EP.56 未来へと歩き出す日
「おい!大丈夫か?!」
俺とゼノが声の元へ辿りつと、状況は思ったより悪かった。
目の前にはあの水色の髪をしたモニカと他3人。
女の子は剣を持つ肩から血が滲み出ており
他は固まって泣いている。
「飯が追加でやってきた!嬉しい。」
魔物が人の言葉が話せるという事は、低級ではない。
「ハッ!弱いやつだけしか攻撃できねぇのかよ」
「お前、生意気。許さない。侮辱されたら、沢山跳ね返す」
片言の人語を呟く魔物。
「ちょっと!挑発しないで!!」
モニカが大声で怒る。
「てか、ロールはどうした!」
緊急用で支給されたはず。何故使わないのか分からなかったクレール。
「使ったら、棄権になるじゃない!」
「それはいやだ!」
口々に子供たちは口を開きだす。
「なめてんのか? 死んだら終わりだろうが!! 」
クレールの見た目は変わっても、口は変わらなかった。
子供たちは、ビクッと体を跳ねさせ視線を地面に向ける。
「ここは俺が潰す。お前らは逃げろ」
「おい、金髪!全員連れてワープしろ。
さっきの魔石を提出すれば、試験官も文句ねぇだろ」
俺はさっきの魔石を渡す。
「僕はゼノだ!分かったよ。君も早めに逃げろよ」
「俺は、逃げねぇ。さっさと準備しろ」
「人間共、ずっとうるさい!」
ドゴォ!!
「キャァァァア!!」
子供達が固まっている近くの木々が粉々になっていく。
魔物が再度襲ってきた。
「早くしろ!!」
ロールを破り、光と共に皆はいなくなった。
「あれ?俺の飯が、消えた!どこだ!消えた!」
キョロキョロと魔物が子供を探すが居ないのが分かり、振り返って俺を見る。
「全部お前のせい。食料消えたのコイツのせい……」
体がさっきよりも膨らんでいった魔物が、そのまま突っ込んできた。
「ハッ! 動きが、単調でつまんねぇな!!」
攻撃をかわしながら、俺は少しずつ急所を狙っていく。
―覚醒使って早く倒してぇよ……―
覚醒のコントロールが少し出来るようになったが……
『弟子よ。最後で使え。人にその力をあまり見せてはならぬ』
師匠にきつく言われていたから、使わなかった。
「これで終わりだああああ!」
魔力を絡ませた剣を一振り大きく振りかざすと、魔物は倒れ消えた。
ドンッ!ガランッ!
大きい紫色の魔石が地面に転がる。
「ハァハァ……時間かけちまったぜ」
師匠の遅い!が聞こえてきそうだ。
―もっと、鍛錬しなければ―
俺は懐から出したロールを破り、試験会場へ転移した。
「わぁ!帰って来た!!」
「血が出てるよ!医務室に……!」
さっき助けた子供達が駆け寄って来た。
―無事に転移出来たようだな。良かった―
「早く魔石を提出しろ」
「ほらよ」
試験官に促され、両手くらいの大きさがある魔石を出した。
「これをどこで?!……皆で倒したのか? 」
「いいや、俺一人だ。」
「嘘を言うんじゃない!!これは中級以上の魔物だ!」
試験管は不正を疑うように声を荒げる。
ーこの目……久々に見る。俺、嫌いだコイツー
「私達を逃がして1人残って戦ってくれのよ!」
「そうだそうだ!」
「じゃぁ、倒した姿を見た者は誰も見なかったという事だな?」
「その少年が言っているのは本当だよ。」
空から声がして、全員が上を見上げた。
「ウォーリア様……」
薄緑の髪に金色の瞳。スラッとした男が目の前に降りてきた。
「ずっと、僕は見てたからね。」
「あ”?!見てたなら助けろよ!!」
「ウォーリア様になんていう口の利き方!!慎め!!」
試験管が俺の頭にげんこつを落とす。
「いっ…てぇ!」
「ごめん、ごめんっ。どう戦うのか興味があってさ~」
ヘラヘラと笑いながら俺に近づいてくるウォーリア。
屈んだかと思うと
「でもさ…君、かなり力を抑えながら戦ってたね?」
耳元でささやかれた。
「……!」
口は笑っているのに、目は鋭く俺を見下ろしながら。
「アハハハ!難しい顔しなくていいよ?
