EP4. 壁の次は先生を飛ばしました
―うわぁ……。盛大に、やってしまった……。―
私は、自分の手と、壁が綺麗に無くなった場所を交互に見ていた。
手には、まだ微かにキラキラと光の粒が残っている。
先生へ視線を向けると、まっすぐ空を見つめていた。
「……先生、すみません。部屋を壊してしまって……」
「皇女様。こっ、これはどういうことですか!?いつから」
先生に両肩をつかまれ、私は大きく揺さぶられていた。
―私もその理由がしりたいよ―
先生は興奮した様子で、怒涛のマシンガントークをし始めた。
バン!!
勢いよく、ドアが開かれた音の方へ視線を向けると、一人の騎士が入ってきた。
「皇女様!!いかがなさいましたか?! 」
騎士は壁が無くなった空間を見て、その場で動きを止める。
「こ、これは一体、何が……? 」
先生は私の両肩に置いた手を、今度は騎士の両手に変えた。
「聞いてください!!皇女様のお力で、この壁を吹っ飛ばしたんです!!」
「こ、これを皇女様が……」
騎士は目を大きく見開き、私の方へ視線を向けた。
「これは素晴らしい!今まで、殆どできていなかったのに!」
先生のマシンガントークは、誰にも止められそうもない。
「それに、魔力の質も変わっています!
ここ最近で何か変わった事はありますでしょうか?!
気になって気になって……!」
―ええ。身に覚えが沢山……―
「とりあえず、このことは上へ説明しに行ってきます」
ゆっくりと手を振りほどいた騎士は、部屋から逃げるように駆け足で出て行った。
「さあ!皇女様! もう一回やってみま……!」
「いや、先生無理ですよ 」
振り返って前のめりになっている先生に、私は首を横に大きく振る。
―また違う壁を破壊したくない―
「もう一回見たかった……うぅ……」
「でも、おかしいな……。放った光は白に近かった。
光属性が使えないのに、いきなり出来るのは何故なんだ……」
先生がブツブツ何やら言っている。
―勘のいい先生は嫌いだよ……?―
私は話を切り替えようと口を開く。
「先生。とりあえず放つことは出来たみたいですね。
どうしましょうか?授業の続き――」
このボロボロになってしまった部屋では続行する訳にもいかない。
私達は、場所を野外へ移動した。
ブォンッ
大きな魔法陣を発動しながら広範囲の結界をかけていく先生。
「結界を張り終わりました!
さぁ!思う存分、次のステップへ行きましょう!
水を想像しながら小さい粒をだせますか?」
「やってみます」
―雫っぽいの想像すればいいかな?―
そっと瞼を閉じ、集中するように深く息を吸った。
シュゥウウーーー
青白い光が私の体を包み始めると、手を前にかざす。
空気中の水が、すごい勢いで手の前に集まっていく。
―こわい……さっきみたいになったら、どうしよう―
不安を反映するかのように、青色の光が急に弱まった。
「皇女様。上手く止めれないときは、一歩前へ出るように手を押し出して下さい」
―それ初めから知りたかったやつだよー!! ―
私は、心の中で叫びながらグッと手を前に押し出した。
シュッ……
パーンッ
「うわぁあああ!!」
「先生!!」
キートン先生は数m先の木へ飛ばされた。
木々が揺れ、葉がひらひらりと落ちていく。
慌てて私は倒れた先生の元へと走った。
「早すぎて、結界を張れなかった。またお師匠様に怒られちゃう……」
ずぶ濡れの先生は、小さく呟きながらぐったりしていた。
「申し訳ありません……お怪我は」
私が話しかけると、我に返った先生はすぐ起き上がった。
「大丈夫です! 野外にして良かったです!楽しい!」
さっきまでぐったりしていたのに、今はもうその場で飛び跳ねている。
―あんなに飛ばされたのに、先生ったら子供みたいだな―
私は苦笑いをした。
「では次に火に行きましょう。
手のひらではなく、指一本だけ使いましょうか。
くぅ……ここが森だったらよかったのに」
―森だったら、指一本じゃないってことね―
「あ、少々お待ちください。準備を――」
笑顔で先生は結界魔法を自身に重ねた。
「はい!これでいつでも大丈夫です!」
両手を広げ、目を輝かせている。
―よし、今度こそ小さく―
シーン――
「あれ……?」
「もう一度、やってみましょう」
―何で? 私は、全属性が出来るんじゃなかったの? ―
