EP.41 檻の中の奇跡
「マスター!!」
影武者が抱きついてきた。
「ごめんね。色々あって遅くなっちゃった」
「ずっとお帰りをお待ちしておりました…。会いたかったです」
涙ぐみながら、最後は微笑んでいて…私は驚いた。
いつの間に…影武者が表情豊かになっている。
心を持ったみたいだ。
「寂しかった?」
「……はい。とても」
胸が少し痛んだ。
ここはずっと住んできた私の部屋のはずなのに、少し離れただけで妙に落ち着かない。
それから、今まであった出来事を二人は語り合った。
私はクレールのこと、ラークのこと、追手に狙われたこと、食堂の人達のこと。
全部話した。話し終えると、影武者は静かに立ち上がった。
「…マスターを殺そうとするなんて…万死に値する…今すぐ私が!」
「もう居ないから大丈夫よ。」
「足りません…。」
ムスッと口をへの字にしてる影武者。
「その少年と男はどうするおつもりですか?」
「うーん…考えてたんだけど、この城に来てもらおうかなって」
「!!それは危険です!」
「そこはおいおい、かな…。すぐじゃないし、準備も必要だから」
「…。私は止めましたからね……?」
頬を膨らませる影武者。
「そちらはどう?」
「…。魔法の授業で…城の壁を…少し壊しました」
「先生にもっとって言われた?」
「はい…完璧にしようと何度か大きい術を放ってしましました」
「目に浮かぶ~。居ない間、私の代わりをしてくれてありがとうね」
「いえいえ、この城の者達がマスターの事を大好きだと思っていると
認識できたので。私としても良い時間でした。」
「マスター…瞳の色が以前よりも濃くなりましたね?」
「そう?自分だと気づかなかったわ」
「今度、また夜にお礼をさせてね。」
「まだお話……」
何か言いかけた?気がしたけど
一旦、私は影武者をBOXへ閉まった。
~~~~
―結局、あれから眠れないまま朝を迎えた―
まだ、おでこに残った感触と声が…心をざわつかせている。
「まだ1日も経ってねぇのにな…」
乾いた笑いが出る。横に視線を動かすと、毛玉が俺の側で寝ている。
こいつなりに気を使って側に居てくれたのかもしれない。
「という訳で、我は主の元へ行く!」
「週に数回抜き打ちで修行してやるから楽しみに待ってろ!」
「はい、このラーク。クレール様をお守りします。」
「さっさと帰れ!」
「素直じゃない弟子じゃの~ フフン!寂しいだろ?」
「特別に今は我を撫でてもいいんだぞ?」
少年の周りをゆっくり回り出す毛玉。
「は?帰る前に風呂に入れてやろうか?」
ニ”ィ!!
毛を逆立てながら、ラークの足元に走った。
「あ、忘れておったわ。ほれ!」
毛玉から指輪が飛んで来た。
「通信用だ。なんかあったら我に繋がる。ラークの分も作っといた。」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
二人は指輪をつける。
「これは我が認めているやつしか見えない。毎日は止めろよ?主との時間が減る!」
「…」
「ありがとうな…師匠」少年は小さく呟いた。
目を細めるリリー。
「何と言った?聞こえん!」
「は?帰れ!!」
「じゃあの!」
しっぽを数回振りながら歩き光に包まれた師匠。
―騒がしい師匠は城へ帰っていった。―
静かになった部屋で、クレールは天井を見る。
「……会いてぇ」
その声は誰にも届かなかった。
その夜。
城で保護された子供達は、大部屋へ案内されていた。
「今日からここで眠る場所よ。長旅で疲れたでしょう?ゆっくり休みなさい」
メイドはそういうと部屋から出ていった。
ホコリっぽくない清潔な床。厚い絨毯。柔らかな灯り。
そして、人数分のベッド。だが、誰一人近づかない。
「…ねぇ…これ、本当に使っていいの?」
やっと触った布団のふかふかの感触に驚きと嬉しさもあるが
本当に信じていいのか分からない。
少女が震えた声で呟く。
「座ったら怒られるかも……」「汚したら殴られるんじゃない?」
誰もが部屋の隅で固まり、立ったままだった。
そこへ、ルーカスが静かに入ってくる。
「皆、どうしました?」
「……ベッド、汚したら怒られちゃう?……」
「今日はここで眠りなさい。見張りも鍵もありません」
ルーカスはドアのノブをみせる。鍵穴はない。
「……逃げなくていいの?」
「逃げる必要がありません」
撫でようと手を子供の頭にかざした瞬間
子供は両手で頭を守る体制を瞬時に取る。
「鞭とか……怒られない?」
見上げながら震える子供
「怒りませんよ」
その一言で、小さな男の子が静かに泣き出した。
それをきっかけに、あちこちからすすり泣きが広がる。
