EP.29 暴れ馬vs第一皇女
「はぁ~…疲れた。」
部屋で私は書き物をしていた。
デイジーの件だ。
前回、私主催のお茶会が好評だったという事で
招待状を送る人達のリストアップを任されたのだ。
ルーカス、情報屋だったの?っていう位の冊子を渡されたので読むだけで時間がかかる。
「この100人近い人達から絞るの…しんどい。」
今回、男の子は除外。女の子のみにすることにした。
何でかって?女の子のリストを受け取った後、
すぐ同じ量の冊子を渡そうとしてきたから(男の子だけ)
そして、エリーナ嬢とコンタクトを取るため。
― 中立の立場で考えなくては、いい方向へ行けば良いな ―
とりあえず、取り巻きが居るとややこしくなるはず。
リストから、関係なさそうな無難な令嬢を何人か メモしていく。
「まずは、ご挨拶をちゃんとしないとね…。」
ざっと10人程度にしておいた。
来月末に開催する予定の招待状の文面も一応原本をメイドに渡す。
「皇女様。かなり今回小規模ですね。」
メイドは驚いたように目を大きくする。
「えぇ。人数が多すぎてもあまりお話できないからねー。」
「後でルーカスにもまたお礼を言わなきゃ。この冊子すごいと思わない?」
私は受け取った冊子をメイドに分厚さが分かるように見せた。
「いつもながら、すごい量ですね。陛下が頼んだ後は、これの3倍の書類を渡しているのを
何度か見たことあります…。」
「これの…3倍…。?!」
想像したくない。
「そりゃあもう、元あ…っ !」
笑顔から一気にやらかした!という表情になったのを私は見逃さなかった。
「あ?何?」 ― …暗殺者?? ― え?
「いえ、私ったら何を言おうとしたか忘れてしまいましたわ。
別の仕事がありますので、これで失礼いたします。」
「あ、ちょっと…!!」
パタンッ メイドが逃げるように消えてしまった。
「えーー!! 気になるじゃない!!」
私は天井を仰ぎながら叫ぶ。
ルーカスは60代くらいに思ってたけど、ガタイが良いというよりかは…スラっとしてる。
「はぁ…これ以上考えても無駄ね。とりあえず、今日のガチャ回さないと。」
モヤモヤを抱えたまま、ガチャを回す。
最近は城に帰った時に回しているがたまに忘れてしまうときがあった。
「皇女様。ごきげんよう。」
「先生。ごきげんよう。」
今日は、乗馬の授業だ。
本来、王族で女性はこの乗馬は必要ない。いつも馬車に乗って移動すればいいだけだから。
でも、誘拐やいざという時。この世界には車もバイクもない。
私が自ら動かせる乗り物は無いのだ。
誘拐とか色々危機が訪れた時、魔法以外の移動手段として…乗馬を習いたいと以前、パパに話していた。
「皇女様。本当によろしいのですか?」先生は、少し不安そうな顔をされる。
「ええ。」
「それでは、こちらへ」
少し歩くと馬小屋に到着した。
「この中から、皇女様が気に入った馬をお選びください。」
軍事用の馬を除いたのか、10頭くらいの馬がそれぞれ並んでいた。
「スゥーーーーッ。 では見ていきます。」
どの馬も思ったよりも普通だった。毛並みも目も綺麗で…皆大人しい感じ。
ピンとこない。
それにしても気になることがある。
奥から、ガタガタッとバケツが転がる音が何度も聞こえてくる事だ。
「…。」
「皇女様。別の馬を見ましょう?」
「いえ、気になるので少し観察したいですわ。」
めちゃくちゃ威嚇してくるじゃない。
「あなた。いい度胸してるわね。」
ブルルルルッ!! ガタッ!ガタガタッ!
「皇女様!そんな近くにいては危険です!!」
私は馬にゆっくり近づきながら
「ねぇ…。あんた、しにたいの?」
馬の目をまっすぐ見つめ。真顔のまま低い声で呟く。
・・・。馬は、急にバケツを足で蹴るのをやめ 部屋の隅っこに移動していった。
「私、この馬にしますわ!」
「えっ?!…なぜです!?」
「一番、元気だから!」 ニコーッとした笑顔で言う私。
なんでこの馬にしたのかって?
