EP.42 その背中が、国を守る
その頃、遠く離れた別邸。
ガァン!!
剣と剣がぶつかる轟音が夜を裂いた。
いくら斬っても終わりが見えない。刺客の膨大な数。
謁見後から何度も送られてきた刺客。
大元の屋敷に帳簿があるとルーカスからの情報で潜入したらこのざまだ。
騎士団長が息を切らしながら言う。
「陛下!数が多すぎます!」
「泣き言か?」
「言ってません!」
再び敵が押し寄せる。
「確実に仕留めろ!!」敵が叫びながら斬りかかってくる。
ランクロッドの剣が唸った。
床には倒れた刺客達が増えていく。
壁には焼け焦げた跡。窓ガラスは割れている。
中央に立つ一人の男 国王ランクロッド。
肩から血を流しながらも、その眼光は鋭い。
「化け物め……まだ立つのかよ!」
黒装束の男が叫ぶ。
「当然だ!!」
ランクロッドは大剣を肩へ担いだ。
「娘の待つ城へ、私は帰るのでな」
騎士団長と国王は背中合わせに戦い続けていた。
「陛下!右からまたやってきます」
「ああ、分かっている。」
次の瞬間。
雷光が走る。
バチィィィン!!
刺客が悲鳴と共に吹き飛んでいく。
だが国王の少ない魔力や膝もまた、限界を迎えていた。
「……くっ」
膨大な魔力の消耗。呼吸が乱れ、視界が揺れる。
「陛下!!魔法を使っては…」
「仕方なかろう…。次、来るぞ」
魔法を連発する陛下が心配でたまらない…。
「陛下!陛下!!」
「騒ぐな……耳に響く」
「まだ強がりを」
「強がりではない」
王は笑った。
「少し、眠いだけだ」
そのまま一歩踏み出し、膝をつく。
それでも剣だけは手放さなかった。
それでも国王は倒れない。
「まだだ…!娘に、ただいまと言うまではな!」
再び扉の外から足音が迫る。
敵はまだ居る。
国王は剣を握り直した。
ランクロッドは片手を上げる。だがその手はわずかに震えていた。
騎士団長は気づく。
―魔力が、もう少ない。―
王は本来、剣と主に火と雷撃を同時に扱う怪物だ。
その王がここまで追い込まれている。
敵は想定以上だった。
「陛下……撤退を」
「ならん!!」
即答だった。
「この屋敷には、奴らの帳簿と証拠がある」
床に散らばる書類へ視線を向ける。
違法売買。密輸。奴隷取引。
これがあれば一気に潰せる材料なのだ。
そしてこの襲撃そのものが、黒幕の証明だ。
背後から短剣が迫った。
「団長!!」
声より先に雷光が走る。
バチィィィン!!
短剣を持った刺客が悲鳴と共に黒焦げになって倒れた。
「……助かりました」
「ああ。」
「ここで逃げれば、また誰かが泣く事になる」
「…あなたという人は…。」
騎士団長は歯を食いしばった。
この男は昔から変わらない。
誰よりも乱暴で不器用で、誰よりも民を守る。
だからこそ、皆この背中を追いかける。
その時だった。
屋根の上から矢が放たれる。
「陛下!!」
騎士団長が飛び出すが間に合わなかった。
矢が王の肩に突き刺さった。
「ぐっ……!」体制が斜めに傾く
「っクソガァァァア!!」
ランクロッドの怒声が響き渡る
次の瞬間、王の全身から雷が迸った。
ビリビリ…バチバチィィィ!!
屋敷全体を白光が包む。
窓ガラスが砕け、柱が揺れ、刺客達がまとめて吹き飛んだ。
悲鳴が重なり、静寂が落ちる。
敵は倒れ伏し、立っている者はいない。
だが、唇の端から血が垂れる。魔力を絞り切った反動だ。
騎士団長は肩の矢を折りながら、王の前へ立つ。
「ここからは私が守ります」
「生意気な、でも頼んだぞ」
「部下ですので」
二人は笑った。
―帰らねば、あの子に、ただいまと言わねば―
娘の笑顔が目に浮かんだ。
遠のく意識の中、王は最後の力で呟く。
「……誰が……寝るか……」
そのまま、気絶した。
「陛下ああ!!」
騎士団長の叫びが屋敷に響く。
次の瞬間、外から兵士達の足音が近づいてきた。
―援軍だ―
「陛下!団長! ご無事ですか!」
「遅いぞ!!」
怒鳴りながらも、騎士団長は安堵していた。
王はまだ、生きている。
この男はきっとまた立ち上がる。
娘の前では、何事もなかった顔をして笑うのだろう。
「……本当に、あなたという人は…一緒に帰りましょう…城へ」
騎士団長は小さく笑った。
その頃、城の少女はまだ知らない。
明日、自分が十人の子供達と出会い。
そして父を救うため、再びサーシャとなることを。