それから何度も先生の前で試したが、炎は出なかった。
「……ドカーンッがない――」
私よりも、キートン先生の方が肩を落としていた。
「コホンッ。皇女様は水魔法と相性がいいのかもしれませんね。
炎は少しずつ練習していきましょう。
「はい。頑張ります」
「次回の授業を楽しみにしていますよ!」
先生の背中を見送った後、私も自室へ足を向けた。
長く広がる廊下に、靴の音が小さく響く。
「部屋の壁を壊したの、パパに怒られちゃうよね」
私は魔法が使えなかったことよりも、あの壁を壊したことに落ち込んでいた。
「あーどうしよう……」
本をギュっと抱きしめながら、怯えているとお腹が鳴った。
グゥゥウ~~
「落ち込んでても、お腹は空いちゃうよね」
苦笑いをしてお腹をさする。
―そういえば、食事で身体強化や魔力回復があるんだよね? ―
「食べた分、回復する仕様だったっけ……」
タブレットのステータス画面を思い出す。
自分の部屋に戻った私は、タブレットを見つめていた。
「はぁ。米と味噌汁が恋しい……」
城にはもちろん日本食は一切出てこない。
―町の食堂に行けば、米が無くても違う料理が食べれるかも!―
そんな事を思いつきながら、画面をスクロールする手が早くなった。。
(創造スキル:Lv制限解除条件 スキル総合50以上)
―あったわ! さっき気になったスキル! ―
「スキルポイント貯めて、解放を色々して行かないと……」
視線を画面右下に落とすと、現在のポイント数は『80PT』
先程の授業の時にポイントが入ったのだろう。
「ふっ、ふふ……。足りているじゃないの」
ニヤリと笑みを浮かべ、タブレット画面を閉じる。
メイドを部屋に呼び、夕飯は要らないから誰にも部屋に入るなと伝えると
「はい、仰せのままに。陛下が来られましたらどうされますか?」
―確かにそれはありそう―
弱愛しているパパなら部屋に鍵をかけても、
ぶち破りそうだと思った私は
メイドを待たせ、急いで筆をとった。
『魔力を使いすぎて疲れたので眠ります。心配せず、
部屋には入らないでください』
メイドへ渡すと、私は部屋の扉に鍵をかけた。
「よぉーし!いっちょやりますかー! 」
タブレットを開き、早速スキル解放ボタンを押した。
【創造スキル解放―完了―】
「……これ、説明ないけど想像すればいいのかな?」
よく分からないまま、そっと目を閉じた。
―自分と全く同じの女の子を一人―
体から手へと魔力が流れていく、
気配がして、そっと目を開けると……。
自分と全く同じ少女が目の前に現れた。
「えーっと、初めまして」
「やほー、こんにちは~」
いくつか少女と話をやりとりした後、気だるそうに言われる。
「私が影武者?なんかカッコイイじゃん。
で、何すんの? 面倒くさいのは嫌なんだけどお」
髪を指で遊びながら、口調も少しギャルっぽい。
「いや、面倒なことは何もないよ。ただ寝てればいいだけ」
「マジ?ならいいよ! おやすみー!」
「マジって言えるんだ……それにしても、あっさりしすぎじゃない? 」
私は、もう寝息をたてている影武者を見つめながら首を傾げていた。
―これでアリバイは完了だから……。まぁいいか―
今度は自分自身に魔法をかけてみた。
―城下町へ行くなら平民で―――
目を開くと、鏡には別人の大人の姿が写った。
「おぉ。いい感じ! 」
鏡の前には、ふわふわの赤茶の髪にふっくらしたほっぺ。
30代くらいの、たれ目で優しい印象の女性になっていた。
一気に2人分の魔法を使ったせいか、足元が少しふらつく。
「とりあえず、成功してよかったわ」
その時タブレットが光り、電話マークが点滅した。
「もしもし」
「こんにちはアイビーさん!ログインボーナスの件で……」
緑の女神からの着信だった。
「あ、それ今日やりました!これ毎日あるんですか?」
「いえ、それが……最初だけで、レベルがある一定以上に上がると
不定期になります……」
申し訳なさそうな声で言う緑の女神。
―いつか毎日もらえなくなるのか……。―
少し残念に思いながらも、私は転移の質問を聞き、通話終了した。
地図を開き、城下町の食堂を探す。
「田島食堂って日本人っぽいよね? ここにしよう」
転移ボタンを押すと、画面から光が溢れ始めた。
「すごい。転移初めて!」
光に包まれた私は、部屋から静かに消えた。




