EP37. 知らなかった歴史と腐った街の掃除人
「弟子、安心しろ! 主は大丈夫だ。
家に入ろう。あとそこの男も一緒にな。我は、後片付けをしてくる」
「ああ。ラーク、こっちに来い」
「はい」
ガチャッ
家に入った俺達は、ベッドにサーシャを寝かせた。
少し遅れて俺の手と膝が、再び微かに震えだす。
「殿下」
「今の名前はクレールだ」
ガタッ
「とりあえず座れ、今までの事あいつが寝ている間に知りたい」
「分かりました」
クレールが引いた椅子に腰を掛けたラークは、静かに話し始めた。
クレールが生まれた、数カ月後。突然、赤目と黒髪に変化した。
原因が分からず、先祖返りと判断されたまではよかったが
そこから、魔物が増え始め戦争も頻繁に起き始める。
『そいつは俺の子ではなかった。処分しろ』
国王が城で宣言した後、王妃が兵士に指示を出し
魔物が居る森に捨てられた。
「私は殿下を救出し、とある平民の家族に託しました。
その後、戦に参加した為、金を数年送ることが出来なかったのです」
―育ての女が言っていた、『突然金が入らなくなった』のはそういう事か―
「なぜ、俺を探していた」
「戦争から帰った後、金を渡そうと家に向かいましたが……
住民はおらず、そこからずっと探していたのです」
「第一王子が亡くなったのはなぜだ」
「他国へ視察に行った際に、平民の子供から貰った果実で毒殺されました」
ガタッ!
勢いよく椅子から立ち上がったクレールは大声を出した。
「それは何年前だ?!」
「1年以上前です」
―俺がやった任務と状況が一緒じゃねぇか―
静かに座り直したクレールは、俯き溜息をついた。
「過去はもう変えられぬ。大事なのはこれからだ」
いつの間にか足元に居た毛玉は、尻尾をクレールの片足に絡める。
「分かっている……。続けろ」
その後、黒い男達の話に移り始める。
サーシャが俺を助けてくれた日、俺に付けた呪いが壊れ場所が分かった。
覚醒か、はたまた強靭な協力者の元に居ると判断され
暗殺隊が結成されたという流れだ。
「事情は分かった」
「今、城内は王子を戻す派と暗殺する派で、かなり混乱しています。
戻るのは危険です」
「安心しろ。俺は戻る気はない」
ラークは、頷くとガサゴソと胸元から古い布で出来た小袋を取り出す。
「殿下に渡そうとしていた物です」
中身を取り出すと、紋章入りのネックレスが入っていた。
「王族の証でございます」
「……俺には、必要ない物だ」
豪華な金の台座に付いている黄緑色の石を見つめた後、
ラークへ返そうとした瞬間。後ろから声が聞こえ振り返る。
「クレール」
咄嗟にネックレスをポケットにしまったクレールは、サーシャの部屋に入った。
「ケホッ、ケホッ。皆は、無事なの? 」
「ああ。水持ってくるから、待ってろ」
サッと小さい手が伸びて、クレールの裾を掴もうとした。
「ん? どうした? 」
「ご、ごめん。私、子供みたいね」
伸ばした手を引っ込めたサーシャは、苦笑いをしている、
「全部終わったから安心しろ」
頭を撫でようとクレールが手を伸ばした瞬間、
クレールの背中に衝撃が走る。
ドカッ!!
ニッニ”ャ”アアァー!!
『長い!! 離れろ! 』
「痛ってぇな! 」
トコトコ……
ポスッ
「あらあら、猫ちゃんも無事で良かった」
サーシャの腕の中に飛び込んだ毛玉は満足気にヘソを見せ、ゴロゴロ鳴いている。
ウニャア~!ニャッ!
