から出て先生を包んでいた。
―綺麗……。先生の歌も癒される~―
先生と妖精達の歌声に、そっと目を閉じ聞き入っていた。
「では、皇女様。今私が歌った通りにお願いします」
「はい……」
あ“~~~♪~~~
歌詞の書かれた紙を両手で持ちながら必死に歌った。
ピアノに乗った妖精達は、顔をしかめ小さな手で耳をふさいでいる。
「きゃぁあー!」
「な、なにこのお歌」
「やめてぇー」
―ごめん……。私の歌、下手で……―
私は気まずくなり、どんどん声が小さくなっていった。
「……歌詞の通り歌えてますわ!ただ、音程をもう少し……」
苦笑いしている先生と、ぐったりしている妖精達。
それから音程などを、丁寧に指導されながら授業は終わった。
「痛い……」
椅子に座ったまま寝ていたようだ。
真っ暗な部屋に、優しい月明りが差し込む。
「……あれ、今何時!?」
タブレットを見ると深夜0時を過ぎている
「今日も、お願いね」
「うん、いってら! おやすみ~」
影武者を城に置いてワープをすると、家の電気が消えていた。
―何かあった? いや寝ているだけ?-
バンッ!
ドアが勢いよく開くと、私のお腹に向かって少年は突進してきた。
「おせえぞ!!」
「ごめんね、遅くなっちゃって。今料理作るから」
「……もう来ないのかと思った」
小さく少年が呟いた。
「え?」
「な、なんでもねぇ!」
「さっ、お家に入ろう?夜は冷えるよ」
「チッ……坊やじゃねぇし」
頬を膨らませた少年と一緒に家に入る。
テーブルや棚にあった食材は、綺麗に食べ終わっていた。
「破棄」
ビニール袋を振ると、サラサラと透明になり消えた。
―便利すぎる! 今日は何を作ろうか―
テーブルに、煮込みうどん。ほうれん草の胡麻和え。卵焼き。
が並んだ。
「うまい……!」
「不思議だ、この草は甘いんだな!」
初めて見る料理に少年は驚きながらも、美味しそうに食べてくれる。
食後のオレンジをテーブルに置いた時、少年が話しかけてきた。
「ここに居ない間は、どうしているんだ?」
―困ったな……城で授業を受けてるって言えないし―
「働いてるよ」
「まぁ、そうだよな。いつも遅いからさ……」
「坊やも前は働いてたの?」
「ん?あぁ」
「そっか、大変だったのね」
私は椅子に深く腰を掛けた。
「何の仕事していたのか聞かないのか?」
「前に言ったでしょ?坊やが話すまで、私は何も聞かないよ」
「……」
少年は食べる手を止め、腕を組み難しそうな顔をしている。
「そんなに悩むなら言わなくていいよ? 」
「お前は、仕事の種類で偏見とかあるか? 」
「無いよ。どの仕事も大変だと思うから」
少年は深呼吸をした後 小さい声で
「あ……暗殺……」
「……暗殺?それって、人を殺すってことで合ってる?」
「あぁ」
「大人を殺すには体格差があるじゃない?」
「直接手を下すのは、別の大人がやるんだ。
俺は、毒殺系とか潜入調査の方」
「あの夜、俺は相棒に裏切られたんだ。任務失敗をなすりられてな」
「そうだったの…。」
「その……嫌いになったか…?」
「いや、嫌いになってない。大変だったね」
私は首を大きく振った。
「その組織は今も坊やを探してるって事よね?」
「殺したと思ってるだろうが、死体が出てこない限り
‥‥‥諦めないだろうな」
少年が淡々と話している姿を見て、
子どもらしい環境で、過ごせていなかったのだと胸が締め付けられた。
「話してくれて、ありがとう」
私は微笑んだが、少年はうつむいてしまった。
重たい空気が部屋を包む。
―私が少年に出来ることは……―
「事情は分かった。少し調べものしてくる」
私は席を立つと別の部屋に行き、タブレットで調べ始めた。
「……あった」
【自分以外を永久に変化する方法】
※ 推奨年齢10歳以上
(必要素材:あまゆいの実)
『あまゆいの実』を対象者が摂取し、
3時間以内に光魔法で『変化の魔法』をかける事。
「あまゆいの実?後で図書館へ行って調べなきゃ」
少年が居るキッチンへ戻り
「ねぇ、因みに坊やって何歳なの?」
「ん?俺はたぶん、今年で9歳かな」
―あと一年か―
「なんでだ?」
「いや、特に意味はないよ」
タブレットを見始め 大きめの冷蔵庫と電子レンジ、テレビを買った。
【配送完了】
届いた冷蔵庫に食材を詰めて、壁にテレビを取り付けた。
「ちょっと来て―!」
「なんだよ、この箱! 」
驚いている少年に使い方を説明した。
―これで私が居ない時も食べれるね―
テレビは、前の世界のアニメが見れるようになっているらしい
試しにテレビをつけてヒーロー系のアニメを流した。
「明日はもしかしたら、ここに来れないかもしれない」
「うん……」
―あら、テレビに夢中ね―
少年は眠そうな目で、頭も少し揺れ始めていた。
こう見ると年相応に見える。
本来こういう姿で生きていくのが普通なのだろう。
しばらく、小さい背中を私は複雑な気持ちで見つめていた。
「もう寝る」
少年はベッドに入った。
音楽の授業で下手くそだった私の声で、前世で聞いた子守歌を歌う。
「よいこ~だ~~♪」
「ふっ……へたく……そ」
軽く笑みを浮かべながら、すぐ少年は眠った。
「ふふ。おやすみ」
小さく私は呟き、少年の小さな手をゆっくり布団にしまうと
城へ帰ることにした。
家を出ると、少し冷たいが心地よい風が吹く
歌を口ずさみながら、空の三日月を見た。
~~~♪
ふと視線を感じて振り返ると、二人の妖精がフワフワと浮いていた。
昼間、城で見た妖精の色とは違う。紫色の服と銀色の羽をしている。
『やめてぇー』
音楽の授業で妖精が叫んだ声を思い出し、すぐ歌うのをやめた。
「歌が下手でごめんね……」
「ううん、あなたのお歌とっても上手」
「綺麗な光が見えたから、ここに来たの」
妖精に気を使わせてしまったと思った私は、苦笑いをする。
「元気ない? 手だして!これ、あげる!」
妖精は小さい種を私の手のひらに置いた。
「え、ありが……あれ? 」
お礼を言おうとしたら消えてしまった。
何の種か分からないけど、後で植えてみようと思い
種をアイテムBOXへしまった。
「あらら……」
城へ戻ると影武者は、今日も盛大にイビキをかいて寝ている。
アイテムBOXにいつも通りしまった。
そして私は、もう一人の影武者を作る事にした。
細かく設定をイメージして創造スキルを発動する。
「初めましてマスター」
「これからよろしくね」
「仰せのままに」
―少し受け答えが固いけど、それは、おいおいで……―
時刻は3時を過ぎていた。
「明日はお茶会か……いい子が多いといいな」
ベッドに入った私は、期待と不安に胸を膨らませながら眠った。




