EP24. 二人だけの茶会と森の再生
「皇女様。着きました」
「ありがとう」
馬車からゆっくり降りると、目の前にはメイド数名とデイジーが出迎えてくれていた。
「本日は、お招き下さりありがとうございます」
「こ、皇女様。先日は、本当に申し訳ございません」
頭を下げる令嬢とメイド達。ドレスの裾を上へとあげた令嬢の手は震えていた。
―……かなり怯えられてる―
「どうぞこちらへ、ご案内いたします」
メイドの後ろを歩いていくと、屋敷の中は絵画や宝飾品が付いた花瓶、
白い陶器の置物がいたる所に飾られている。
ガチャッ……ギィィイ――
フワッ――
メイドが通路に面した大きな扉を開けると、風と共に花の香りが広がる。
中庭の中心には立派な噴水と、周りに赤いバラが咲いていた。
「とても綺麗な庭ですね」
「はい! ここは普段私が良く過ごす場所の一つですの! 」
先程まで怯えていた令嬢は、パァッと明るい表情に変わった。
カチャッカチャッ――
椅子に腰かけると、目の前に、メイドが美味しそうな焼き菓子や飲み物を置いていく。
紅茶とクッキー、果実が乗ったタルト、チョコレートがかかったフィナンシェ……。
どれも城下町で話題の菓子だった。
「私が誘っていたのに、連絡が出来ずごめんなさい」
頭を下げ謝罪をすると、デイジーはカップを置き左右に手を振った。
「い、いえ! 陛下が討伐に向かった話も聞いてましたので、お気になさらず」
私は手を軽く上げると、メイドがデイジーへ箱を差し出した。
―気に入ってくれたいいんだけど―
「これは……? 」
メイドから箱を受け取ったデイジーは、私を見つめ首を傾げた。
「開けてみて」
私が微笑みながら言うと、令嬢は渡した小さな箱をゆっくり開ける。
「か、可愛いですわ!! こちら、どちらでお求めに?」
キラキラした目で、髪飾りと私を交互に見る令嬢を見て私は微笑んだ。
「いえ、知り合いに作らせましたの」
「そうだったのですね! この猫は珍しいと言われてたので気になって」
それから、好きなお菓子や本などの話をした。
私はカップの飲み物を一口飲むと、本題を切り出した。
「お聞きしたい事があるのですが、この猫はどちらでお知りに? 」
「私の誕生日の時に職人に作らせたとだけしか、分かりませんの」
―なるほど、作らせた職人か両親のどちらかってことかな?-
「そうだったのですね。この猫が可愛らしく、気になってお聞きしたの」
「可愛いですわよね! 私の部屋にもあるので、ぜひ見ませんか? 」
「はい! ちなみに本日ご両親は、いらっしゃいますか?」
「……母がもう少しで帰ってくると思いますわ」
笑顔が消え、暗い表情に戻ってしまったデイジーは視線をテーブルに落とした。
「以前もお伝えしましたが、罰を与えることはありません。
軽く挨拶をしたいと思っただけなので」
私がそう伝えると、顔のこわばりが消え安心したような表情に変わった。
「そ、そうでしたのね!」
デイジーは、椅子に座り直して私をまっすぐ見つめ口を開いた。
「皇女様。改めて、ドレスを綺麗にして下さりありがとうございます。
実は、お母様の服をリメイクしたものだったのです」
「大事になさっていたのですね」
―もう一つの質問をそろそろ聞こうかな―
「……言いにくい事を聞いてしまったら、ごめんなさいね。
今まで、嫌がらせを受けたことは?」
一瞬、空気が止まったようにメイドも令嬢も動きが止まった。
「ありますわ」
それから、デイジーが今まで受けた嫌がらせを静かに聞いていた。
ルーカスから受け取った報告書通りだった。
「私はただ、普通に友達として過ごしたかっただけですのに」
令嬢の表情はどんどん暗くなり、俯いていった。
「他人を利用して一人に嫌がらせを行う……。
そういう人、私は本当に嫌いなの。私ならぶっこr――」
「ぶっこぉ? 」
令嬢が首を小さく傾げたのを見て、私は我に返った。
―危ない、素の私が顔を出しかけたわ。―
「コホンッ。いえ、最後の方は忘れてください」
私は微笑むが、周りのメイド達は察したように顔を背けた。
―周りを巻き込んで、嘘や陰口……。どこの世界でも居るものね―
一人のメイドが、後ろに控えていたメイドに耳打ちしていたのが聞こえた。
「奥様が……お戻りになられたようです」
暫くお茶をしていると、遠くから大きな声が耳に入ってきた。
「皇女殿下! 」
大きな声がする方へ視線を向けると、大人の女性が駆け寄って来た。
「お母様!」
「ハァハァ……」
ザッ――
地面に土下座をするデイジーの母親に、私は椅子から立ち上がった。
「あ、あの。頭を上げてください」
「奥様!! 」
屋敷のメイド達も慌てているが、皇女の前では駆け寄れない。
「先日、我が娘が無礼を働いた事。
親として躾が不十分だったと痛感しております。
申し訳ございませんでした」
「お母様……」
デイジーの悲しげな声が小さく響く。
母親は、暫く地面から頭を上げなかった。
◇
「芽吹け」
低い声に反応するように大地が揺れる。
ゴッゴゴゴ
ズッ、ズズ……
シュルルッ――!!
