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元アラフォーが皇女に転生?!元暗殺者の少年を拾ったので育てます!  作者: 桜月ふたば
第一章

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33/61

EP33. 白い花と青い宝石


「ハァハァ……」


微かに震えながら、荒い呼吸をしているサーシャの手をそっと握った。

―冷てぇ。あの時みたいじゃねぇか―


俺は、あいつをベッドで寝かせ布団をかけた。

冷蔵庫を開け冷たい氷を取り出し、タオルにいくつか包んでおでこに乗せてみる。

首周りにも、水を含ませた布で汗を拭いていく。


「薬作ってくる」


キッチンへ向かった俺は、採って来た花をすり潰し

家にあったハーブを細かく刻んで混ぜていく。


ゴリゴリ……


「もっと細かくしないと。」

すり潰している手に力を込めた。


―苦いから、あの実も一緒に入れるか―

トントン……

テーブルに置いた実を細かく刻み、薄い布でこして果汁を絞った。

薬草の匂いから、一気に柑橘系の爽やかな匂いに変わる。


「出来だぞ、飲めるか? 」

サーシャを抱きかかえてコップをつける。

「……」

「おい! 飲んでくれ」

タラーッと口からこぼれていく薬。


「……クソッ」

俺は一口薬を含ませて、あいつに飲ませた。


ゴクッ


―飲んだ! 良かった―

クレールは安堵した表情を見せた。


全て飲ませ終わると、寝かし直して側に座る。

スゥスゥと寝息が変わったのを聞いて、やっと少し肩の力が抜けた。

俺は、そっと自分の唇に指で触れた。耳が段々と熱くなっていく。


―これは、助けるためだ―――


「料理……作ってこよ」

キッチンへ移動した俺は、晩ご飯の準備を始めた。

鹿肉を食べやすいように薄く、細かく切っていく。

ザーーッ

米を洗い、さっき使わなかった野草の残りも一緒に入れる。


「味付け……苦手なんだよな」

苦笑いしながら、何度も味見をして煮込んでいった。


グツグツッ――


途中、水をまたタオルに浸け 額の布と取り換える。

「ん……クレール」

「具合はどうだ?」 

「大分楽になったよ。ありがとう」


―顔色が、だいぶ良くなったな―


「その…お前どこから記憶がないんだ?」

「ん~。キッチンへ行こうと倒れた辺りから」


「ならいい。飯にするぞ」

「……?」


ベッド横の小さいテーブルに料理を運んできてくれた。

「ん! 」

ムスッとした顔のクレールは、ご飯をすくったスプーンを差し出す。


「美味しい! なんだか私、赤ちゃんみたいね」

「赤ちゃんだろ。チビだし」

「えぇ?これから大きくなるよ」

二人の小さい笑い声が部屋に響いていった。


「ぐだぐだ言ってないで食べろ。ほら、ん! 」

サーシャは、パクパクッと美味しそうに食べていく。


―小鳥みたいだ。可愛い―

無意識に頭へ伸ばした自分の手を、途中で我に返った俺は引っ込めた。


「俺は何を……」

「どうしたの? 」

「いや。なんでもねぇ」

―沢山食べて、早く良くなれよな。―



     ◆


「最近の皇女様、様子が変よね」

「そうね。なんだか昔の皇女様に戻った感じ」

「無表情というか……ね? 」

仕様人の食堂で、複数のメイド達が食べながら話している。


コツコツッ――

「皇女様は陛下がまだ帰られない事に、心を痛めているのかもしれません」

「ルーカス様! 」

「私に、皆の力を貸して頂きたい」

力強く言葉を発したルーカスの眼鏡は、キラリと光った。


コンコンッ

「皇女様。ご友人のデイジー様がいらっしゃいました」


―デイジー……前にマスターから少し話を聞いていた娘ですね―


「分かりました」

私は開いた本を閉じ、デイジーが居る来客室へ向かった。

「ごきげんよう! 皇女様」

「ごきげんよう」


―もし、マスターにまた無礼なことをしたら……

私が綺麗に消し去りましょう―


「どのようなご用件で」

「お父様が納品しに行くと聞いて、皇女様に会えるんじゃないかと

私も同じ馬車に乗り込んだのですわ」


それから、令嬢に見せたいものがあると言われた私は

外の庭へ一緒に向かう。

デイジーは斜め掛け鞄から、大き目の宝石を出して口を開いた。


「見てください! 異国の宝石で珍しい品を頂いたの! 」

真っ青で透き通っている宝石を、デイジーが太陽へ掲げた瞬間。

空間が一気に紫色に染まる。


「な、なんですの? 」

「お下がりください」

腰を低くした私は、令嬢の前に一歩出て、ゆっくり構えた。


ズッズズ……

地面から3体の大きな角が生えた魔物が出てきた。


「人間の子供なんて久し振りだ」

低い声で魔物たちは、こちらへにじり寄って来る。

「頭の弱そうなガキだ」

「ガキ2人だ、さっさと片付けるぞ」


シュッ

3体の魔物が一斉に飛び掛かって来た。


―高貴でお優しいマスターをガキ……頭が弱いだと―

目を細めた私は、令嬢に結界を瞬時に張り空高く舞い上がった。


「侮辱を何十倍にして、お返しして差し上げましょう」


「お、おい! 話が違うじゃねぇか」

数体の魔物は、ざわつき始める。


「大きな魔法を使うのも勿体ない。拳で行かせていただきます」

シュゥウウウ――

小さな影武者の拳が青白い光が集まり、魔物たちへ拳の雨を降らせた。


「いいですか? マスターは天使」

ドゴォ!