君がもし合格になったら、僕の所に入りなさい」
手をひらひらさせながら、会場から何処かへ歩いて行った。
―あいつ…見抜いてやがったのか―
「ねぇ、何話してたの?」
「何でもねぇ……! それより医務室いけ!」
「はーい!改めて、ありがとうね!あなたも医務室にいきなさいよー!」
モニカは笑顔で立ち去った。
入れ替わるように、先ほど逃がした子供達にクレールは囲まれた。
「さっきはありがとう。」
「お前、すげーよ!」
「……」
―はぁ……人と関わるのは疲れる―
ぐったりと別の疲れを感じながら、でも助けた子供を見て少しだけ心は軽かった。
候補者が並んでいる場所へ、歩いていく足取りは軽かった。
第三試験が終わると、残った参加者は20人程度になった。
「魔石は出口で換金し支給する。それで装備を揃えろ。
後はこの紙に書いてある通りの日程で~~~」
途中までしか、話が入ってこなかった。
手には合格証と、認定バッジを持っている自分が
夢の中にいるようで、ふわふわしていた。
―やった……やったぞ!本当に合格したんだ……!―
帰りの出口で、試験官に別室へ呼ばれた。
「今日は半分までしか用意が出来ないんだ。すまんな」
ずっしりとした袋を受け取る。
「早くカバンにしまいなさい。残りの半分は後日取りにおいで。」
「はい。ありがとうございます」
―だから最後に帰れと言われたのか―
金貨ではなく、銀貨支給だった。防犯上の理由らしい。
王城から出て帰りを急いでいると、小道で子供が殴られていた。
「やめろ!」
思わず口が出てしまった。
「なんだ?坊主!こいつの仲間か?」
「違う。どうしたんだよ」
「…こいつ、俺の店の商品を盗みやがったんだ!」
クレールは少年を見ると手にリンゴを二つ持っていた。
「何回も盗みやがって…。」
また手を振り下ろそうとしている男。
「いくらだ?」
「あ?銅貨5枚だ」
「ほらよ。」
俺は銀貨5枚を渡した。
「今まで盗まれていたんだろ?足りないか?」
「いや…こっこれで今日は許してやる!坊主に感謝するんだな!!」
店の男はそのまま立ち去った。
「お兄ちゃん、ありがとう……」
「…別に。1つだけ、絶対に裏では働くなよ。」
「…裏?」
「じゃあな」
俺は大通りへ戻った。
―俺みたいになっちまうからな―
あの子供も、いつか裏で働かないか選択する時が来るかもしれない。
「……俺もおせっかいになったもんだな。誰に似たんだか」
フッと微笑む。あいつの顔が浮かんだからだ。
◇
「主ー!! 弟子は無事に勝ち取ったぞ!!」
リリーが私に飛び込んできた。
「本当?!すごい! あぁ……良かった」
リリーを掴んだまま、私はその場でクルクルと回った。
「あ…主、回すのやめ……てぇ」
目がグルグルしているのか、ぐったりしだすリリー。
「良かった。本当に良かった。」
視界が涙で霞んでいき、私はリリーをギュッと抱きしめた。
「頑張ったね。クレール……」
「主……あぁ、弟子は頑張ったぞ」
リリーは流れる涙をペロペロと舐めた。
◇
俺は、雪が降る城下町を歩いていた。
白い小さな息は、出来ては消えて街に溶けていく。
以前なら考えられなかった。
普通に街を歩き、目を見て人と話せるようになって
数年前まで、孤独で……。どうでもいい人生で……。
いつ死んでもいいと思っていた俺が……。
今は、大切な人達や生きる目標が出来て日々、頑張っている。
「なんだか……変な感じだ」
―俺の人生はもう誰のものでもない。これからは自分の足で歩いていくんだ―
小さい紋章が入ったバッジを強く握りしめ
雪の中、俺は未来へ向かって走っていた。
◇◇◆◇◇
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにて第一章は完結となります。
物語は、ここから第二章「騎士団編」という新しい舞台へと続いていきます。
第二章は現在、別途執筆中です。
まずは、この第一章をもって物語の第一幕を完結といたします。
次回:第二章「騎士団編」にてお会いしましょう!




