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元アラフォーが皇女に転生?!元暗殺者の少年を拾ったので育てます!  作者: 桜月ふたば
第一章

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32/61

EP32. 正体のその先で


「ゲホッ、ゲホッ! 」

自分の咳で起きた私は、ゆっくり瞼を開けると天井が霞んで見えた。


「あれ、女神と猫ちゃんは……」

頭がぼんやりしたまま起き上がり、部屋を見渡した。

小さいランプの灯が、部屋を優しく包んでいる。


―夢だったのかな? ―


首を傾げながら、自分のお腹を触ると刺された箇所は綺麗に治っていた。

寝息が聞こえ、足元を見ると少年が泥だらけになって眠っている。

フワッとハーブの香りがする方へ視線を移すと、

ベッドの横にある低めのテーブルに薬草を煎じた器があった。


「クレール……側にいてくれたんだね」

少年を撫でようと、手を伸ばそうとしたその時。

自分の体に異変が生じていることに気づく。


「あれ、私の手……」

―子供の手になってる! ―


サラッ

片手で自分の髪を掴んで確認すると、まぎれもなく子供姿の銀髪だった。


―あぁ……終わったわ―

ベッドの上で、私はギュッと目を閉じて頭を抱えた。


「どうしよう。クレールは、私の姿を――」

サーッと血の気が引くような体を自分で抱きしめた。


部屋からそっと出ようと、足元にある少年の手をどけようとした瞬間。

いきなり手をつかまれる。


ガシッ! 


「起きたか? 」

「う、うん」


―嫌われるのがこわい―

私は少年の目を見れず、俯きながら口を開いた。


「ごめんね。正体を隠してて」

「……騙されて、悲しかった」

「……」

「楽しかったか? 貴族様のお遊びは」


冷たく、鋭いクレールの発した言葉が、私の心に刺さっていく。


ガタッ!

クレールは突然立ち上がり、手元に積まれたタオルを取った。


「あぁぁ! 俺は、こんな事を言いたいんじゃねぇ! 」


バフッ!

