EP6. 気づいたら瀕死の少年を拾っていた件
転移地点まで到着した私は、
タブレットを取り出しボタンを押そうとした時
ガタッ!
「ぐっ……ぅ…」
物音と同時に聞こえてきた呻き声に、私は手を止めた。
暗闇の中で、血の匂いが微かに漂う。
―動物の鳴き声かな……?―
物音の方へ近づくと、そこには
お腹を抑え、ぐったり壁に寄りかかっている少年が居た。
「ねぇ、君! 大丈夫!? 」
薄暗くて分からなかったが、抑えていた小さい手からは血がゆっくり流れていた。
浅く、途切れ途切れの呼吸。
他の場所も見ると、服が切られた跡が見える。
「どうしよう……」
そっと手を少年の心臓付近にあてた。鼓動が不安定で何かがおかしい。
「うぐっ… ぅ…」
少年はうめき声を出し苦しそうにしている
―とりあえず城に帰れないわ。別の森にでも転移するか―
地図に目をやると、城から離れた森にも家マークがあったのを見つけた。
「よく分からないけど、ここに飛んでみるか」
タブレットから淡い光が私と少年の体を包み
目を開けると、部屋の中へ私達は転移していた。
「ここは、誰の家なの?」
見渡すと、素朴なベッドと木の机と椅子以外に家具はなかった。
―今はそれより、この少年を何とかしないと―
『皇女様は、全属性が使えますよ』
緑の女神に言われた言葉を思い出す。
「私、光属性習ってないけど上手く使えるのかな……」
苦しそうな少年を見て、助けられるのか不安になりながらも
ベッドに寝かせた。
―この子、すごい軽い……―
手を少年へ向ける。
最初は、怪我の状態が分かるようにレントゲンをイメージした。
―お願い。上手くいきますように―
【診断完了】
通知音が頭に流れる。
すると該当箇所が少年の体に、点滅するように光り始めた。
お腹の刺し傷以外にも、いくつか負傷している。
腕、足……。なぜか心臓だけ黒い。
「赤は見たことあるけど、黒色に光るの初めて見たな」
【治療を開始しますか?】
システム音の後でポップウィンドウが目の前に現れた。
【傷の箇所が多いため、開始できません。】
「こんな時にエラーって何なの!緊急なのに!!」
思わず目の前にあるウィンドウに怒鳴った後、
落ち着かせるように一呼吸をして手を再びかざした。
「生きて……絶対に生きて……」
傷が塞がるようなイメージをしながら魔力を流す。
初めて使う魔法だからなのか、少年を包んでいく光は不安定だった。
―魔力が上手く出せれてない……いやだ、絶対に助けたい―
額から嫌な汗が頬をつたう。
「お願い。お願いよ!!もっと魔力を!」
叫びながら魔力を一気に押し出すと、手から大粒の光が溢れだした。
腕や足の傷が、少しずつ塞がっていくのを見て少し安心した時。
ズッ……ズズ
少年の体から黒い煙のようなものが、体の上へ集まり球体になっていった。
ドクンッ
「っ…くっ…!何なのこれ」
私の胸が強く脈打ち思わず顔を歪めると、
黒い煙の一部が私の手に絡みついてきた。
「……っ!?」
頭の中に流れ込む感情の言葉たちが流れ込んできた。
―憎い……消えろ。許さない。殺す。寂しい。―
「くっ…やめて……っ」
視界がぼやけ、黒く染まりかける。
その時――
パチンッ
何かが弾けた音と共に、絡みついていた煙は黒い球体へ吸い込まれていった。
―どういうことなの……これ―
目の前の大きな黒い塊に、怖くなり手を下げようとした。
「う“っ……」
傷は塞がっているはずの少年が、眉間にシワを寄せて苦しむ声が聞こえる。
―私には、無理なの……?―
「たすけ……て……」
ハッ!少年の声で、私は我に返った。
―弱気になってはダメだ!そうだ、私は諦めない……!!―
ゆっくり瞳を閉じ、呼吸を整える。体の奥が熱い。
見開くと自然と言葉を発していた。
「爆ぜて消えろ」
黒い球の内側から光が放射状に現れ、徐々に大きい線になる。
パーン!
