EP.52 仮面の奥にある少年
青空の下で城の朝を迎えた僕は、滞在が終わり帰える準備をしていた。
「帰りは気を付けてね。」
「ありがとうございます。」
「また、次お会いできるのを楽しみにしています!」
「うん!私も!」
婚約者というよりかは、友人に近い存在になれた気がする。
屋敷に戻った僕は、父上の書斎に呼ばれた。
―ねぇ、一緒に魔法の勉強しましょ!―
―今度一緒に街へ遊びにいこう!―
皇女様はたまに僕の全てを見透かされている感覚になる時がある。
でも、一緒に数日過ごしていくと無邪気な笑顔は普通の女の子だった。
―これから、仲良くなりたいな―
ダンッ!
父が机を叩いた音で体がビクッと跳ねた。
「おい!聞いてるのか!」
「申し訳ございません…。」
皇女を思い出して物思いにふけってしまった。
「皇女様と上手くいっているのか?」
書類にずっと目を通している父親は、目を合わせようとしなかった。
「はい、父上。」
「それならいい。お前はその顔だけだから、捨てられないようにするんだ」
「…はい……」
「話はそれだけだ。部屋に戻りなさい」
「…おやすみなさい。父上」
部屋から出て歩いていると
「兄上!」
弟のローレンが駆け寄って来た。
「帰って来たのですね!おかえりなさい!」
僕と違って魔法の才能がある弟。それを溺愛する家族。
最初は、あんなにも僕を溺愛してくれたのに…。
「恐れながら、ルイス様には魔力があまりありません…。」
家庭教師が告げたあの日から…僕の人生は暗転した。
「ローレンが長男だったら!!」
「ルイスは婿に行ってもらいましょう」
「ルイス様もお可哀想に」
「今度、弟さん紹介してよ!」
手のひらを返した両親も、仕様人の憐れんだ声も、
損得勘定でしか考えてない偽の友達も
この無邪気な弟も
― 全部…全部嫌いだ。―
唯一味方だったおじい様は、去年空へ旅立ってしまった。
この顔と外面がいい演技で、他人の印象操作をするように生きてきた。
一人でも敵を作らないように。誰にも隙を見せてはいけないからだ。
―これからも、仮面をつけて生きていかなければ―
「…兄上……?」
「ただいま。今日は疲れたからもう部屋に戻るよ。またね。」
「はい…。また……」
悲しそうな弟の顔を見たが、軽く目を閉じ歩いていく。
ちゃんと僕は笑顔で弟に話せていただろうか?
自室のドアを閉める。
スイッチが切れるように笑顔が消え、真顔になる。
「はぁ……だるい。疲れた」
ベッドに飛び込む。
「そういえば、皇女様には効果なかったな…。僕の仮面姿」
魔法が使えない事も、使えたら空を飛びたいとか
一瞬、素に戻って言ってしまった数々の言葉を思い出す。
「恥ずかしい…。でも否定もせず、魔法の特訓しようとか言ってくれたな」
あの喋る馬と皇女様が口喧嘩してたり
苦手な野菜を涙目になりながら食べてる姿を思い出して自然と笑みが出る。
「久しぶりに自然と笑えたな」
ベッドから飛び出して
引き出しの裏にはめ込んでいる石を取り出す。
「明日、馬車をいつもの場所へ」
「御意」
翌日
馬車の中で、平民の子供服を来たルイスは街に来た。
親には市場調査とでも言っている。別に気にしている様子もない。
馬車の中で灰を少し頬と服に付ける。
細道手前で降り、駆け足で花屋へ向かう。
―会いたい…早く―
「あ!ユーリ!」
少し大きめの鉢を両手に持った女の子
「やあ!元気かい?ミーナ」
「もう!また頬を汚して!やんちゃなんだから!」
ハンカチでゴシゴシ頬を拭いてくれる。
そう。僕はこの子が好きなんだ。仮の名前で前から交流している。
「休憩まであとどのくらい?」
「もう少しだよ!これを片付けて報告したらお昼!」
「じゃあいつもの噴水の前で!」
「うん!」
ミーナは花屋の娘。僕はとある屋敷の雑用係だという事になっている。
最初に出会ったのは、僕が迷子になって街で泣いていた時。
「大丈夫?これ、あげる!」
笑顔でガーベラを1本差し出した時から、惚れたのかもしれない。
僕が魔法を使えないという事も気にしない子だった。
「そうなんだ!別にいいんじゃない?使えない人は沢山いるし!」
