EP5. カレー最高!異世界で日本食を!
「のどかだな~」
目的地へ向かって歩いていると、レンガ調の街並みが目の前に広がって来ていた。
楽器を使い弾き語りをしている人、笑いながら走り回る子供達。
買い物かごを持ちながら、談笑している女性たち。
美味しそうな照り焼きのタレのような香りがして、
足を止めると何軒か屋台が並んでいる。
「あら!屋台もあるのね。また後日来た時に買ってみようかな」
「いらっしゃい! この時間から、串焼きをもう一本おまけするよ~」
「果実の冷たい飲み物はいかがですか~? 」
屋台から活気ある呼び込みが聞こえてくる。
―まるで商店街みたいね。懐かしいな―
再び歩き始めると、すぐ先に古い木の看板が見えた。
「あ!見つけた! 」
目的地の看板を見つけた私は、店のドアノブに手をかけた。
カランカランッ
鈴の音が響き、扉を開けた店内には沢山のお客で溢れていた。
「いらっしゃい!お好きな席へどうぞ!」
明るい声で愛想がいい女性が、カウンターから出てきた。
私は、見渡した後で一番後ろの隅っこの席へ座った。
―やっぱり、隅っこが一番落ち着くんだよね―
「見ない顔だね? この町に来て日は浅いのかい? 」
メニューを差し出しながら、店員が話しかけてきた。
「最近この町に来たんです。お店のおススメメニューは何ですか?」
「ここは、この国の食べ物は殆どなくてね。珍しい異国のメニューが多いの。
そうだねぇ、生姜焼き定食とかカレーライスかね~」
「え?!カレーライス!? お米あるんですか!?」
「ああ、あるよ。うちの旦那がね、異国の食べ物を仕入れてるから。
あ、これも人気メニューだよ」
「じゃあ、カレーライスと生姜焼き定食ください!大盛で!!」
「量があるけど大丈夫かい?まぁ持ち帰り用に包めるから、
食べ残したら言うんだよ?」
―ここにしてラッキーだった!さすが私の直感は冴えてる―
私は、ここの世界に来て初めての日本食にワクワクしながら
タブレットでメニュー表の写真を撮った。
そう、家に帰った後でじっくり見返すためだ。
メニューの一部には、Oムライス・SOBA・Uどん・R-メン
飲み物にRッシー、レモンSワー。
―店主は、もしかしたら転生者なのかな……?―
目線をカウンターへ動かすと、男性がフライパンで調理している
50代くらいだろうか?少し白髪交じりだが黒髪でガタイの良い男性。
「おまちどうさん! カレーライスと生姜焼き定食。大盛だよ」
「ありがとうございます!わぁ~おいしそう。いただきまーす!」
私は手を合わせてから食べ始めた。
―美味しい……完全に日本の味だ!―
大人に変身したからなのか、ペロリとカレーライス食べ終わってしまった。
生姜焼き定食もあと半分で食べ終わりそうな時、またメニュー表に目を通した。
「すみませーん!唐揚げポテトセットとレモンSワーください!」
「姉ちゃん。美味しそうに沢山たべるね」
知らないギルド帰りだと思われる、おっちゃん達に話しかけられた。
「ここのお店は美味しいですよねー!ついつい色んなもの注文しちゃった」
「だろ? ここの味噌スープもうまいから、今度飲んでみな!」
「味噌汁!? ありがとー!飲んでみるー!」
暫くすると、唐揚げとポテトが机に並んだ。
レモンサワーの冷たいグラスの中は、パチパチッと音を立てている。
ゴクッゴクッゴク……
「ップハーッ! これよ! この爽やかな喉越し! 」
レモンの残り香りと、久しぶりの炭酸に笑顔になる。
「そして……この唐揚げとポテト! 輝いて見えるわ」
衣がサクッと揚がっているのが見ても分かる。
唐揚げをフォークで刺し、そのままかぶりつくと歯切れのよい音が静かに響いた。
――カリッ!
