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元アラフォーが皇女に転生?!元暗殺者の少年を拾ったので育てます!  作者: 桜月ふたば
第二章

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EP.57 食堂に灯った新しい光


――入学式の数カ月前。

私はリリーを連れて、クレールが使う寄宿舎を視察していた。


ミシミシと木の音が歩くたびに響く。

「かなり古い建物だな」

「そうね」


ガチャッ

「ここがクレールたちの部屋になるのね」

扉を開け、二段ベッドがある部屋に入った。

小さい木製の机が2つ。椅子に腰かけてみると、ガタガタと少し不安定。

紺色のカーテンを開けると、

窓から見える景色は木々の先で学生達が走り込みをしている。


「主。分かっておるな? 」

「うん」


私は、数日前『弟子の気持ちが揺らがないよう、会うのは控えてほしい』

そうリリーに言われたことを思い出していた。

―自らの力で勝ち取ったのに、私が邪魔をしてはいけないわ―


「行こうか」

部屋の小さな机を撫で、私達は次の場所へ向かうため寄宿舎を後にした。


暫く歩いていると、後ろから声を掛けられ振り返る。


「皇女様!!ここでお会いできるなんて!」

大きく手を振りこちらに駆け寄るキートン先生。

その後ろから見慣れない大人の人がゆっくり歩いて来た。


―この人は、初めて見るわねー


緑の髪に眼鏡をかけた男が微笑んでいた。


「ごきげんよう。そちらの方は……? 」

「ご挨拶が遅くなりました。私は教師のウォーリアと申します。

お噂はかねがね……」


お辞儀から顔を上げたウォーリア先生と目を合わせると、

どこか見透かされているような不思議な感覚がした。


―あれ、誰かと似てる気がする……―


「皇女様!もしや、魔法をぶっ放す場所をお探しに?! 」

キートン先生は目を輝かしていたが、

私が首を小さく横に振ると、先生はすぐ肩を落とした。


「いえ、寄宿舎や調理場の視察ですわ」

「そ、そうですか……。とても残念です」


ウォーリア先生は、リリーがいる私の足元をジッと見ている。

私が首を軽く傾げるのに気づくと、視線を私へ戻し口を開いた。


「皇女様は、とても魔力の純度も量も高い。素晴らしいです」

口元は微笑んでいるが、その目は鋭かった。

その後ろで、キートン先生は私がどれだけ規格外なのかを

大声で熱弁している。


―ウォーリア先生、なんだか少し怖いわね―


「では、失礼します」

動揺を悟られないようにゆっくりとした足取りで調理場へ向かう。

何故だろう、胸騒ぎがする。


「ねぇ……あの人、リリーが居る場所を見てたけどバレてる?」

「分からぬ……我を見える人間は、かなり特殊だからな」


調理場へ着くと、丁度生徒の昼食を作り終わった頃だった。


「こ、皇女様?!」

片付けをしていた職員が一斉に私を見てザワついた。


「あの……。何か私達が粗相をしましたでしょうか? 」

怯えた目で手が震えている者や、皆手を止めて集まってくる。


「いえ。大切な騎士団見習いの食事がどうなっているのか

知りたくて、残っているかしら?私も食べてみたいわ」


案内された席に座り、料理を待っている間

リリーは疲れたのか私の膝の上で丸まっている。

私は、そっと撫でていると美味しそうな料理の匂いが近づいて来た。


コトッ

目の前へ静かに置かれたた皿たち。

今日のメニューは、チキンステーキ、ふかふかのパン。みずみずしいサラダ。

だが、調理場で一瞬だけ見たメニューや皿の色も違う。

私とリリーは、並べられた料理を見て首を傾げた。


「正直に答えて。これは、貴族と平民用で分かれてるの?」

「……はい」

「平民用の昼食を出して」

「いえ、皇女様にお出しする訳には――」


バンッ!!


