EP10. いざ、初お茶会で転生者探し
―今日が、来てしまった―
私は午後からのお茶会を前に、リストを書き写したノートへと目を通していた。
「ルーカスはすごいな。短時間で、ここまでのリストを作れるなんて」
―気になっていた候補をおさらいしなきゃ―
【クリストファー】鍛冶屋職人の息子
好きなもの:たこ焼き・かわいいもの・ぬいぐるみ。
性格:温厚。
【デイジー】宝石商の一人娘
好きなもの:某赤リボンの猫、シュークリーム、アクセサリー
性格:お転婆。頑固
―『たこ焼き』と『某赤リボンの猫』この2人は転生者か、もしくは親が……。―
考えを巡らせていると、扉を叩く音が響いた。
コンコンッ
「皇女様、そろそろお時間です」
ノートを引き出しにしまった後、背筋を伸ばし廊下へ出る。
「その花瓶は広場じゃないわ! 来客の部屋よ! 」
会場に近づくにつれて、メイド達が慌ただしく動いている。
「上手くいくと良いな」
私が小さく呟くと、前を歩いていたメイドが振り返り微笑んだ。
「皇女様なら大丈夫ですよ!自信を持ってください」
「うん、頑張る!」
少し歩くと、初めて見る景色が広がっていた。
白い渡り廊下。小さい噴水。宝飾が殆どないドアが開いた部屋を通り過ぎていく。
―特定の場所しか行き来してないから、新鮮だな―
城の中央広場まで、近づくにつれて遠くから子供の声が聞こえてきた。
ガヤガヤ……
緊張した様子の子、おしゃべりに夢中な子、自慢げに何か話している子。
会場に到着すると
「その料理はこちらへ!」
聞いたことがある声の方へ、視線を向けた私は目を大きく見開いた。
―田島さんご夫婦だ! ー
今のこの姿では、変身していないから気軽に挨拶が出来ない。
駆け寄りたい気持ちを、グッとこらえてメイドに尋ねた。
「あちらの男性は?」
「お茶会の料理担当者です。
食堂の評判を聞きつけた執事が、呼び寄せたらしいですよ」
田島さんが作るなら、日本のお菓子があるのではないかと
私の心は期待に満ちていた。
―テーブルに乗せられている銀のトレーを覗きたい―
「皇女様……?」
―ハッ!無意識にニヤニヤしちゃってたわ!―
「た、楽しみね! 」
私は苦笑いをしながら、会場を見渡す。
食べ物の事を考えていたら、さっきの不安が少し消えていた。
暫くすると、ルーカスが会場の中心で手を叩く音が聞こえる。
パンパンッ!
「ご歓談中のところ申し訳ございません。
皇女様からご挨拶がありますので。静かにお願いいたします」
静まり返る会場。
「皇女様、ご挨拶を」
後ろに下がるルーカスとすれ違うように、私はゆっくり歩み
真ん中で足を止めた。
「本日は、お忙しい中参加して下さり誠にありがとうございます。
この場は、正式な社交場ではありません。
楽しい時間を一緒に過ごしましょう」
頭を下げると会場は拍手に包まれた。
「ご家族は、別室へご移動を願います」
ルーカスのアナウンスで、子供達の家族がぞろぞろと移動していく。
さっきまで、笑顔で話していた子供たちは
少し不安そうな表情をし始めていた。
―さて、気になっていた2人はどの子なんだろう?―
私は、ゆっくり周りを見渡す。
「うーん。分からないわ……」
外見の特徴が分からない状態で、どうやって探そうと悩み始めた。
「皇女様!お会いできて光栄です!」
声がした横を見ると、3人組の男の子達が恰好つけるような顔で立っていた。
「初めまして、来てくれてありがとう」
私は微笑むと、自己紹介が始まった。
―あれ、向こうから話しかけるのは……まぁいいか―
「僕は オリバーと申します。王家直属の薬事関係の息子です。」
「右はトーマス、左はルドルフ いずれも同じです
本日初めてお会いできて、皇女様の美しさに見惚れてしまいました~」
―……子供なのに、よく恥ずかしげもなく言えるわ。私の顔引きつってないかな? ―
「あら、お世辞だとしても嬉しいわ。本日は楽しんで下さいね」
「あ、皇女様……!お話を……」
私は頭を軽く下げ、歩き出した。
それからというもの、向こうから話しかけられては
いかに自分の階級や両親の職業が立派なのかを話される。
ギラギラした子供達との挨拶が続いて疲れてしまった私は、
会場から少し離れた場所に行き溜息をついた。
―あからさまな『ごますり』は、前世も今も嫌いよ―
会場を背にして目を閉じた。
緊張と、ずっと話していたから喉が渇いた私は
軽食があるテーブルへ移動した。
長いテーブルには、プチシュークリーム、プリン、エクレア、
鮮やかな色をしたフルーツ大福……。
どれも立食用に一口サイズで並んでいた。
―うわぁ!全部美味しそう~! 日本のデザート懐かしい! ―
飲み物は見本が並べられていた。
メロンソーダ、ジンジャエール、イチゴミルク、
オレンジジュース、紅茶……。
「どれになさいますか?」
私が目を輝かせ見ていると、田島さんが、笑顔で聞いてきた。