『主~! 我、頑張った! もっと撫でよ』
―このクソ二重人格毛玉がよお―
クレールは一瞬睨んだが、いつもの平穏が戻ったと思い
フッと笑みを浮かべる。
窓から見える空は朝焼けが、森の木々を照らし始めた。
その後、クレールはラークを2階の部屋に連れていき、
ここで休むように伝えると扉を閉めた。
パタンッ
「疲れたな」
トボトボと2階から降りたクレールは、キッチンで水を飲んでいた。
すると、後ろから毛玉に話しかけられる。
「我、結界を張ってくる。お前も休むがよい」
「ああ」
毛玉が目の前から消えると、クレールはサーシャの部屋に入り床に座り込んで様子を見ていた。
スヤスヤとした寝息が聞こえる
―良かった。皆、無事で―
床に座ったまま、クレールの頭が揺れると瞳をゆっくり閉じた。
――翌朝
―猫ちゃんかな、でもモフモフしてない―
サーシャは目を開けないまま、そっと触れると柔らかい毛の感触がした。
パチッ!
パチッ!
「……!!」
2人の目が同時に開くと、驚きのあまり声が出なかった。
―なぜ、同じ布団に?! ―
「な、なんで俺?! 」
慌てて、ガバッとベッドから降りるクレールを見た私は苦笑いをした。
「えっと、おはよう」
「おはよ」
暫く沈黙が流れた部屋に、扉を叩く音が響いた。
コンコンッ……
ガチャッ
「おはようございます。クレール様。サーシャ様」
ラークが笑顔で部屋に入って来た。
「クレール様が床で寝ていたので、ベッドに寝かし直しました」
「お前だったのかよぉぉお! 」
クレールの叫び声が、部屋に響き渡ると
毛玉がゆっくりと部屋に入って来た。
「うるさいぞ、弟子。……次同じ事があったら、分かっておるな? 」
ギロリとクレールを睨む毛玉を見たラークは、微笑み首を傾げている。
「いや、俺悪くねぇって! 」
「まぁまぁ、皆でご飯にしましょう」
3人と一匹はキッチンへ移動し、ラークが作った朝ご飯を皆で食べ始めた。
◆
コンコンッ
「陛下。ルーカス様が到着しました」
「通せ」
「陛下、お久しゅうございます。」
「おぉ、来たか。いつも急にすまない」
部屋に入ったルーカスは、鞄から分厚い報告書を取り出し手渡した。
「例のものです」
「ありがとう。そこ掛けてくれ」
ルーカスは頭を下げ、部屋の中央にあるソファーに座った。
その後、向かい側に座った陛下は、貰った書類に目を通し始めた。
パラパラとめくる音が増える度、どんどん目は細くなっていく。
パサリッ
書類を置いた陛下は溜息をつき、額に手を当て顔を上に向けた。
「やはり、腐った連中だ」
「内密に消しますか? 」
「いいや、これは氷山の一角かもしれぬ。
消すより、生け捕りで逮捕がいいだろう」
私は、例の兄妹から聞いた男達の情報を探るようにルーカスに託していた。
書類には、男達は戦争があった街で特殊な力がある子供だけを攫い他国で売り飛ばしていた。
他にも、過去の悪行と現在の拠点が記されている。
「問題は、魔法を操れる者だ。どの程度なのか分からぬ」
「その程度の小物。私一人で十分でございます」
「一応、数名の兵士をつけるゆえ。指揮はルーカス。頼めるか?」
「はい。必ずや悪人共を、素早く確実に仕留めてみせます」
「あぁ。その……生け捕りだぞ? 」
「御意」
眼鏡を上に片手で持ち上げ、静かに頷くルーカス。
―やはり、ルーカスは頼りになる―
それから、場所を変えて兵士数名と騎士団長を呼び出し
我々は会議を始めた。
「標的は、そろそろ街を去ると予測している。作戦はこうだ――」
配置や流れを説明し、今日の夜決行することになった。
今日の瓦礫作業後。
標的へ配布品の睡眠剤入りワインを騎士団長が渡す。
「お! いいのか? 」
「はい。皆さんにお裾分けしているので、良かったらどうぞ」
「ありがとな! 」
標的の男達は上機嫌で、現場から帰って行く。
その背中を、鋭い眼差しに変わり拳を握りしめた団長が見つめていた。
「後で、全員ぶっ潰す」
小さく呟き、団長は馬に乗って帰って行った。
――その日の夜。
街の街灯が消え、薄暗い小道に数名の影が集まる。