「いいから、出しなさい!」

私が机を両手で大きく叩くと、

静まり返った室内に居た従業員達の顔は青ざめていた。


コトッ

「こちらで最後です」

平民用の昼食がやっとだされたかと思うと、

その量の少なさと内容に驚きを隠せないでいた。


―何これ。全部切れ端の寄せ集めじゃないの……―


「ここでも、格差があるとは残念だ」

テーブルに飛び乗ったリリーは、冷静に皿を見つめている。


ドレッシングなしの千切りされたサラダ。

野菜が細かく入った薄そうなスープ。

焦げたパン。肉団子のような小さい肉。


「こ、皇女様! 食べてはいけません」

私はゆっくりパンに手を伸ばし、ちぎって口に入れた。

ガリッ

焦げたパンをかじると口の中に苦味が広がった。

その後、お湯のようなスープを一口飲んだ。


―こんな料理を毎日、平民に出していたなんて―


沸々と体の奥から湧き上がる怒りを必死に抑えるように、

スプーンを握りしめる手に力を込めた。


「説明して」

それから、責任者が経緯をぽつりぽつりと話始めた。

貴族の親から、平民と同じメニューと量を出すことに抗議がきたこと。

その後、貴族用を作ってから残った食材で平民用を作っていたこと。


―馬のノアと同じような事……許せない! ―



「俺ら……今日で終わりかな」

「皇女様が怒るところ初めて見たぜ……」

その光景を厨房の端から見ていた従業員達は、不安げな声で囁いている。


「次の食事から、平等に同じ食事を生徒達へ出して。

抗議は、ルーカスを通して伝えろと言って頂戴」


料理長は、床にガクッと両膝を着き

震えながら私を見上げると、ゆっくりと口を開いた。


「この場に居るものは全員、陛下に救われた平民以下の者達です。

貴族に逆らう事は出来ません」


「処罰を受けるなら、私一人にしてください」


ダダダッ――


部下達が料理長に集まり、囲んだ。

震える肩に手を添える者も居る。


「料理長! 何言ってるんですか! 」

「俺達も共犯みたいなものです。罰があるなら皆で受けます」


バッ――


一人の少年が手を広げ、後ろの皆を匿うように前に出る。


「おい、さっきから偉そうに言ってんじゃねぇよ!

だから権力を持っている奴は嫌いなんだ」


「フラン! 皇女様に向かって何てことを言うんだ! 」


―あれ、この子は―

数か月前に、パパが救出した特殊能力を持つ子供の一人だった。


「今まで気づかなかった癖に、偉そうに言ってんじゃねぇって言ってんだ!

罰なら、俺一人で受ける」


―この子は、口はぶっきらぼうなのに皆を庇うのね―


ゴンッ!

料理長のげんこつが少年の頭に落ちた。

「うわぁ! いてぇ! 」

「コラッ! 生意気な事を言うな! 」

「だって――」

頭をさすりながら、私を睨みつける少年。


―この子の言う通りよ。感情的になったのは良くなかったわ―


「怒りを露わにしたのは、貴族に対してだったの。

怯えさせてしまって、ごめんなさいね」

私は頭を下げた。

「でも、現状を知った以上。口だけじゃなくて私自身、動くつもりよ」


「こ、皇女様自らですか? あの、罰は……」

目を丸くした料理長と調理場の従業員は驚き固まっている。


「罰は……」

―ないと言ったら、またデイジーの親みたいになってしまうかしら? ―

初めてデイジーの親と対面した瞬間が頭を過った。


「これからも、ここで生徒の健康のために料理を作り続けて」

「そ、それだけですか……?」

料理長は口を開けて驚いていた。


「ええ。後は少しだけ、時間を私に頂戴。また来るわ」


パタンッ

静かに扉を閉めた私とリリーは、調理場を後に歩き出した。


     ◇


「という事があったの……」

バンッ!!

