EP32. あなたを守りたい
男が視界から消えた。
右!
キイィン! 部分結界でしのいでいく。
「硬いねー。」
「おいおい!守りばっかじゃねぇか!ほら!ほら!」
男は笑いながら攻撃をしてくる。
焦点が合いにくい。魔法を放ってもすぐかわされてしまう。
まともに戦ったことが無い私は経験不足を痛感していた。
「へぇ。じゃあこれはどうかな?」
男は手のひらから眩しい光を放つ
一瞬すべてがスローモーションになるように見えた。
グサッ!
お腹に鋭い痛みが走った。
「所詮、素人でちょっと魔法が使える程度のあんたが俺に勝てるとでも?ハハッ!」
ナイフを引き抜くと同時に崩れ落ちる私。
「サーシャ!! 」少年の声が遠くに聞こえる。
「…くっ…。」刺された所が熱く、痛い… 少年もこの痛みを感じてたのか
自分痛みよりも、少年の事を思ってしまう。こいつ…絶対に許せない。許せない…!!
「一撃入れただけで喜んじゃって。」
ふらふらと立ち上がる私。
「私はね、大事な人を守るためなら…。最後まで足掻いて諦めないんだよ!」
魔法陣を複数同時展開させた。
ガハッ 同時に口から血が…。
―魔力が一気に低下!低下!―
―危険!危険!維持している結界解除を推奨します。―
初めて出る警告。
視界が少し霞んできた。
ふざけんな!解除したら少年はどうなるんだ!
―私は諦めない!!守ると決めたんだから!!―
魔法陣から放たれた光は男を捕えようと連続で発射される
「これで終わだ。いい運動になったよ じゃあな」
「サーシャ!!!」
男はナイフを振り下ろそうとした瞬間
私の体から黒い霧が放射状に男を襲った。
「なっ?! 」
―何この黒いやつ―
…! 少年を助けた時の黒いものに似ていたことに気づく。
「消えろ」「許さない。」「殺す。」「悲しい。」 「痛い。」
黒い霧は帯状に形成し、クモの糸のように男を囲んでいく。
「お前。何者だ!!」
「私は…ただのおばさんだと言っただろう?」
黒い霧が男をまとわりつき、徐々に包み込んでいく
ガハッ 男が血を口から吐いた。
「ロキ。お前を探してる奴は他にもいる。…楽しかったぜ…相棒。」
「うああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
完全に男は黒いものに飲み込まれた。
私は最後の力を振り絞り、光魔法を放った。
パァァァアン!!
爆発音と共に空へ舞う黒いチリが消えていく
「ハァハァ…終…わった…。」
ハッハァハァ… ガハッ!!
膝から崩れ落ちる。
「サーシャ !! お前、血が」
結界が壊れ、少年が駆け寄ってくる。
「頑張りすぎたみたい…。このくらい大丈夫よ。」
口の中が鉄の味がした。
「へへっ大丈夫よ。 帰ろう?」
「大丈夫な訳ねぇだろ!!喋んな!血がやべぇんだから!!」
少年に支えられながら、ふらふら歩いていく。
視界が少しずつぼやけ、暗くなってくる。
―ちょっと、ヤバいかも。魔法色々使いすぎちゃったな―
ワープで家に帰れたという安心から、そこから私の記憶は途切れた。
「サーシャ!サーシャ! 起きろ!嫌だ! 死ぬな!」
いくら揺さぶっても 起きない。青白い顔になっていくサーシャ
握った手がとても冷たい。
「俺なんかを助けなくてよかったのに… 何でだよ…。」
涙が止まらない。
「…。外に出たいって言ったから…。俺が‥俺が‥全部悪いんだ…。ごめんな」
たまに口から吐く血が何度もくりかえされて…意識がない。
でも呼吸はかすかに聞こえるが、弱くなっている気がする。
すると、 サーシャの体から光の小さい粒子が上へ昇っていった。
「え、なんだ? 天国にいっちゃうのか?! いやだ!起きろ!!」