たまに手伝いもした。お昼ご飯もミーナの家族と一緒に食べたこともある。
この子の前でだけは、普通の自分で居られる……。
初めておじい様以外で気を使わない子に出会えたんだ。
「お待たせ!」
「最近見かけないから、心配してたよ」
「ごめん、仕事が忙しくて。」
ミーナは僕の顔を近くで、ジーっと見る。
「えっ何?!」
ドキドキしてしまう。
「目の下クマが出来てる!ちゃんと眠らないとだめだよ?」
「うん!」
視線を下にすると、ミーナの手には細かい切り傷が見える。
「そう言ってるミーナだって、また指が傷だらけじゃないか…」
「お花の棘とか、料理のお手伝いでこうなっちゃうんだよね~」
「今日のお昼ご飯、私が作ったんだから!沢山食べてよね!」
青空の下。街の広場の中心でサンドウィッチを一緒に食べる。
―平和だ。この時間が一生続けばいいのに―
「あんまり無理しちゃダメだからねー!またね!」
「うん!ありがとう!またねー!」
手を振り二人は別の道へ進んでいく。
僕の幸せな時間は、あっという間に過ぎてしまった。
ミーナと別れた後、馬車で着替えて仮面をつける。
スゥーーっと金色の瞳、深い青色の髪に変わり、成人の姿になる。
「出せ」
馬車は静かに裏路地を走り、大きい店の裏手付近で止まった。
「着きました」
「ご苦労」
ゆっくりと馬車を降り、目的地へ進む。
大きな店のすぐ側、小さい集合住宅の部屋に入り本棚に手をかざす。
―認証完了―
足元に出た黒い渦に飲み込まれ、体が消えた。
揺れが収まり、目を開ける。
両側には無数の武器、魔法薬、魔法道具、甲冑が広がる部屋。
革靴の音を静かに響かせながら歩む。
隠し扉からメインの通路へ向かい、いつもの自室へ入った。
「オーナー、お待ちしておりました」
同じく仮面をつけた従業員が椅子を引く。
「ああ。ご苦労」
ここではお互いに素顔を見せないスタイルになっている。
貿易商の方も、全員が魔法か薬品で一部を変えているのだ。
「変わりはないか?」
「はい。順調です。」
おじい様から生前に貰ったこの店と仮面。
表向きは貿易商。裏では2番目に大きい情報ギルド。僕の秘密基地だ。
「帳簿を見せろ。」
「はい。こちらです。」
分厚い書類に目を通していく。
処理前の案件も頭に刻みながら、他の書類にサインをしていく。
「例の件、処理は済んだのか?」
「もちろんです。処理に関わった者達も全て……問題ありません」
血の匂いがする。従業員の足元を見ると、ズボンの裾に黒い血が滲んでいた。
「ならいい。後でその服も着替えろ。」
「御意」
血を見ても、処理の話を聞いても何も感じなくなった。
「来月以降だが、俺の不在が増える。進行している3件分はお前に任せた。」
「後、花が足りない。あの花屋の取引を少し増やせ」
「仰せのままに」
昼にミーナから取引先が閉店したと聞いた。少しは足しになるだろう。
貿易商に飾っている花はすべてミーナの家から購入してる。
僕は一通り業務を終えると、屋敷へ戻る馬車に乗った。
魔法が使えず、どう生きていくの悩んでいた時
おじい様にこの店をやってみないかと言われた…あの日から
ここのオーナーになった。
「お前は自由に生きて良いんだ」
「自分が本当に望む事をやりなさい。」
優しく微笑んで、いつも僕の頭を優しく撫でてくれた手は
もう二度と触れることは出来ない。
おじい様が僕の父上だったら…良かったのに。
よく父上と、おじい様は顔を合わせば喧嘩をしていた。
僕の冷遇をどうにかしたくて…二人の仲はどんどん悪化していった。
―僕が魔力がないせいで、全部僕のせい…―
街に出るときの馬車も屋敷の使用人ではなく
この店でおじい様と長年一緒に過ごした人物達のみに出させている。
―絶対にこの事は、誰にも…特に両親にバレてはいけない。―
「着きました。」
「ご苦労。また連絡する。」
僕はいつもの子供姿になって屋敷の裏から帰っていった。
馬車を降りた瞬間から、笑顔の仮面を着ける。
―このくだらない家から1日でも早く抜け出す―
僕は成人する前にこの家を出る。
そしてミーナと幸せな家庭を作るんだ。




