EP.55 真価の証明
季節は流れ、試験前日になった。
数か月間、俺はワープして元の家周辺で師匠と鍛錬に勤しんだ。
「おい!起きろ!もう行くぞ!」
「…ぅ…。重てぇ…。」
毎日、朝になると起こしに来るリリーは俺の腹で飛び跳ねる。
軽食を取り、暗くなるまで鍛錬。
家に帰った後は、ラークに基礎知識を学ぶ。決闘や戦術など、多岐にわる。
サーシャとの手紙のやり取りが唯一の癒しになっていた。
「いよいよ明日ですね。」
「ああ。やっとな」
俺はあくびをしながら、筆記試験の復習をしていた。
カランカラン
「おい、ラーク客が来たぞ」
「はい。行ってきます」
「いらっしゃいませ」
ラークは薬屋で常連客も徐々に増え、少しずつこの生活にも慣れてきた。
俺は、自分の部屋でサーシャから誕生日に貰ったイヤーカフを撫でていた。
「結局、一回も着けてねぇな。明日の試験は家で留守しててくれ」
自分の力で掴み取らなくては意味がない。
だから、修業の時も身に付けなかった。ただ、眠る前に一度だけ触れる毎日。
「サーシャ。俺、絶対勝ち取って見せる。頑張るから」
イヤーカフを箱にしまった後、枕元に初めて置き瞳を閉じた。
翌日。
「一般参加はこちらに並んでください!」
貴族と平民で入る場所が分かれていた。
「私はここまでですね。頑張ってください!」
「ああ。絶対に勝ち取って見せる。」
「我の弟子が負けるわけがない。行ってこい!」
「ああ。行ってくる!」
「参加証を見せろ」
ガタイの良い門番が確認作業をしている。
それから、最初に筆記試験、午後からは実技試験が行われた。
筆記では一斉に会場内に響く筆や紙の音で、集中があまりできなかった。
でも、ラークに学んだ内容がいくつもあったおかげで大半を記入できた。
「ねぇねぇ、あなたどこから来たの?」
顔を上げると、長い水色の髪にピンクの瞳の女の子が居た。
「かなり田舎から出てきた。」
「へぇ~。私はモニカ。あなたは?」
「…。クレールだ」
「お互いに頑張りましょうね!」
そいうと女は去っていった。
俺は、口をキュッと閉めて内側の頬を少し噛んだ。
―分かってんのか……ここは試験会場だぞ?のんきに友達作りしてんじゃねぇ―
ここに居る大半は、緊張感があまりない奴ばかりだった。
絶対にこの試験を乗り越えなければ、あいつの横に立つ道すら断たれる。
最初の基礎実技では、走り込みや魔法が使えるものは別途加算される。
正直、師匠と鍛錬してきた以下だった。
「今からあの山の頂点にある黄色い布の目印を取って戻ってこい。」
「魔法であの的を撃ちぬけ」
「素振り500回!」
参加者はリタイアする者も数人出ている。
俺は5位以内にいずれも入ったが、内心焦っていた。
―あんなに修業したのに、俺よりも上がまだこんなに居るなんて―
「今年は魔法が使える奴が多いらしいぜ」
「魔法あまり練習してないけど、どうせ通過できるさ!」
「出来なくても、筆記で点数取れてると思うから大丈夫だと思う」
―こいつら、何言ってんだ?お花畑の奴らばっかりで反吐がでる。―
俺が必死に過ごしてきた数か月。こいつらは何をして来たんだ……。
自分と他の参加者を比べて、イライラし始めるクレール。
『待ってる』
その時、サーシャの声が頭に流れてきた。
「俺は、自分の事に集中しなくちゃな……」
クレールは、瞳を閉じ深呼吸で気持ちを落ち着かせた。
「今から名前を呼ぶものは、先ほどの部屋に戻るように」
俺の名前が呼ばれなかった。
なぜだ、あんなに頑張ったのに……。拳に爪の跡が残る勢いで握りしめる。
「今残った者は通過だ。」
試験管は一人一人に紙を配り始めたのを見て、俺は目を見開いた。
「この紙を持って二日後。またここに集合。遅れるなよ?」
紙には第一次試験通過の文字。
「なあ!通過した!!」
扉を勢いよく開け大声で帰って来た。
「おかえりない。良かったですね!」
ラークは目を細めながら、拍手をする。
「みろ!これ!」
俺はさっき渡された紙をラークに見せる。
「次は2日後ですね!今日はクレールが好きなハンバーグを作りますね」
「やったー!」
一方、城では
「今日から試験ね…。」
私はずっとソワソワしていた。
試験会場には入れないし、本人を信じるしかないのだけど……。
ここ数日はの試験前から、私の心は落ち着かない日々が続いていた。
「心配せずとも、弟子なら大丈夫だ。」
リリーはベッドで丸くなっている。
「親の気持ちってこういう感じなのかしら?」
手紙には、全員ぶっ潰してくる!と書いてあった。
クレールは強いと思う、それでも心配だった。
アイビーは、自分のステータスを開き溜まったポイント振り分けていた。
「Lvがえげつないことになってるわ……気づけばLv460よ?」
リリーが覗き込む。
「主……何になるつもりなのだ?最強すぎるぞ。自動振り分けしないのか?」
「え?そんなボタンあったっけ?これか!すごく楽だわ!」
「とりあえず、主は少し休むがよい。顔色が悪いぞ?」
「そうだね……。少し横になるよ」
私は、ベッドに入り目を閉じた。
2日後。第二次試験。
「今日は模擬戦だ。魔法は禁止。この魔法封じの器具を付けてもらう。」
試験官のアナウンスが響き、暫くして俺の番になった。
パキッ! 器具は何度も、真っ二つに割れてしまった。
「あれ?不良品かしら?」
バキッ!!
