EP.54 自分の力で生きる第一歩
少し前。
「ここだわ」
食堂で小耳に挟んだこの場所は、二番目に大きい情報ギルド。
私は、魔法で成人男性になってからワープしてたどり着いた。
大きな貿易商に入る。綺麗な骨董品。貴金属が並ぶが客は全然居ない。
まっすぐ進み、書き物をしている店員に話しかける。
「ここに指輪を落とした気がするんだが?」
店員の目つきが鋭くなった
「色は何色でしょうか?」
「紺色の石が付いている。」
「……。奥の部屋へどうぞ」
ドアを開けられ入ると、顔に仮面をつけたガタイの良い男が現れる。
「ここからは、こちらの者が案内いたします。」
「ああ。」
長い廊下が広がる。窓がない壁と、たまにあるいくつかのドア。
ひんやりとした空気を感じながら男と進んでいく。
「どこでこの場所を?」
「知り合いが利用して、教えてもらったのさ」
通された部屋は椅子とテーブルだけの簡素な部屋。
足を踏み入れると自動的に部屋の明かりが灯された。
「ご用件は」
「身分証明書の手配を2人分頼みたい。」
「こちらに各種記入をお願いします。」
差し出された紙に、私は記入していく。
男は私を見ながら耳に付いている通信機で、何やら何処かへ話している。
「身分証明だそうです。」
―ジジッ …かっ…。
無線機のような音が漏れて聞こえる。
「手元に来るまでの期間と、料金を教えてくれ。」
私は書き終わると男に聞いた。
「2人分だと大体1週間。料金は発行後の身分による。貴族ならかなり高いぞ。」
「そこまで求めていない。田舎の男爵位で良い。
あとこの2人は親子という形にしてほしい。」
男は私が希望するのを追加で書いていく。
「分かった。それなら大人は金貨10枚。子供は金貨4枚だ。どうだ?」
私は小袋を出す。
「それでいい。この中に金貨30枚入っている。残りはチップだ。」
男は払えると思わなかったのか、目を丸くした。
「失礼。確認致します。」
先程の態度から、がらりと変わり丁寧な言葉を発し
小袋の金貨を数える。
ジジッ ~~~ど、。だ?
―大丈夫なのか無線入ってるの?―
「確かに金貨30枚ですね。早急に手配いたします」
「1週間後、同じ時間にまた来る」
私は部屋から出た。帰りの廊下で、青髪で長身の男が一礼した。
「またのご来店を心よりお待ちしております」
貴族のような、綺麗な礼だったが……目は鋭く冷たい目だった。
◇
偽の証明書を手にしたクレールの手は震え
ラークも固まっている。
―あれ、喜んでくれるかと思ったのに―
「偽の身分証…これ‥どうしたんだよ…。」
「ちょっと手配できたから」
「そんな簡単じゃねぇだろ!」
偽の身分証で任務に入ったことがあるのだろうか?
クレールは涙目になっている。
「……ごめん、何か嫌だったかな?」
「お前を、もう危険な目に合わせたくないんだよ……」
クレールの声が震えている。
「大丈夫だよ。男の姿で発行しに行っ‥」
「やっぱり、お前だけで行ったんだな?もう情報ギルドには関わるな……」
「うん、ごめん……」
「この分は、いつか必ず働いて返す」
「私もこれから働いて、毎月お渡しします」
―値段を言っていないのに、クレールとラークは相場を知っているの……?―
「いらないわ。これは私が勝手にやった事だもの
これから、心機一転。幸せに生きてほしいだけなの」
「……ありがとうな」
―本当にこれで良かったんだよね?―
「クレール、相談なんだけど……一緒に王城へ来ない?
私の知り合いとして、城で仕事をしながら生活するのはどう?」
「いや、それは……ありがてぇけど、嫌だ」
「え……」
「お前が嫌だって訳じゃない。ただ、自分の力で生きていきたい」
「そしたら、来年の冬に騎士見習いの選抜試験があるから出てみる?」
「……それに受かったらどうなるんだ?」
「城から遠くに住んでいる者は、寄宿舎で過ごしながら
騎士見習いとして訓練や雑用をやる形ね」
「それと。三食付きで少しだけど、給付も出るわ」
「やる」
窓の外では、静かに雪が降り始めていた。
少年は今、ようやく自分の足で未来へ歩き始める。
後日。
雪が積もった城下町。道の脇には雪かきで積みあがった雪が並んでいる。
「ここですかね。」
ラークと俺は新たな家に来ていた。
ガチャガチャッ
鍵を開けるとホコリっぽい空気と
日当たりのいい室内。二階建ての素朴な家だった。
俺とラークは田舎から引っ越してきた家族という事になっている。
「とりあえず、掃除をするか。」
「はい。」
身分証明と、討伐した魔石を売ったお金でこの家と当面の資金を得た。
ラークはこの一階で商売をするらしい。
「そういえば、何の商売をこれからするんだ?」
掃除をしながらクレールはラークに聞いた。
「そうですね…。薬の知識があるので、その方向で考えています。」
「薬草の知識なら俺もあるから、手伝ってやるよ。」
「ありがとうございます。心強いです。」
「あと、その敬語もそろそろやめないか?一応家族という設定なんだから」
「そうでしたね。気を付けないと。」
来年の冬に開催する。騎士団見習い試験に向けて、
今日からこの家が俺達の家だ。
「夕飯の買い出しに行ってくる。」
俺は、商店街へ向かった。
いくつかパンや肉、チーズを買っていく。
前にサーシャと一緒に来た場所で一旦 休憩した。
「皆、普通すぎて慣れねぇよ……」
俺の普通と言えば、容姿を見られたときに態度を変えられる。
値段を通常より高く言われる。いい思い出がない。
「これは慣れるまでに時間がかかりそうだ。」
―せっかく新しい外見を得たんだ。前を向かなくては―
俺は、見上げた空を眺めながら暫く休んでから帰ることにした。
「たでーま」
「おかえりなさい」
見渡すと家具屋がもう帰った後だったようだ。
木の机、棚。二階に上がった部屋には新しいベッド。
「今日からここが俺たちの家だな」
小さく呟くと、一階からラークの声が響いてくる。
「夕飯が出来たので、一緒に食べましょう」
俺はゆっくりと一階へ降りて行った。




