EP25. はじめての友達
「申し訳ございません! 本当に申し訳ございません……」
何度も謝る母親の声が、芝生が広がる地面に響く。
「デイジーから直接謝罪をされ、私は受け入れました。
この件はこれにて終わりにしましょう」
「ですが……」
やっと見上げた母親に私は微笑んだ。
―これ、罰を受けないと納得してくれないのかな―
「そうね……では、この焼き菓子をいくつか頂けない?
あと、その猫を作った工房の住所を教えてくださらないかしら? 」
私は、デイジーの胸元にある猫のブローチに視線を向けながら話す。
「それだけでよろしいのですか……? 」
目を大きく見開いた母親は驚いた。
「ええ」
「はい! この件はこれにてお終い! 」
手をパンッと叩くと、私は母親に近づき笑顔で手を差し出した。
「さぁ、お立ち下さい」
「寛大なお言葉……。あ、ありがとうございます」
「この猫のデザインは、どなたがされたのかしら? 」
「依頼した異国の工房です」
「そう。教えてくれてありがとう」
―これで絞れたわ。落ち着いたら、その工房へいかなくては―
それから、私達はデイジーの部屋に移動して行った。
ガチャッ
「ここがデイジーのお部屋なのね」
案内された部屋を見渡すと、大きなぬいぐるみや
机の上に数字が沢山書かれた書類があった。
「この書類の束は……? 」
「工房の帳簿ですわ、といっても私が管理しているのは一部ですが
店に空き巣が入ってから、屋敷で帳簿は管理してますの」
一番上の書類には、訂正線と数字がいくつも書き足されている。
―こんな幼い子が帳簿を……すごいわ―
「すごいですわ! 手伝われているのね」
「女は必要ないとお父様から言われましたが、工房の皆さんの役に立ちたくて」
照れくさそうに笑みを浮かべるデイジー。
その書類の隣に、封筒が束になっているのが目に入った。
「この封筒もお仕事の? 」
「そ、それは――! 」
慌てたデイジーは、封筒を勢いよく引き出しにしまった。
私が首を傾げていると、我に返ったデイジーは頭を下げた。
「これは、婚約者からですの」
顔を上げたデイジーの頬は、少し赤らんでいた。
―あらら、可愛らしい―
それから部屋のソファーに座った私達は二次会のお茶を楽しんだ。
好きな本の話から、話題は恋愛話に移る。
デイジーは紅茶を一気に流し込んだかと思うと、少し目を閉じて話し始めた。
「私の婚約者は、別の方をお慕いしていますの……」
そう切ない声で切り出したデイジーは、
婚約者と嫌がらせをした令嬢が以前婚約していたという話をした。
「その二人は、今も会っているの? 」
「分かりませんわ……」
デイジーは首を小さく振った。
―家柄重視のこの世界。子供達は生きにくいわね―
「皇女様。婚約者はいらっしゃらないのですか? 」
「ええ。まだその話は出ていないわ」
コンコンッ
「皇女様。向かえの馬車が到着しました」
扉の向こうでメイドの声が響いた。
「あら、もうそんな時間」
「皇女様。あのっ――」
立ち上がった私に、デイジーは呼び止めて手のひらを差し出した。
「これは?」
手のひらを見ると、黄緑色の宝石が輝いていた。
―高そうな宝石。でも、とてもキラキラしていて美しいわ―
「異国の宝石ですわ。小さいですけど、今日のお茶会の記念に――」
―いやいや、小さくないよ? 前世ならショーケースに入ってるよ?! ―
「ありがとう! 嬉しいわ! 」
「実は、もう一つ持っているんですの。お揃いですわ」
宝石箱からもう一つを取り出し見せてくれた。
「もし、よろしければ……そ、その……私とお友達になってくれますか?」
「もちろんよ」
私は微笑みながら、令嬢の手を握った。
また手紙を書くと、お互いに約束して2人のお茶会は幕を閉じた。
見送りの時、デイジーの母親から紙袋いっぱいのお菓子と、工房の住所の紙を受け取った。
私は帰りの馬車に乗り込み、手を振ると
デイジーが笑顔で大きく手を振り返した。
その令嬢の頭を、愛おしそうに撫でる母親。
―いいなぁ。お母さんが居て―
帰りの馬車の中、貰った宝石を見ながら前世を思い出していた。
私の両親は転生する数年前に亡くなっている。
先に父が亡くなり。2年後に母も空へ旅立った。
―天国で二人は、笑いあって過ごしているだろうか……?―
「私この世界で頑張るから、見守っててね。」
窓から空を見上げながら、小さく呟いた。
オレンジ色の空が徐々に夜の色に染められていった。
◇
「もう一回! 」
「またですか……」
アイテムBOXの奥底にある一軒家。
影武者1号と2号は、ボードゲームで遊んでいた。
「また負けたぁああ!! 」
「片付けますよ」
カードを片付け始める1号は疲れている表情をしていた。
―これでもう50回は同じゲームをしている―
「えー。つまんなーい」
頬を膨らませジッと2号を見る1号。
「お茶にしますから、残りを片付けて下さい」
キッチンに向かった2号は、無数の棚の端の引き出しを開けた。
「この家は不思議です。キッチンにも各部屋にも沢山の収納棚があります」
―以前、1号が脱出してから毎日。
城で出されたお菓子は、ここに入るようになりました。
マスターはお優しい人です。―
焼き菓子を盛り、皿をテーブルに置いてから
お茶を沸かしていると、後ろからサクッという音が聞こえ振り返った。
「こら! つまみ食いしない!」
「ふぁ! 何で分かったの」
―もう、1号は子供みたいです。理解が出来ない事ばかり行う―
2号は溜息をついた。
コトッ
マグカップを2つテーブルに置くと、1号は目の前のお菓子を輝いたような目で見つめている。
「食べましょう」
「いただきまーす! 」
一通り菓子を食べ終わった1号が口を開いた。
「そういえば、あの鍵がかかってる部屋に何があるか知ってる?」
「あの部屋は、私も入れないから知りません」
「ふーん。今度さ、一緒に――」
「部屋の前に行かないし、開いたとしても入りませんよ? 」
―この流れ、以前もありました。またマスターにご迷惑をかけてしまう―
「まだ最後まで言ってないじゃん!! 」
私達は普段、マスターが出し入れしやすいように
日々、整理整頓をしている。
キッチンで使う物は、キッチンの大きい収納棚へ。
服や宝石類は、二重鍵が付いている収納箱へ。
だが、この地下室の部屋だけ私達は入れない。
「でも……一体あの部屋に、何が収納されているのでしょうね」
私達は、地面を見つめながらお茶を飲んだ。