係の人が何回も付けたが、壊れていく器具たち。
結局両手と両足に付けることになる。
「あいつ、魔力強いのか?」
一部、俺を見ていた子供達が遠くで何か言っているのが聞こえ始めていた。
「ふん!あんな、ひょろい奴……剣術はダメに決まっているさ」
面白く思っていない子供達もその中に居た。
木剣を受け取る。向かい側には、茶髪の少年が立っていた。
「よろしく!」
人懐っこそうな顔。なぜ笑顔で居られるのか理解しがたい。
「……ああ」
開始の合図と同時に突っ込んで来る。
遅い。遅すぎる。全ての動きがスローモーションのように見えていたクレール。
ガギィン!!
何度か対戦相手の剣を受け流し、足を払う。
「わっ!?」
ドサッ!!
少年と木刀が転がり、首元に木刀をかざした。
「そこまで! 勝者、クレール!」
試験官が声を上げ、周囲が少しざわつく。
「今の見たか?」
「途中、動きが見え無かったな……。」
その後は、順調に2人、3人と倒していった。
―全然疲れねぇ。師匠のお陰だな―
「女のくせに、小賢しい技使いやがって!!」
ふと隣を見ると、俺に話しかけた女も勝ち進んでいた。
「あのクレールという者、一切隙がありませんね。」
「ああ。あの動きはかなりの実践を積んできてるようだな」
試験評価をする職員は小声で話していた。
「以上で試験は終わりだ。」
試験管はまた受かった者だけ紙を配る。
帰ろうとしたその時。
「お前、どこかで会ったか?」
金髪の少年が話しかけてきた。
年齢は同じくらい。だが纏う空気が違う。
高そうな装備に綺麗な立ち姿。貴族なのに、目は冷たい。
「…さぁ?…知らねぇな。」
「そうか。知り合いに少し剣術が似ていたから、気分が悪くなったらすまない」
帰る途中振り返ると、少年はじっとこちらを見ていた。
妙に胸がざわつく。
―なんだ……?―
数日後。
「第三試験は、模擬討伐戦を行う!」
会場がざわめく。
「これより複数人でチームを組み、指定区域内の魔物を討伐してもらう!」
「証明は倒した魔物から出る、魔石を持ってこい」
魔物討伐。つまり実戦。
受験者達の顔が真剣な表情に変わった。
「初級程度だが、実践をした事が無い者の配慮として緊急用のワープロールを渡す。」
「番号順にチーム分けを行う!箱から1枚紙を取り出せ。」
小さい箱から1枚、番号札を取り出し見る。
『17』
すると。
「あ、同じだね。」
あの金髪の少年が隣に来た。
「……またお前か。」
「縁があるな。僕はゼノ。よろしく」
ニコリと笑うが、目はあの時のように冷たい。
「クレールだ」
他二人を加え、四人で森へ入った。
「私、魔法が得意だから後ろにいるわ!実践も少しあるの!」
「勝手にしろ」
― 大口叩く人間は嫌いだ ―
クレールは、不機嫌になりながら先に前へスタスタと森を進んでいく。
「探知は僕がやろう。」
「え?できるの?」「すごい!」
「少しね、静かにしてくれるかな?」
ゼノは耳を澄ませ、目を閉じている。
「右に2匹、こっちに来る!」
次の瞬間、右の茂みが揺れだした。
ガサッ!ガサッ!!
飛び出してきた狼型魔物。
グルルルッ!
「まって、これが初級?!絶対嘘よ!!」
一人が慌てて魔法を連発で放つが外れた。
「左からもう3匹来る!」金髪ゼノの声と同時に、横から牙が迫る。
「っ!」後衛の少年が尻もちをついた瞬間、俺は身体を滑り込ませるように割り込んだ。
ガギィン!!
狼型魔物の牙と剣がぶつかり火花が散る。
「下がってろ!死にてぇのか!」
狼が飛び掛かると同時に、俺は地面を蹴った。
ザッ!!
迷いのない剣を振る。
ギィン!!
狼の爪を弾き、そのまま首筋へ叩き込むんだ。
ドサッ。
魔物が崩れ、姿が消えた後…魔石が落ちた。
「すげぇ……」
周囲が呆然としている。
「まだ来るぞ!皆、構えろ!」
ゼノが叫び、すぐ現れた二体。チームの殆ど恐怖で動けていなかった。
―きりがねぇ、序盤で使いたくなかったが仕方ねぇな―
「お前ら、姿勢を低くしろ!!」
魔力を剣へ流すと、青白い光が刃を包んだ。
「くたばれぇぇぇええ!!」
ザシュッ!!
狼型魔物が一斉に吹き飛び、魔石が散らばる。
空から試験管が、その光景をみて目を細めていた。
「へぇ……これは、今年は当たりだな」
試験官はそいう呟くと姿を消した。
ゼノが、駆け寄って来て小さく笑った。
「やっぱり、君面白いな」
「は?」
その時、奥から子供達の悲鳴が響き渡った。
「誰か!先生!助けてー!!」
森の奥から響いた悲鳴に、その場の空気が一変する。
「……!」
ゼノが真っ先に駆け出す。
俺も舌打ちしながら地面を蹴り声の元へ急いだ。