焼かれた更地から、勢いよく一面に緑の植物が芽吹く。
「やはり、あの実は本物ね」
掌を見つめながら小さく呟く妖精王は、森で力を試していた。
アイビーからもらった実を食べてから、
力が以前より出せるようになっている。
「王様すごい! 」
「私達も頑張る! 」
~♪
芽吹いた緑のカーテンの上を、複数の妖精が歌いながら羽ばたくと
蕾がつき始め、すぐ花が咲き乱れて見事な花畑に変わる。
「蕾ちゃん達、手伝ってくれてありがとう」
「えへへ。頑張った! 」
微笑みながら、肩に乗った妖精を撫でていた。
その先に、深く傷ついた植物が視界に入り目を細めた。
「あら、この木もお疲れのようね」
ポォオ……
幹が傷ついている木は、緑の光に包まれ修復されていく。
―このまま力が全部戻ればいいのだけれど―
ギュッと握りしめた手に力を込めていた。
――実を貰った夜の帰り、私は闇妖精と話していた。
「なぜ、あの人間に種を渡したの? 」
「うーん。綺麗な光だったから! 」
「でも、悲しい光も持ってた。」
「あの子、元気がなかったもんね」
妖精はあまり深く考えない。そして、自分の気持ちに素直だ。
でもその分、直感で悪人かそうでないかを見抜く。
―あの人間は、悪人ではないということか―
私が険しい顔をしていると、妖精達は顔を覗き込んできた。
「あげちゃダメだった?」
「ううん。どうせ、私の力では育てれなかったから……気にしないで」
―失った力を取り戻さなくちゃ。でも時間がかかるわ―
――パタパタッ
「妖精王……?」
「大丈夫?」
目を細め、溜息をついた。
物思いに更けていたら、目の前に妖精達が集まって来ていた。
「ご、ごめんなさいね。考え事しちゃってたわ」
笑顔を見せると、妖精達は安心したように何処かへ飛んでいった。
妖精王は大きく首を振る。
「私には、あの子の事情なんて関係ないわ……でも危なっかしいのよ。目の下にクマも出来てるし」
ブツブツと呟き始めながら、他の更地を再び修復している王の背中を
妖精達は首を傾げて遠くから見つめていた。
「今日はこのくらいで大丈夫そうね」
修復がある程度終わり、妖精王は振り返り妖精達に向かって手を振る。
「蕾ちゃん達! 美容液を作りたいんだけど、手伝ってくれるかしら? 」
「もちろん! 」
「いいよ~」
パタパタッ――
一斉に散らばったかと思うと、それぞれ花やハーブの束を抱えて戻り
鍋に入れ始める。
「凝縮」
ブクブクッ――
妖精王が呟きながら鍋に手をかざすと、液体は金色に輝き始めた。
胸元から白い布をめくり、乾燥していたハーブを一つまみ入れると
緑の液体から淡いピンク色に変わる。
「出来たわ」
風魔法でガラスの瓶へ注いでいくと、優しい花の香りが広がった。
「いい香り~」
「完成! やったー! 」
「あの子にも、あげるんだよね? 」
妖精達は嬉しそうに辺りを飛び回っている。
「そうよ。約束したからね」
妖精王は微笑むと、瓶をかごに入れた。
「皆、手伝ってくれてありがと。帰ったらお菓子を食べましょ」
「わーい! 」
「お腹空いた! 」
妖精王と妖精達は風の渦に包まれ、青々とした森から消えた。