ゴクッゴクッ
―あー幸せだ~! 何杯でも飲めちゃうよ―
美味しさを嚙みしめるように、私は何回か頷く。
―♪
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その通知音は、夢中で食べていた私には届かなかった。
そのままお酒を飲んでいると
奥から先程まで調理していた男性がこちらへやってきた。
「美味しそうに食べてくれてありがとう。
さっき手を合わせてたけど、もしかしてあんた……」
「日本って所から来ました」
「やはり、あんた元日本人か。さっき手を合わせたの見て驚いたよ。
この国に来て、初めて見た光景だったからさ」
そういいながら、おじさんの目がうるうるし始めた。
「俺は、リモ。元の名前は田島 一、関東でレストランをやってたんだ。
あんたと話がしたいんだが、この後時間はあるか?」
―今は夕方くらいか、影武者置いてきたし 大丈夫かな ―
「分かった。私は元の名前は記憶がなくてわからない。
この世界ではサーシャと呼んでおくれ」
「もうすぐ息子が帰ってくるから、別室で話しが出来ればありがたい」
「了解! あ、追加で餃子一皿お願いします! 」
「ふははは!沢山食べてくれ! あと今日のお代はいらないよ」
田島さんはウィンクをして、カウンターへ戻っていった。
暫く店内で待っていると……。
「じゃ、父さんの代わり頼んだぞ」
「はーい」
厨房から聞こえてきた声からすると、どうやら息子さんが帰って来たみたいだ。
田島さんと目が合うと、私の席にやってきた。
「こちらへどうぞ、妻も一緒に話すから安心してほしい」
―気を使ってくれたのかな?―
部屋に通され、静かに椅子へと腰をかけた。
窓際付近の家具には家族写真が飾られている。
「さっきも言ったけど、元日本人に会ったのが初めてでね。
俺は20代の時にこの世界へ転生したんだ。最近、転生してきたのか?」
「はい、そうです。1週間も経っていません」
「もし、働き口に困っているならここで働かないか?
狭いけど、部屋はあるし給与は多くはないが
家賃なしで人並の給与は支払える」
店主の横に座っていた奥さんは、穏やかな笑顔で頷いていた。
―なんて優しい人なんだ―
平民に転生した店主は、私よりも沢山大変な事があったのだろう。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「そうか。サーシャが今、普通に生活が出来ていならいいんだ。安心したよ」
「可能なら、月に何日か働かせてもらえませんか?給与は要りません」
「好きな時に来てくれてかまわない。
賄いは好きなものを、いくらでも食べていいぞ! 」
「本当ですか!ありがとうございます!」
それから、リモさんと私は店に来る曜日を決めた。
私は月数回、ここで働く事になった。
「魔法が使えるので皿洗い。空間をきれいにすることは出来ます!
ではよろしくお願いします!」
私は、笑顔で頭を下げた。
―これで日本食を沢山食べれる! ―
「では、今日の支払いはこちらで」
小袋をカウンターに置いた。
「いいって!今日は! 」
「やっぱりちゃんと、お客として支払いたいんで」
「律儀だな~、わかったよ。受け取るよ。ありがとうな!」
「私がドアを閉めたら開けてくださいね? 」
店から出た私は、自分のお腹をさする。
「あー美味しかった!」
最初に転移した位置へ、走り出そうとした時
田島さんの声が後ろからし聞こえた。
「サーシャ!! 多すぎるってええ!!」
振り返らず、手をひらひらさせてから私は走りだした。
金貨を5枚置いてきたが、『多すぎ』と言われるほどなのか分からなかった。
―金貨しかなかったからね……後で、お金の価値を調べておかないと―
平民の一般家庭が3年暮らせる量だったのを知ったのは、しばらく先のお話。
そして、この時の私はこれから起こる事を想像していなかった。
これから見守る事になる、きっかけが迫っていることを……。




