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元アラフォーが皇女に転生?!元暗殺者の少年を拾ったので育てます!  作者: 桜月ふたば
第一章

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35/61

EP35. 怒りのハンマーと泡に包まれる毛玉


少年と目が合うと、お互いに軽く会釈した。

私は微笑みながら、地面に膝を着き兄妹に話しかける。


「炊き出しの味はどうだ? 」

「美味しい! このお肉も、お野菜も! 」

無邪気な笑顔を見せた妹は、空の皿を見せた。


「はい、とても美味しいです! 久しぶりに肉を食べられました」

「そうか、それは良かった! 」

私は、少年の横にある石畳みの階段へ腰を掛けた。


「先程の続きを聞かせてくれるか? 」

「はい」


少年は、少しずつ話し始めた。

兄妹で炊き出しの場所から少し離れた場所で食べていると

不審な男が3、4人。少年達を囲み、パンだけを奪って行ったと――


「知らないおじちゃん達 悪い人なの! お兄ちゃんを殴ったり、蹴ったりしたの! 」


少年の顎付近に視線を移すと、一部痣になっている。


―冷静になれ、怒りを表しては子供達を怯えさせてしまう―

私はゆっくり息を吐き、まっすぐに少年を見つめた。


「そうか。大変だったな」


「僕は、妹が食べれれば別にかまいません。でも、毎回奪われるのは……」


それから、私は胸元から手帳とペンを出して

少年から聞いた男の特徴を書いていった。


「他の子供達から、同じような話を聞いたことはないか?」

「あります。でもまた違う人のようです」


「そうか。情報をありがとう。今後も、ここで食べて帰ると良い。

親はどうしている? 」


「親は、魔物に……」

少年の声は震え、暫く沈黙が流れる。


―もっと早く情報が入っていれば……救えたかもしれないのに―

やるせない気持ちと、少年の辛そうな姿を見て胸がギュッと締め付けられた。


「お兄ちゃん……大丈夫? 」

妹の小さい手が、兄の服の裾を握りしめ顔を見上げている。

少年は、苦笑いをしながら妹を膝にのせて優しく撫でた。


「すまない。嫌な事を聞いてしまったな」

「今は親戚の家で、世話になってます。でもご飯は少なくて」

「苦労したんだな、妹を守って偉いぞ」

私は少年の頭を撫でると、照れくさそうな笑みを少年は浮かべる。


それから兄妹は頭を下げ、建物から家へと帰って行った。

その小さい背中を、視界から無くなるまで私は見ていた。


―少年よ。ここからは、私にまかせろ―


「ランクロッドさん! そろそろ、次の場所に――」

「ああ。行こう」

部下から声を掛けられた私は、皆で次の瓦礫撤去現場へ歩いていく。


「~~という事があったのだ」

さきほど聞いたばかりの、兄妹の話を皆に話す。

すると、兵士の殆どが怒りを露わにした。


「なんて酷い奴らだ! 」

「俺が側に居たら、ぶん殴ってやる! 」

鎌やハンマーを持った兵士達は、大声を上げた。

私は、胸元から手帳を取り出して目を通す。


「まだ確定ではないが、瓦礫作業の時に該当者らしき人物がいた気がしたのだ」

「それなら! 皆で捕えましょう! 」

「だが、決定的な証拠がないとこちらも動けぬ」

「クッソ……もどかしいですね」


―何か良い方法はないものか。こんな時にルーカスが居たら―


もやもやを抱えながら、次の現場に到着した。

私含め兵士全員は、瓦礫を砕くハンマーに怒りを乗せて粉砕していった。


「今日はすごいなー兄ちゃん達! 」


ガッシャーン!!

ガタッッ!