「マスターは高貴」

ドゴォ!


「マスターは――最強!! 」

ドゴォ!


空高く、雲を突き抜けて行った2体は空中で塵と化した。

――スタッ


「さて」

空から降り立った私は、残った魔物に冷たい視線を向けた。


「ヒィ……」

「あとは、あなただけですね。なんとしぶといのでしょう」


コツコツッ――

石畳みの道を、小さなヒールの音を響かせながら魔物へ近づいて行く。


「も、もう襲わねぇ。悪かった。俺達はただ依頼されただけで――」

私は一歩ずつ、地面にへたり込んだ魔物の前で止まった。


ダンッ!!

片足を踏みしめ、魔物を見下ろす。


「さぁ、ご唱和ください。マスターは神!! 」

シュゥゥウ―― 


「か、神! じゃなくて待ってくれ――」

「よくできました」


ドゴォォオオ!


パァァアンッ

拳の光に、最後の魔物は包まれ消え去った。

紫の空間から青空に変わり、青い宝石は地面の上で砕け散っていた。

デイジーの元へ戻った私は、手を差し伸べた。


「大丈夫ですか? お手を」

「え、好き……」

「え? 」


デイジーは、両手を口に当てて頬を赤らめた。


「皇女様が殿方だったら、世界中の令嬢が惚れますわよー! 」

空にデイジーの叫び声が響き渡る。


―この令嬢は、何を言ってるのでしょうか―


「私、ますます皇女様を好きになりましたわ! 」

首を傾げた私の手を取り、令嬢は大きく振りだす。


「所で、マスターというのは誰の名前なんですの? さっき――」


―あ、無意識にマスターと言っていました―


私は、喋り続ける令嬢の唇に人差し指を置くと

軽く目を細めた。

だが、デイジーには静かに微笑んでいる皇女が目に入った。


「……内緒です」

「は、破壊力がすごいですわ……。ひゃい。わ、分かりました」


―いつも1号を黙らせる時に使っていましたが、

この令嬢にも効きましたね―


それから、デイジーの父親と警備兵に事情を説明した。

どうやら、あの宝石に術が仕掛けられていたらしい。


「また来ますわー! 」

大きく手を振るデイジーを見送った後、溜息をついた。


「今日は、一段と疲れました」


その言葉をルーカスは聞き逃さなかった。


「皇女様。こちらへ」

ルーカスの後ろを付いていくと、ガゼボが見えてきた。

席へ案内され、腰を下ろすと、カチャッカチャッと

テーブルへ菓子と紅茶が並べられていく。


マカロンや小さいマフィン、一口サイズのケーキ達。

そして紅茶には花びらが入っていた。


―以前、マスターが好きだと言っていた物ばかりです―


「シェフが、皇女様のためにご用意いたしました」

「……ありがとう」


「恐れながら……最近の皇女様のご様子を見て。

皆は心配しております」

ルーカスの両側に立って居るメイド達は数回頷いていた。


―完璧に演じていたのに、見抜くとは―


私は、目を細め紅茶を一口飲んだ。

「陛下がお帰りにならない事を、心配しておられるのでしょうか」

「……」

「それとも、消してほしい令嬢でも?」


私は小さく首を振った。

―私は、マスターのように明るく笑顔を作れない―

この場でどう返答したらいいのか、影武者は分からないまま

暫く沈黙が流れていく。


―マスターなら、きっと―――

紅茶からまっすぐ前に顔を上げると、沈黙を破るように私は口を開いた。


「皆さんも席にお掛けください」


その瞬間、使用人達の空気が止まる。

ルーカスがメイド達に目配せをすると、深く頷いた後

ゆっくりと椅子へ腰を掛けた。


「ゆっくりお話しする事は普段ないですからね」

それから、マスターが幼い頃の話。

陛下が昔、厨房へ夜食の為に何度も忍び込んでは母親におこられた話。


―この空気、嫌じゃないわー

話しかけられることが煩わしいとしか思ってこなかった気持ちが、

少しずつほぐされていくようだ。


その時、ルーカスの立派な髭に、クリームがついているのが見えた。


「……ふっ」


―あれ? 私は一体―

ルーカスは気づき、慌てて拭ったあと照れくさそうに笑った。


「皇女様が笑ってくださって、私は嬉しゅうございます」

「良かった……!」

「シェフにも伝えましょう!」

「皇女様が笑ったぞ! 」

周囲が一気に明るくなり、私は静かに皆を見渡した。


ガタッ


「今日は、私のために色々考えてくれてありがとう」

私は椅子から降りて頭を下げた。


「頭をお上げください」

メイド達の焦った声を聞きながら、私は胸にそっと片手を当てた。

奥に、小さな熱を感じたからだ。


―この気持ちに、気づけて良かったです―


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