俺はサーシャに抱きついた。上へ行かないように必死に抑える。
何度呼び掛けても返事は返ってこない。
―大丈夫だからね!― 最後の笑顔。
撫でてくれた優しい手、声
今まで過ごしてきた 短くも幸せだった思い出が駆け巡る。
―この人だけは、失いたくない―
抱きしめていた体が、徐々に軽く小さくなっていくのを感じた
サラサラと 髪が銀髪になっていくサーシャ。
「…え?」
次に大人の体が消えていき、知らない女の子の姿になっていた。
「…は? 誰だ?」 驚きのあまり涙が止まった。
だが、この大きさなら運べる。
俺は女の子をベッドに寝かせ、口元の血をハンカチで拭いた。
刺された腹の傷を確認したが傷口はなくなっていた。
「お前…俺をずっとだましてたのかよ…。」
ハンカチを強く握りしめた。
綺麗な髪。目を閉じてもわかる、整った顔。貴族みたいな子供。
…。でもこいつは命をかけて俺を助けてくれた。それは事実だ。
頭では分かってる。でも心はまだこの状況を理解できていない。
「んん…うーーあぁぁぁ!もう!なんなんだ!!」
混乱が止まらない。
「う”っ…! ハァハァ…。」
苦しそうだが、俺には何もできない…。
そうだ、薬草…。薬草探してこよう。
「少し出てくる。すぐ戻るからな!」
俺は飛び出すように家を出て、薬草探しに出かけた。
~~~~~
「あら、起きたわね。おはよう、お嬢ちゃん。」
知らない綺麗な紫色をした髪の人。紫と黒い洋服に身を包み、黒い長い棒を持っている。
―私は死んだのかな?-
私は広い何もない空間にいた。
「! あの、少年は?!」
「無事だから安心して。」
「改めて、初めまして。私は闇の女神よ。あなた…大分無茶したわね。」
「闇の女神様…?」
「あなたが少年を初めに助けた時、上から見てて少し助けちゃったのよね~」
「そうだったんですね。 その節はありがとうございました。」
「あなたのお節介な性格。私嫌いじゃないわよ」
「今、あの子は別件で数日不在だったから頼まれてたの。
心配でずっと見てたわけじゃないわよ?」
すごくツンデレ系を感じる。いい人そうだ。
「最後、男を包んだ黒い煙も…もしかして女神様が…?」
「答えはノーよ。あれは別の所から瀕死になったら発動する呪いに飲み込まれたのね」
「あと、少年に呪いをかけていた一部が混ざって…ちょっと大きい渦になったみたい」
髪を指で遊びながら女神は言った。
「あの少年の呪いはもしかして…。」
「そうよ。あなたが予測してる事は当たってるわ。」
「…なぜ、実の子供を呪うなど…。むごすぎる…」
「あなた、あの少年を一生守ると誓えるの?」
「…。一生…。」
そうまっすぐに言われると、言葉が出てこない。
「正直言うわ。あの子は、これから厳しい局面になるわ。
あなたに救えるのかしら?」
「…。一生は約束できない。でも私は諦めたくはないの。
あの子に生きていて良かったと、思ってもらいたい。」
「…そう。」
闇の女神は少し考えて 杖を小さく振るった。
「とりあえず、あなたに少し加護を与えとくわ。あとこの子と契約なさい」
ポンッ!
「また会えた!歌のお姉さん!」
「あの時の妖精さん!」
種を渡してくれた妖精が目の前に現れ、ふよふよ浮いている。
「私、妖精ではないの。」
子猫の姿に変わり、私の足元に来た。
「我、色々変えれるのだ。」口調と共に姿が変わった。
「この子、本来の実体は無いから、姿をたまに変えてくるわ。」
「今回みたいに魔力欠乏や瀕死に近くなったら、この子がサポートしてくれるはずよ。」
「ありがとうございます。大切にします。」
「気をつけて。」