この馬だけ声が聞こえたのと、少年の最初の頃と重なるように一瞬見えたからよ。
少し巻き戻そう。
「おい!おい!へなちょこ馬 野郎共!なんで大人しい振りしてんだ!馬なのに猫かぶりかよ!」
「おい!外で走れる時間なのになんで俺を閉じ込めてるんだ!!クソが!!。」
「今日の餌クソまずかった!もっとうまいもんよこせ!」
「なんだこのチビ。偉そうに!
気に食わねぇから威嚇して、さっさとこの時間終わらせてやる!!」
「…。やべえ…このチビ。 凄まじい魔力量もってるじゃん。こわ…。」
―女神様。馬の声って聞こえるんですね…。波長が合ったのかな―
飼育員兼、乗馬指導係の先生が近くにいたから会話は出来なかったのだ。
「…。私はこちらの馬がいいかと思ったのですが。」
一番きれいな馬をお勧めしてきた。
「いいえ。この馬でお願いしますわ。」
「外に今出しますので、少々お待ち下さいませ…。」
何度も振り返って、チラチラと止めるなら今だよ?と言わんばかりに見てくる。
「やったぜー!俺だけ外ー!はいーお前ら残念!!」
しっぽをブンブン振りながら、リズムに乗るように登場してきた。
馬が上機嫌に言ってる。煽るねぇ…。
「先生。乗る前に一回近くに行きたいわ。」
「少し離れてなら…。危険だと思ったらすぐ離れてくださいね?」
私はゆっくり馬に近づく。先生から私の顔が見えるので笑顔で!
「んだ?!チビ!お前まだいんのかよ!子守りは別の馬にしてもらいな!!」
少し暴れ始める馬。 先生が手綱を握り直す。
「やはり止めましょう!この馬は危険です!」
それでも歩を止めないで、ゆっくり近づく。
「こんにちは、お馬さん。」大きな声で言ったが次の言葉からは全て小声で話していく。
「私とこれから友達になってくれるなら。
ご飯をもっと美味しいものを出してあげれるんだけど。どうかな?」
馬の耳がピクピク反応している。
「本当か?嬢ちゃん。嘘じぇねえだろうな?」
ブルルルッ 低く鳴いている。
「少し話をしたいけど、怪しまれたくないから撫でながら話すわよ?」
「チビお前! 俺の声…。いいだろう。」
私は小さな手で馬の顔をゆっくり撫で始める。
「なんで…。」その光景が信じられない先生はそれ以上何も言葉が出てこなかった。
「餌の件は本当よ。朝の餌…不味かったってあなたから聞いたし。餌はずっと不味いの?」
「あぁ。軍事用の馬の食べ残ったやつとか混ぜられて クソ不味いぜ…。」
「…。そう。私はアイビーこの国の第一皇女よ。あなたは?」
「俺は番号で呼ばれていたから名前はねぇ。あるとしたら3番だ。」
「次会う時までに名前を私が決めて良いかな?」
「勝手にしろ!それにまだお前を信じてないからな!餌まともなのよこせよ!」
それから先生と一緒に、大人しくなった3番の背中に乗り何周か走った。
途中、途中で
「おい!嬢ちゃん!聞こえてんだろ? おい!無視すんな!」
「餌!赤い甘い奴とか入れてくれ!後、紫のあまいやつとか!後な…」
餌のリクエストをひたすら私に語りかけてくるから。笑いを堪えていた。
私は授業が終わると、厨房へ向かった。
馬の餌を軍事用と普通使いの馬で大差がどの位あるのか確認したかったから。
大差がない。
「ねぇ、この餌は間違いないの?」馬専用の籠を上から覗く。
「はい。…何かありましたか?」
「さっき私の専用馬が決まったの。
普段使いから選んだから、餌を運ぶ時は普段使いからにして欲しいと餌を運ぶ人に伝えて。」
上から見る限りは、大差がない。
ならば運んだ人か、軍事の方の飼育員がやらかしていると見越して言う。
「後、リンゴとブドウをおやつに与えてほしいわ。1週間に数回で良いから」
「分かりました。そのように伝えておきます。」
―これでとり合えず、様子を見ましょう―




