EP45. 影が見た皇女の秘密
「陛下がお帰りになりました!」
昼下がりの澄んだ青空の下、多数の馬車と共に皆が帰って来た。
私はルーカス。
前王に拾われ、この城に仕えて50年余り。
スラム街で産まれ、影移動のスキルをかわれて幼い頃から成人後まで暗殺者だった。
今では城の執事兼、情報ギルド長を他の者に託し
王家を陰からサポートしている。
「陛下、お帰りなさいませ。」
「あぁ、ただいま。私が居ない間、ご苦労だった。」
「ご無事でなによりです。」
いきなり陛下が私を抱きしめながら耳元で
「上から見守ってくれていただろう?」
「はて、何のことでしょうか?」
「…そなたも見ただろう。あの子の力を…」
「分かっております…。私はこれからも見守るのみです。」
「頼んだぞ…。」
背中をバシバシ数回叩かれて体が離れた後
バタバタと上から足音が聞こえてきた。
「パパ!!」
階段から走ってくる皇女様がそのまま陛下に飛びついた。
―皇女様…あなたは…その小さい体にどんな力を他にお持ちなのだ―
「アイビー!会いたかったぞ!」
娘を高く持ち上げる陛下。
「パパ…パパ…。私も会いたかった…」泣きじゃくる皇女様
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま。」
抱きしめあう親子を見て周りの使用人は涙を浮かべるものも多かった。
先日見た記憶が思い出される。
陛下が意識不明だったと聞いて…現地に赴いた時。
兵士達、陛下の部屋の見張りまで倒れていた。
うっすら漂う花の香りが天井裏に居た私を包んだが
耐性があるため、他に刺客が居るのではと息を殺し様子を見ていた。
すると―
赤髪の女と金髪の少年が陛下の寝室へ入っていく。
平民の服。年の頃は四十前後。どこにでも居そうな主婦と子供に見えた。
私はいつでも始末出来るように待機する。
2人が部屋に入った瞬間、空気が変わった。
彼女は迷いなく陛下の額へ手を置き、柔らかい光を放ちながら治癒魔法を発動した。
それも、王宮魔導師級を遥かに超える精度で。
「……まさか」
見たこともない薬液。収納魔法。拘束術式。
そして何より、この女から発する魔力の質…。
私は長年、皇女殿下のお側に居た。あの御方の魔力を、間違えるはずがない。
「……皇女様」
喉まで出かかったが、飲み込む。
なぜ、お姿を変えているのか…秘密裏に動くのか。
そしてその力はどこで取得したのか?理解が出来なかった。
刺客が現れた時、私は飛び出す覚悟をした。
だが必要なかった。
赤髪の女は、側に居る少年と共に冷静に敵を制し、陛下は一瞬だけ目を開き、敵を雷撃で援護した。
…なんだこの親子は。最強すぎる。
陛下…起きてますよね?
部屋に居た、少年と目があった気がした。
あの少年の魔力は…抑えているがただ者ではないのは分かった。
やがて彼女は、陛下の手に証拠を握らせ、紙切れを残した。
こいつら犯人!牢にいれとけ!
……字だけはガキ…年相応だった。
私は危うく吹き出しかけ、口を押さえる。
無表情だった月日から、今では生き生きと城で過ごされていたとばかり思ってた
でも、裏では色んな人を助けていたのではないか…?
「皇女様。あなたをこれからもお守りします。この秘密を抱えて…」
誰にも聞こえぬ心の声でそう誓った。
~~~~~
南庭園の白い東屋には、色とりどりの花が咲き誇っていた。
丸いテーブル。白地を基調とした花柄の茶器。高級茶葉の香り。季節の果実菓子。
優雅なお茶会に見える。
だが、そこに集まった令嬢達の笑顔は薄く、目だけが冷たい。
今日は戦場だった。
主催は皇女アイビー。招かれたのは少人数。
王家専属宝石商の娘、デイジー。伯爵令嬢。その取り巻き二人。そして数名の若い令嬢達。
柱の陰に立っている。
「…子供なのに、殺気に近い感情がすごいのう…」
リリーは私の足元でクルクル回っていた。
「今日が来ちゃったわね。」
「主なら上手くできるさ」
私主催のお茶会…開催当日。
「皆様、本日はありがとうございます」
アイビーが微笑む。
その笑顔に場は和らいだように見えた。
すぐエリーナが口を開く。
「デイジー様、お久しぶりですわ」
「最近、ますますお綺麗ですこと」
「婚約も順調で、王家専属にもなられて…羨ましい限りですわ」
周囲がくすりと笑う。
褒め言葉に毒を混ぜる話し方。
デイジーは微笑みを崩さない。
「ありがとうございます」綺麗なお辞儀で返す。
いつもなら、ここでデイジーが癇癪を起すのに…
微動だにしない姿を見て驚く周囲。
しばらくして、侍女が紅茶を注ぐ。
その瞬間。
「あっ」
デイジーのドレスへ紅茶がこぼれた。
淡いピンク色の布へ茶色い染みが広がる。
「申し訳ございません!」
侍女は慌てる。
エリーナが扇で口元を隠した。
「まあ……残念ですわ」
「そのドレス、婚約者様からの贈り物でしたでしょう?」
デイジーの表情が揺れ崩れていく。
アイビーは静かに侍女を見る。
侍女は青ざめ、目を逸らした。
さらに追撃が来る。
「でも、奪った物は汚れやすいのかもしれませんわね」
空気が止まった。
「……何のことでしょう」
デイジーがゆっくり顔を上げる。
「私の幼馴染であり、未来の婚約者になるはずだった方」
エリーナは笑う。
「アルベルト様のことですわ」
ざわ、と令嬢達が息を呑む。
「あなたが横から現れて奪った」
「違います!」
デイジーが珍しく強く言い返した。
「私はそんな――」
「ではなぜ彼はあなたを選んだのかしら?」
エリーナの声が震える。
怒りではない。
長年押し殺した痛みだった。
その時だった。
庭園入口から声がした。
「その答えなら、僕からお話しましょう。」
全員が振り向く。
現れたのは、端正な青年が立っていた。