「陛下。準備が整いました」
「行くぞ。優先は、子供達の救出だ」
それから、影は一斉に散らばり屋敷へと消えて行った。
ルーカスは屋根裏から侵入し、標的や子供の位置を確認した。
―久々の現場。短時間で終わらせますぞ―
檻の子供が上を見上げ、空気が入る鉄格子の先に居たルーカスに気づく。
「シーですよ?」人差し指を口に当てるのを見ると、
子供は静かに頷いた。
ズッズズ……
ルーカスの姿は影となり、見張りの男達が居る場所へ向かった。
「ただの見張りで金貨が貰えるなんて、楽な仕事だぜ」
「ああ。次の街で売り払うんだろ? 特別手当貰えるらしいぞ」
男達の笑い声を聞いたルーカスは、心の奥で怒りの炎を燃やした。
―小さき子供を閉じ込め、笑っているとはお仕置きが必要だ―
バタンッ
一人の男が突然、椅子から地面へと倒れ動かなくなった。
「おい。どうした? 」
隣に座っていた男が、倒れている男を揺さぶる。
ルーカスは、背後から急所に狙いを定め素早くこの男も倒した。
シュルシュルッ
黒い束を手足と口に巻き付け、一ヵ所に男達を集めた。
―ふむ。体が鈍っているな、城に戻ったら鍛錬をしなくては―
眼鏡を上に持ち上げ、再度あの檻へと戻って行った。
カシャカシャッ……
中々、開かない鍵に苛立ちを隠しきれないルーカス。
「クッ。最新の鍵を使いおって……小賢しい。
皆、数歩後ろに下がりなさい」
ルーカスは、指先から黒い光を鍵が付いている檻へと放った。
すると、檻の鉄が一気に溶けボトボトと地面に落ちる。
「おじちゃんは、誰? 」
「助けに来ました。静かについて来なさい」
子供達は、静かに頷くと泣かないように声を押し殺しながら
ルーカスの後ろを歩き出した。
――別の部屋では
標的の部屋では男達がワインを飲んで酔っ払っていた。
「今日はいい日だ!」
「こんなぁ、旨い酒は久々だなぁ~! 」
ドゴォォオッ!!
粉塵が舞い、辺りは煙に覆われた。
天井から兵士達と騎士団長が一斉に降りる
「なんだ、お前ら!」
「俺達? 汚いお前らを掃除しに来た」
その後、男達は酔いが回ってるのもあり、
兵士達が素早く拘束と口に布を巻き付けた。
ダダダッ……
出口から兵士の一人が陛下へと駆け寄ってくる。
「殿下! 標的の確保。完了しました」
「ご苦労であった! 」
その後、暫くしてルーカスと子供達も出てきた。
「もう大丈夫だ。皆、頑張りましたね」
ルーカスが子供に言うと、数名の子供が周りを見渡し
首を傾げる者。泣き出す者も居た。
「陛下。まだ中に居るかもしれないので、探しに行ってきます」
「あぁ、よろしく頼む」
警備兵が到着し、男達を連行していく途中でルーカスが戻って来た。
「陛下。地下室に子供が数名、残っておりました」
出てきた子供達は、髪や瞳の色が特殊、または別の種族の容姿をしている者もいた。
さっきの子供達とは違い、魔力封じの首輪をつけている。
「こ、殺さないで」
「良い子にするから」
よく見ると切り傷や、殴られた跡が腕や足に見える。
「私達は、助けに来ただけだ」
陛下が泣いている子供の頭へ手を伸ばすと、
子供は瞬時に両手を頭に置き怯え始めた。
それを見ていた一人の少年は、勢いよく前に飛び出し
陛下の手を払った。
バシッ!
「さ、触るな! 殴るなら、俺を殴れ! 」
両手を広げ、声を荒げた少年は鋭い眼差しで睨みつける。
「お前、陛下に向かってなんて口を! 」
「よい。」
少年が大きく広げた手の先は、かすかに震えている。
陛下は一歩前に出て片方の膝を地面につき、頭を下げた。
「私にも、まだ幼い娘が居るんだ。安易に触れようとしてすまなかった」
「陛下! 頭を下げなくても……」
「俺は、お前達を信じてない」
「信じなくてよい。だが、そなた達が全員自由になったのは本当だ」
まっすぐ少年を見つめると、少年は俯きながら手を下げ無言で後ろに下がった。
「この子供達は、いかがされますか?」
「事情を聴いてから判断しよう」
「御意」
それから、子供達を馬車に乗せ家へと帰っていった。