―こんな小さい子供達にあいつらは…―
静かな怒りが沸き起こってくる。
ルーカスは一人一人に毛布をかけて回った。
「怖い夢を見ても大丈夫です。ここには誰も鞭を持って来ません」
「夜中、怖くなったら私の部屋でお茶でも飲みましょう。
奥の部屋ですから尋ねてきなさい」
その言葉に、少女は顔を覆って泣いた。
泣き疲れたのか、その後すぐ眠る子が多かった。
~~~~
城で保護された最初の夜。中々眠れずにいた。
金の粒を出せる能力を持つ少女が窓の外を見ていた。満天の星空が広がる。
他の皆はスヤスヤ眠っている子、うなされている子も居るけど…。
起きているのは私だけ。
「あの子も……ここに連れて来たかったな……」
治癒魔法を使ってくれた少年。もう会えない優しい友達の事を思い出していた。
「おい!酒代用に金を出せ!」
毎日殴られて、出ないと更に鞭でぶたれる…。
2日に1回の食事も小さいパンか芋。
「お前が能力を使わなかったら、他のやつを殴るだけだ」
―…消えたい…―
最初は逃げ出そうとした。でも付けられた首輪のせいですぐ見つかってしまう。
私はいつの間にか、逃げるのを諦めて人形のように感情を少しずつ無くしていった。
街を移動する度、知らない子供達を見かけては去る度に消えていく。
「私は一生死ぬまで…この生活なんだ…」
今日も小さいパンをかじる。
「もういいよ?スキル使ったらお腹空いちゃうでしょ?」
私がいつも暴力を振るわれた後、この子は治癒魔法をかけてくれる。
「ごめんね。俺がまだ子供だから…いつも完全に治せなくて…」
商品になりそうな子供は殴られない。値段が下がるから…。
そんなある日。
「今日のご飯持ってきたよ」
「…。」
「ねぇ…」
揺さぶろうとすると体が冷たい。
「…え…。ねぇ!!」
「私…まだちゃんとお礼言えてないのに…。」
少年の体は冷たく硬くなっていた。
「あーこいつダメになったか。おい!こいつを裏の山に捨てろ!」
見張りの男がその異変に気付く。
「せめて土の中に埋めさせて!!」
私は男にしがみつきながら懇願した。
「なんだ、クソガキ!調子に乗るな!」
蹴り飛ばされうずくまる私。
その夜はいくら殴られても金の塊は出なかった。
「暫く地下で反省してろ!!」
私と、私を庇った子達は地下の檻に入れられた。
与えられたご飯も食べなかった。お腹も空かない。無の時間が過ぎていく
―あの男の子の元へ早く行きたいな…。―
冷えた床に横になり、目を閉じようとしたその時…
「ダメだよ!君は生きなきゃ!」
懐かしい声が聞こえた気がした。
目を開くと、死んだはずの男の子が目の前に現れて私を見ている。
「え……私を迎えに来たの?」
少年は首を横に振った。
「ねぇ、誰と話してるの?大丈夫?」
同じ檻に居た子が話しかけてきた。
「見えないの?」
「うん…。」
―そっか、人生が終わる人にしか見えないのかも。―
男の子は、私の服裾を数回ひっぱる。
「大丈夫。優しい人達が、もうすぐ助けにくるから。今眠ってはダメだよ!」
「そんな訳ないじゃない…。早く私を連れってよ。一緒に外で遊ぼう?」
もうこんな人生要らない。私は何度も連れってってと言うと困った顔をしている少年。
「じゃぁ、歌を大きい声で歌おう!俺の歌を真似して!」
一緒に歌った。男の子が上を一瞬見上げた。
「これで大丈夫!奇跡は起きるよ」
「…少ししたら、君に会いに行けるように頑張るから……その時は沢山遊ぼうね!」
「奇跡って…?あ、いつも怪我を治してくれて、ありがとうね。」
「ううん、気にしないで。毎日大変そうだったから…。」
「これから沢山幸せになるんだよ。」
男の子は私の頭に手をかざし終わると、少しずつ消えていった。
「行かないで!私も…!!」
手を伸ばしたが、姿が消え 目の前の壁しか見えなくなった。
―幻覚だとしても、また会えて嬉しかったな―
暫くすると、上の方からガタガタとドアを開ける音とランプの灯が視界に入った。
「助けに来た。立てるか?」
知らないおじいちゃんが、動けなかった私を抱える。
不思議と怖くない。温かい……。
「大変でしたね…。もう安心してください」
視線を横にやると、庇ってくれた子は震えて立っている。
「…あなたは…誰ですか…?」
「私はルーカス。隣国の王に仕えている者です」
「王様の…お友達??」
はてなマークの表情の子供達。
「少し違いますが…そんな所です。
下から声がしたので、来てみれば…。よく頑張りましたね」
私が友達と歌っていなければ…今頃気づかれなかったかもしれない。
天井を見ていたのはこの事だったんだ…。
―奇跡起きたよ。ありがとう……―