クレールはタオルで私の頭を包み、両手で顔をムギュッと挟んだ。


「助けてくれてありがとな」

クレールの不器用な微笑みを見ながら、私は静かに頷いた。


「お前が話せる時がくるまで、俺は何も聞かねえ」

クレールは頬から手を放すと、立ち上がり部屋から出ようとしていた。


「待って、今話す……話すから」

私は、クレールの服の裾をクイッと引っ張り呼吸を整えた後

まっすぐ少年を見つめ口を開いた。


「私は、ルイーナ王国の第一皇女。アイビーよ」

「お前。お、王族だったのか」


クレールは目を大きく見開き、暫く何も言わなかった。


―クレールは正直に元暗殺者だって言ってくれたのに、私は……最低だ―

私は、両手で布団をギュッと握りしめた。

ポタッポタッと、自分の手の甲へ涙が落ちていく。


「たっくっ。目を閉じろ」

ゴシゴシと布で涙を拭くクレールの手は、微かに揺れていた。

「まだ、頭の中が混乱してるけど事情は分かったから。泣くな」


―私、子供みたいだ。涙が止まらない―


「寝てろ。俺は、向こうの部屋で片付けてくる」

クレールは私をベッドへ再び寝かせると、

白い器やコップを持ちキッチンへ歩いていった。


―ダメだ、眠くなってきた。もっと謝りたいのに―

猛烈な体のだるさと、眠気に襲われた私は瞼をゆっくり閉じた。


翌朝。

鳥のさえずりと、包丁のトントンッという音で私は目覚めた。

起き上がると、美味しそうな匂いがキッチンから広がっている。


「起きたか」

「おはよう」


目を擦りながらクレールを見ると、

コップと着替えを持って部屋に入ってきた。


「これ、前にお前が買ってくれた奴。まだ俺着てないから」

「ありがとう」


「飯食えそうか? 」

「うん」

コップの水を飲み、少し落ち着いた後

私はクレールの服に着替えた。


コトッ

ベッド横のテーブルに美味しそうなパン粥が置かれた。

クレールはスプーンですくうと、私へと差し出す。


「自分で食べれるからいいよ」

「ん! 病人は黙って食え」

「え、でも――うぐっ」

グイっとスプーンを口に入れられモグモグ食べる。

牛乳と小松菜みたいな野菜が、柔らかいパンと一緒に煮込まれていた。

野菜とパンの優しい甘さと、温かさが染みわたる。


「美味しい」

「だろ? 」

「今日は、狩りに行ってくる。お前は大人しく寝ていろ」


食べ終わると、クレールは狩りへ出かけて行った。

私は、タブレットで体の現状を確認する。


「魔力が2しかない、それに2日も過ぎていたなんて」

―影武者、大丈夫かな……。―


「まずは、早く治さなくちゃね」


     ◆


「クシュンッ! ハァ……」


―マスターが帰ってきません―

私は影武者2号として、マスターの部屋で膨大な量の宿題をしていた。

時計の針が、カチカチッと時を刻む音が、静かな部屋に響いている。


「もう2日帰って来てません。どういう事なのでしょうか」


サラサラッ

筆を走らせながら、ものすごい速度で積みあがっていく課題の用紙。


2日間の授業は完璧だった。

刺繍では短時間で、見事な伝説の鳥を作り上げて

『国宝にしましょう』と言われた。

歌の授業では天使の歌声と言われ。

魔法の授業では、洞窟まで先生と飛び。

よく分からない大きな魔物を瞬殺した。


―でも、何かが足りない―


「この気持ちは、一体……」

筆を止めると、扉を叩く音が聞こえた。


コンコンッ

「皇女様。お菓子と飲み物はいかがですか? 」

「必要ありません。大丈夫です」

「し、失礼いたしました」


―この城の者達は、度々話しかけてくる―


「なぜ、私を見て不安そうな顔をするのでしょうか? 」

先生も、使用人達も『お休みになられては』と言われる頻度が増えていた。

最後の一枚を書き終わり、山積みになっていた書類を整理する。


―マスターが帰って来たら、頭を沢山撫でてもらわないと―


     ◆


俺は森の狩場へ走っていた。

「調子狂うんだよ。クソが! 」

走る速度を上げていく。

まともにあいつの目が見れなかったから、逃げるように出てきちまった。

ザッ――

狩場に着いた俺は、乱れた呼吸と同時に拳へ力を入れながら

小さく呟く。


「守れなかった」


あいつが元相棒に刺されたとき、動けなかった。

目の前で起きた出来事に立ち尽くすことしか出来なかった。


―今の弱いままじゃダメだ。もっと強く―――


正直、サーシャが別人だったのは悲しかった。

姿も、声も、好きだったあの手も……全て偽りだったから。


「あいつ俺と同じガキだったのか」


なぜあんなにも中身が子供だったのに、

大人のような考えや行動が出来ていたのか不思議だった。

それから狩りを開始したが、集中できず的を外していく


「クソッ!! また外した」


ガサッ!!

大きな葉の音が聞こえ罠をしかけた場所へ向かうと、鹿がもがいていた。

「良かった。罠を仕掛けておいて」


鹿を仕留めた後、近くの川辺まで担いで行き

下処理をしてから家に持って帰る準備をしていた。

川の心地よい冷たさと、穏やかな風が少しずつ混乱の熱を冷ましていくようだった。


キュッ

葉に肉を包み、植物のツルで紐のように縛る。

包んだものを置いていた、川辺の大きい石の下に

隠れるように生えている白い花が視界に入った。


「あれ、この野草ここにも生えてたのか」


『苦いが煎じれば、気力回復や熱さましになるぜ』

笑顔でいつも教えてくれた元相棒の言葉を思い出し、

花に手を伸ばした手を一瞬止めた。


「お前には悪いが、俺はまだ抗って生きてく」

想いを断ち切るように、ブチッと根っこから引っこ抜いた。


家に近づいてくると、前にサーシャと一緒に食べた果物が落ちていた。


「お! これ前に食べて美味かったやつ」

いくつか懐に入れて扉へ向かった。


ガチャッ


「ただいま」

返事がない家の中を進む。サーシャが居る部屋を覗くと、

ベッドの下に倒れているのが目に飛び込んだ。


ゴトッ

手の力が抜け、床に荷物を落とした。

そのままサーシャへ駆け出し抱きかかえる。


「おい! 」

揺さぶるが、目を閉じたまま返事は返ってこない。

荒い呼吸が、静かな部屋に響いている。


―なぜだ、家を出る前まで普通に話していたのに―


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