強い光と共に黒い物体は消えた。
「ハァハァ……消えた」
私は床にへたり込んだ。こんなに魔力を使った事は初めてだ。
「ゲホゲホッ! うぇ」
少年が何かを吐き出したのが見えた。
「そうだ、少年は……!」
私が慌ててベッドへ目線を向けると、真っ黒い塊が少年の横に転がっていた。
触れようと手を伸ばしたその時、
サラサラと蒸発していくように目の前で消えていった。
「よく分からないけど、終わったみたい」
少年は先ほどまでの苦しい呼吸から一転、すやすや寝息を立てている
布団をかけ、近くの椅子に私は腰を掛けた。
―それにしてもここの家は誰のものなんだろう―
タブレットを見ると、時刻は23時を表示していた。
「もうこんな時間!?城に戻らないと……」
―でもこの子を置いておけないし、この家が安全なのかも分からない―
暫く悩んだ私は、タブレットで女神へ電話をかけていた。
「ふぁい…」
「あ、寝てた?ごめんね!ちょっと色々あって……」
女神に私は今あった事や、この家の事を質問した。
「あ、言い忘れていました………!
その場所は城で何かあった時の避難所です」
私が許可した人しか入れないらしい。
家の細かい設定を、女神から教えてもらいながらボタンを色々押した。
【設定完了】
―すごい便利な機能だ……―
「ちなみに、女神の世界で人間の少年を預けることは出来ないかな?」
「さすがにできないですね……」
「そう………だよね」
女神の世界なら、攻撃してきたであろう人物から守られると思ったが
現実はそう上手くいかなかった。
女神との通話を終えた私は、深く息を吐いた。
「助けたけど、この先どうしよう……」
―1日1回ここに来るとして……でも、その先は?―
どんどん不安になってくる心と、色んな考えが頭をグルグル回っていく。
「とりあえず、先じゃなくて今出来る事を考えよう」
私は首を大きく振ると、テーブルにあったノートを破り筆を執った。
―見知らぬあなたへ
怪我をしていたので、治療しました。
食べ物は、テーブルの上に置いていきます。
また明日来ます。
とある平民より―
―起きた時に読んでくれるといいな―
手紙を書き終わると、タブレットの画面からアイテムBOXの一覧を見ていた。
「食べ物は……あった、あった!」
城で多めに出ていた軽食や、菓子などを非常食用として
取っておいた食品を、テーブルに置いていく。
「本当は消化の良さそうなものを食べさせたかったけど……」
私は帰り際、そっと少年がいる部屋を覗いた。
変わらず、スヤスヤ眠っている。
「また明日くるね」
転移を使って城の私の部屋へ戻ると、ベッドには影武者が寝ている。
自分の変身を解除し影武者に手を当て、アイテムBOXへ入れてみた。
スッ
「寝ている状態でも入っちゃうの?!」
驚きながらも、疲れでそのままベッドへ倒れ込むように飛び込んだ。
「今日は色々ありすぎたな」
初めて使った魔法。チートだと思っていた自分の能力が
実際使ってみれば、不安定で上手く最初から使えない。
『転生者はチートで無双できるはず』
勝手に自分の力を過信していたのかもしれない。
「努力も必要だよね。ここは物語の中じゃない、現実なんだから」
ふと、少年の顔が頭の中で浮かぶ。
―あの少年、大丈夫かな……あんな小さい子が……―
「うーん。後、あの黒い煙は……なんだったんだろ?」
ごろんと寝返りをうち、天井へ向けた両手を見つめる。
指先にほんの一瞬だけ、黒い影が揺らいだ気がした。
「あれ? 気のせいか……」
眠気が襲ってきて、そのままゆっくり瞼を閉じた。