―魔法なら一瞬で片付けれたがな―

苦笑いを浮かべながら、作業を進めて行った。


「少し、やり過ぎたか?」

辺りを見渡すと、瓦礫の殆どを粉砕していた。

道の片隅に、粉砕した物を入れた麻の袋が積みあがっている。


「3日分の量だぜ?! すごいな!」

「はい、これで顔と体を拭いておくれ」

作業を見ていた住人達が、水で絞ったタオルや飲み物を分けてくれた。


「ありがとう」

「いいんだよ! いつも作業してくれて、こちらこそありがとうね」


―民の為に私が出来る事は、他にもっと無いのだろうか―

民が一番大変なのに、笑顔で差し入れや温かい言葉をかけてくれる姿は

兵士と私の心に優しい光が響いていくようだった。


皆は住民へ頭を下げ、帰る準備を始める。


「3人組は居なかったな」

「ああ。残念だが、特徴はもう全員共有している」

「次会ったら、くっついて作業してやる! 」


兵士達は、闘志を燃やしながら家路へと歩いて行った。


     ◆


俺は、森の奥へ移動した後いつもの鍛錬をしていた。


―もっと早く、もっと強く―


「あーぁ。動きが鈍い」

「あ?! 」

声がする方へ視線を移すと、毛玉がいつの間にか木の上で

毛づくろいしている。


「いつから、そこに居たんだ! 」


ストッ


「いつからって、最初からだが? 」

毛玉は勢いよく地面に降り立つと、クレールへ近づいて行く。


「お前、結構魔力あるのに勿体ない。我が直々に教えてやってもいいぞ」

「ハッ! 誰が、毛玉なんかに! 」

「主を守りたいと思わないのか? 」


目を細めている毛玉に、クレールは言葉が詰まった。

毛玉はジッとクレールを見つめている。


「それは……思うに決まっているだろ」

「なら、その鍛錬では伸びぬ」

「これは、組織で覚えた鍛錬だ! 伸びないってどういう事だよ」

大声を出し、睨みつけるクレールに毛玉は溜息をついた。


ヒュンッ――

パラッ……。


紫色の球体がクレールの頬をかすり、数本の髪の毛が宙に舞う。


「おい! 何しやがる!! 」

「我に従え。お前と我の目的は一緒だ。どうする? 」


―どうするって言われても。こいつを信用していいのか? ―

暫くの沈黙が流れ、クレールは溜息をつくと静かに頷いた。


「分かった。教えてくれ」

「よかろう。一番大切な事を伝えよう! 心してよーく聞け! まず――」

「まず? 」


「我を、師匠様と呼べ!! 」

毛玉の叫び声が、森に響いた。尻尾をピンと立たせ、得意げな顔をしている毛玉を見たクレールはジト目で見つめ片手を軽く上げた。


「いや、それは毛玉で」

「え? 」

「毛玉。よろしくな」

「こんのガキがぁ――! なんで冷静に返答するのだ! 可愛くない! 」


それから、俺達は森の中を移動していた。何回か振り返る毛玉に同じ質問をされた俺は、疲れながらも目的地へと進んでいく。


「なぁ、師匠って呼びたくなったか? 」

「いや。思わねぇな」

「ッチ。可愛げが全くない! 」


サァ――

開けた場所に到着すると、風が一斉に吹いて来る。


「着いたぞ。見ろ! このために、我が整えた平地を! 」

尻尾をフリフリしながら駆け回る毛玉。

石や雑草が一切なく、走り込みやすい平地に驚くクレール。


―確かに、こんな平地は今までなかったな―


「早速、始めるぞ」

「ああ」


毛玉は真ん中に座り、ニヤリと笑みを浮かべると

全身の毛が逆立ち、黒いオーラ―を出していた。


「まずは、避けてみよ」


シュッ――


2つの黒い球がクレールへと放たれた。

「このくらい、平気だ! なめんな! 」

左右に避けたクレールが得意げに笑うと、後ろから黒い球体が戻ってくる。


「ハァ?! 反則じゃねぇか! 」

「フンッ! 誰が戻らないと言った! 馬鹿者め! 」


ブオンッ


「ッ!? 」

黒い球体は3つに増えた。

クレールは木々を渡り、身を低くして避け続けている。


「よく見ろ! 元暗殺者! 」

「なぜ、それを! 」


ヒュンッ――!

バシンッ! 


変化球を避けきれず、クレールの腹に黒い球体が当たる。

よろけたまま、地面に崩れ落ちた。


「ガハッ! 痛ってぇ……! 」

「この程度で倒れるな。主を守る気はその程度か? 」


―煽るじゃねぇか―

ふらふらと立ち上がった俺は、また構える。


「クソ!……もう一回だ」


それから毎日、毛玉と俺は鍛錬をこの平地で行うようになった。

体術から魔法まで、毎日特訓の内容は違う。


「違う! 直前まで魔力を込め続けろ! 」

「クソ!! もう一回! 」


毛玉の修行は、どんどん厳しくなっていく。



ガチャッ

「ただいま」

ニャ! 


―こいつ、サーシャの前だと猫かぶってんだよな―


「おかえり~。また泥だらけだけど、大丈夫? 」

「あぁ。これ、今日の分の肉」

葉っぱに包まれた肉を見せる。


「ありがとう! 段々、大きい動物になってるね」

「うん。コツ掴んできた。クマくらいは余裕だぜ!! 」


ニ”ッ!! 

『調子に乗るな! 』


「痛っ! 爪で刺すなよ! 」

毛玉が俺の肩から床に降り立つと、辺りをクンクン嗅いでいる。


「お風呂沸いてるから、ゆっくり入ってね」

「あぁ。風呂入ってくる」


トコトコッ……


その場から静かに別の部屋へ逃げようとしている毛玉を

クレールは見逃さなかった。


ガバッ!!


「毛玉もこい! 今日も沢山洗ってやる! 」

ニ、ニッ!! ニャァァア!

『やめろ! 我、風呂は嫌なのだぁあああ! 』


ガラガラッ


ザ――ッ


風呂のシャワーを毛玉へ容赦なく当てるクレール。


『わ、我の凛々しい姿が……』

鏡を見た毛玉は、フワフワの毛がしぼんでいる姿を見て肩を落としていた。


「汚いと、主に嫌われるぞ? 」

クレールは、沢山の泡を両手に持ち、毛玉に近づいて行く。


『クッ! ……ええい! 好きにしろー! 』


洗い終わった後、木の桶に入れられた毛玉は

ずっと大人しくお湯に浸かっていた。


――その日の夜


賑やかな一日が、今日も終わろうとしていた。

主と少年は、すやすやと寝息を立てて眠っている。


異変を感じ、耳をピクピクさせて辺りを見渡す。


『なんだ、この気配は……』


トスッ


嫌な気配を感じ。我は主の側を離れ音もなく窓辺へ飛び乗る。

金色の瞳を細め、森の奥へと視線をおくった。


「来たか。思ったよりも、遅かったな」


黒装束の不穏な気配が、いくつも森の奥で揺れている。


「うぅ……ん」

寝返りを打った主に視線を移した。


「相変わらず、元気な寝相だ。安心しろ、我がついておる」


猫は静かに床へと降り、目を細めた。


「少し、散歩してくるか」


シュンッ

小さく呟いた後、部屋から子猫の姿は瞬く間に消えた。




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