カタカタ……


食卓に置かれているフォークやスプーンが跳ねた。


「クッソ!……そんなことがあったのか」

私はその日の夕食の時に、パパに報告した。


「アイビーが視察に行かなかったら、

俺はこの先もずっと気づけなかったということか。自分が情けない。」

パパは頭を抱え、大きなため息をついた。


「ルーカス。この件を調べてくれ、頼んだぞ」

「御意」

ルーカスは、部屋から足早に出ていった。


「後ね、結構宿舎が老朽化してるみたいだから

新しく建て替えれないかなって」


「確かに、年数はかなり経っている。

よし!さっそく、明日から手配しよう」



後日。私は再度、寄宿舎の調理場へ向かった。


「食堂の目立つ場所に、これを掲示します」

私が料理長へ差し出したのは、一枚の通達書。


『同じ屋根の下で学び、剣を交える仲間同士。

騎士団に身分による隔たりは不要。

よって、全生徒に同等の食事を提供する。

――国王陛下、および皇女』


その下には、陛下の力強い筆跡と、私のサインが並んでいる。

料理長は、その紙を手に取り震える声で読み上げた。


「……これを、本当に掲示してよろしいのですか?」

「ええ。もし何かあれば、直接、私か執事のルーカスへ

言いに来なさいと伝えて。

食堂がいい方向へ変わるのを、楽しみにしているわ」


私は微笑みながら、料理長の切り傷がある手を両手で包んだ。


「これからも、生徒の健康をよろしくお願いしますね」

「は、はい……皆と共に、この調理場で作ってまいります」


ポタポタッと涙を流す料理長。

私は、ルーカスに目配せをすると

ルーカスはそっと責任者から書面を取り、食堂の中央掲示板に貼り付けた。


「ありがとうございます。本当に――」

何度も頭を下げる職員を後に、私はルーカスを連れて調理場を後にした。


背後から、職員たちの「……陛下と、皇女様が……」という、

明るい囁き声が聞こえたような気がした。


パタンッ

「さて、残ったもう一仕事、片付けなくちゃね」


部屋に戻った私は、机に置かれた分厚い便箋の一枚一枚に筆を走らせた。


「慈悲深く、誇りある貴族の皆様ならご理解いただけるはずと信じています」

ずっとこの一文と、文末のサインを何十枚も書いている。

貴族の親に、私から直々に書状を送る事になったのだ。

『今後は騎士団の学び舎における食事を統一する』と


この世界にはパソコンも印刷機もない。

使用人が総出で全文の殆どを書いたものに、付け足しで書くことになった。


―全部書くって言ったら、皆から止められちゃったのよね……。―


「主……もう休め。顔色が悪い」

リリーが机に上って、しっぽを腕に絡ませる。


「うん……あともう少しだけ――」

うとうと体の揺れが大きくなった私は、

机の上で気絶するように眠りについた。


コンコンッ

「皇女様。お茶をお持ちしました」


カチャッ――


リリーはアイビーの足元に隠れドアの方を見た。

いつでも、攻撃できる体制を取ってじっと待っている。

扉がゆっくり開かれると、ルーカスが入って来たのを見て安心するリリー。


「おや……皇女様。ふふっ、お疲れ様です」

そう言うと、机にティーポットを静かに置いた後

ブランケットをそっとかけ部屋を出た。



後日、ガゼボでお茶を飲んでいた時、ルーカスが分厚い書類をもってきた。


「やっとね……」


分厚い書類は、宿舎を利用している貴族全員の捺印を回収した証だった。


「皇女様、お疲れさまでした」

「ルーカスもありがとうね。巻き込んでごめんなさい」

「いえ、お気になさらず。ご立派に対応するお姿が見れて、

このルーカス……とてもうれしゅうございます」

静かに微笑むルーカス。

遠くから、木の叩く音と職人達の声が聞こえてきた。


「主は、本当に過保護だな」

リリーは足元で欠伸をしている。


―これで、クレールが来た時の準備は整いそうね―

そう思いながら、残りのお茶を飲み込んだ。


それからというもの、調理場には王族が介入していると知れ渡ると

貴族達の抗議が止み

逆に寄付金が増え、調理場の皆は生き生きと働ける環境になった。


「さぁ、今日も皆の為に美味しい料理を作るぞ!」

「おぉお――!!」


今日も調理場では、従業員達の楽しそうな顔と明るい声が響いていた。



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