「ジンジャエールで! 」
シュワシュワ……
グラスに入った飲み物を貰い、一気に喉に流し込む。
「っぷはぁ~!!これよ!喉で味わうこの感じ。最高!!」
「ぷっ」
後ろを振り返ると、メイドが口に手を当てて肩を震わせている。
―ハッ! メイドに見られた―
「ふははは! 皇女様、良い飲みっぷりですな! 」
「えへへ。美味しくてつい……」
田島さんが笑っていると、横の奥さんの目が泳ぎ手を口に当てていた。
「夫の不敬をお許しください……」
「これも不敬なのか? 」
田島さんはキョトンとしている。
「いえ。お気になさらず! 次は、メロンソーダで」
「っ…ふっ、ふふ。はい」
メイドは肩を震わせながら、次の飲み物を注ぐ。
メロンソーダはゆっくり飲もう……コップを受け取った時
後ろから叫び声が聞こえた。
「キャァー!」
「あんた何てことすんのよ!! 」
グラスを置き声のする方へ向かうと、
目の前には、激怒している淡い桃色のドレスを着た令嬢と
地面にぺたんと座り、怯えている黄色いドレスを着た令嬢が居た。
激怒している令嬢と目が合うと、私に話しかけてきた。
「この者が、私のドレスに飲み物をわざとかけたんですの!」
「いえ、わざとではありません……転んでしまって」
「嘘よ! 見苦しいですわよ!! 」
―すごい怒ってる―
周りに他の子供たちが集まって来た。
「皇女様、信じてください……私は……」
泣き出してしまった座ったままの令嬢を見て、
桃色のドレスを着た令嬢は扇をバチンッと閉じ怒鳴った。
「おだまりなさい!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。お二人は、怪我はない? 」
「えぇ」
「はい。ありません」
「このドレス、この日の為に仕立て直した特注品ですの
どうしてくれるよ!!」
「まぁまぁ……」
「皇女様だからって、口をだされるのはどうかと思いますわ!」
―どんどんヒートアップしてる―
「分かりました。そのまま動かないでください」
「なっ!私になさるつもりですの?!」
まだ、喋り続けそうな令嬢に私は溜息をつく。
「はぁ……チッ!」
この終わりそうもない押し問答の喧嘩と、茶会の疲れで
何かが『プツッ』と切れた気がした。
私は、令嬢の腕をグイッと自分に引き寄せると耳元で呟いた。
「うっせぇなぁ。いいから、だまれよお前」
低く小さい声を聞いた令嬢は、目を見開き青ざめると静かになった。
体勢を戻し、令嬢達の汚れ部分に向けて手をかざす。
ブクブクッ
サラサラ……
本で読んだ、水と風を合わせた洗浄魔法。
手を空へ向かって上げると、水雫の粒がキラキラと消えていった。
「わぁ、綺麗」
「キラキラだ~! 」
後ろから子供の声が聞こえた。
「これは、先ほど私が失言してしまったお詫びです」
淡いピンクの光が令嬢の肩下に集まり、バラのブローチが現れた。
「あ……ありがとうございます……か、家宝にいたしますわ」
「あなたの名前を教えて頂戴」
「私はアーディク・デイジーと申しますわ。
お騒がせしてしまい、大変申しわけございません。」
綺麗なお辞儀をしたまま、令嬢は頭を上げなかった。
「両親とは関係ありませんので、罰は私が受けますわ……」
令嬢の肩は震えている。
―えぇぇ!? 探してた一人だ―
私は驚きのあまり、目を大きく見開いて一瞬固まってしまった。
「頭を上げて頂戴。今度、お手紙を書いてもよいかしら?」
「はい……」
令嬢は先程の威勢は無くなり、目を合わせず地面を見つめている。
―どうしよう。怖がらせちゃったよね?―
それから、私は座っていた別の令嬢を起こすために歩み寄った。
「立てるかしら?」
今まで、へたり込んでいた令嬢に手を差し出す。
「はい……」
黄色いドレスを着た令嬢が、ゆっくり立ち上がる。
その手は少し震えていた。
「あなたの名前も聞いていいかしら?」
「はい、私はヴァン・ネリアです。」
すると野次馬の集団の中から、
ミルクティーのふわふわした髪をした男の子が
トコトコこちらにやって来た。
「はじゅめまして、皇女様」
―カミカミで可愛い~。天使かな?ん?天使だね? ―
「初めまして、どうしたの?」
「あの…みんな悪くないんです。」
「どういうこと?」
「僕、見たんです。他の令嬢達が黄色い女の子を囲んで、
飲み物のグラスを渡していたのを……」
下を向きながら話す男の子。
「よく話してくれたわ。安心して?
私は怒ってはいないし、罰を与える事もしないわ」
「よ、よかったです……!」
初めて私の目をしっかり見て微笑んだ。
「あなたお名前は?」
「ハーデン・クリストファーです」
―よっしゃ!気になっていた子は、これでコンプリート!―
「また今度お茶会に誘うから来てくれるかな?
そちらのデイジーさん、ネリアさんも一緒に」
三人はゆっくり頷いた。
―これで、やっと見つけたわ。―




