EP.49 幻覚の巣穴
毛玉師匠から言われた修行の旅。
辺りは紅葉している山の中を進む。
段々と山の肌が見え、岩場が広がって来た。
「今日はここまでにしましょう。テントを張ります。」
ラークが手際よくテントを組み立て始める。
サーシャから送られてきた結界を付与された折り畳みテント。
袋から取り出すと同時に展開される柔らかい光の結界波が広がる。
「あいつ、過保護すぎんだろ?」
そう言いながらも、口元は上がっていた。
正直、この旅が何日掛かるのか分からない。
でも、普通に誕生日を迎えるだけでは自分でも納得がいかないと思っていた。
毎日、修業してきた実力確認をしようじゃないか。
「ラークは大切な人って居るのか?」
焚火に追加の小枝を入れながら、話し出したクレール。
「それはクレール様……」
「俺じゃなくて!その、家族とか恋人とかってやつだよ」
「妹がおりましたが、結婚してからは疎遠で、私が戦争に行く前に恋人とは…。」
「そうか…。お前も色々あるよな。すまん。」
虫の音だけが静かに響いていた。
「なぁ、俺……この数か月で強くなれたのかな」
「大分身のこなしも、魔法を交えた攻撃も出来るようになりましたね」
目の前にある焚火は優しく周囲を照らす。
パキパキッと木の破裂音が小さく響いた。
「あいつが危なくなった時に発動した力は、結局その後出せなかったけどな」
「早く強くなりてぇと思うほど、空回りして…俺何やってるんだろうな…。」
弱音を吐くのが珍しくてラークは目を丸くした。
「ラーク、そういえば俺の誕生日はいつなんだ?」
「あと1ヵ月後の12月1日です。」
「へぇ。」
冬生まれだったのか。
指定場所はここから近い。出発したい気持ちを抑えながら夜を過ごした。
翌日の昼。
とうとう、幻覚の魔物が居る巣穴に到着した。
グルゥゥゥウ……
獣の唸り声が重なって奥から聞こえてくる。
ラークは炎魔法で照らしながら先頭をゆっくり歩きだした。
毛玉からの情報によると、魔物の主は攻めてきた者が一番恐れる者の形になり襲ってくるらしい。
「悪趣味な魔物だ。ドラゴンとかもっとヤバイ魔物を試練に回すと思ってたぜ」
洞窟へ足を踏み入れた瞬間。
ぞわっ―
背筋に嫌な感覚がした。
さっきまで洞窟だったのに、視界が一回転して情景が変わる。
「クレール様。お気をつけください」
「分かってる」
剣をゆっくり引き抜き、構えながら進む。
すると、スポットライトが奥に照らされた。
「……っ!?」
気づけば、そこは王宮の謁見場所のようだった。
豪華な赤絨毯。高い天井。玉座には、美しい男女が座っている。
金の髪。冷たい瞳。
「陛下……王妃様……。」
ラークが突然跪いた。
「おい、どうした?」
「…!?」
誰だ、こいつら?俺の本当の家族…?
まさか魔物で見させられるとはな…。
「ラーク。この者を排除しろ。王命だ。」
「御意」
いつの間にか瞳の光が無くなったラークは、剣を構えこちらに向かってきた。
「は?」
次の瞬間、剣が振り下ろされる。
ガギィン!!
「っ!?」
咄嗟に受け止める。
「おい!惑わされるな!」
だがラークは無表情のまま斬りかかってくる。
ラークが操られてしまった。
「おい!しっかりしろ!俺だ!クレールだ!!」
剣を交わしながら必死に声を掛けるが、ラークの瞳には光が戻らない。
俺が怖い人物…は親なのか?
「カイル!なぜ産まれた。醜い魔力、醜い姿。本当に残念でならん」
「俺だって、産まれた場所間違えたんだよ!クソが!!」
攻撃魔法をかわしていく。
「早く楽になりなさいよ。誰からも愛されないカイル…なんて可哀想なのかしら」
王妃の姿をした魔物が冷笑する。
「あ”?てめぇらのせいだろ!」
「王妃様に向かってなんという態度!!」
ラークが飛び掛かって来たが、瞬時にかわし首に回し蹴りをする。
「ぐっ…。」
壁に打ち付けられ、気を失ったラークを見る。
「そこで寝てろ。クソが」
剣を構え直し、深く息を吸い込む。
ーこれは、全部幻覚だ。―
2人に斬りかかろうとした時だった。
「クレール!」
聞き慣れた声が響いた。
「クレールは私を殺さないわよね?」
後ろを振り向くと、笑顔のサーシャがいる。
「…やめろ……」
「私、ずっとね…あなたの事が大嫌いなの」
笑顔で攻撃してくるサーシャの姿をした魔物。
「……その声で、俺に話しかけるな!!」
攻撃魔法を避けるしかできない。
心が…痛い…。
「くそっ!!」
― 失うのが怖い人も出てくるのかよ…。 ―




