EP22. 手紙の温もり
「マスター。おかえりなさいませ」
「ただいま! はい! これ、お土産」
私は、菓子が入った紙袋を影武者に渡した。
―食堂で買った焼き菓子、気に入ってくれたらいいな―
「家に帰ったら、あの子と一緒に食べて」
「ありがとうございます。きっと喜びます」
影武者は受け取ると小さく微笑む。
私が椅子に座り水を飲み終わると、後ろから話しかけてきた。
「マスター。お疲れの所申し訳ないのですが、少しお話が……。
城で耳にしたのですが――」
影武者は、パパが魔力枯渇で完治まで時間がかかること。
治療する者は、あまり魔力量が無い話をしてくれた。
―怪我ではなく、魔力不足が原因だったのね。―
「教えてくれてありがとう」
影武者をアイテムBOXへと帰した私は、
そのままベッドに飛び込み仰向けに体勢を変えた。
先程の食堂で見たパパを思い出す。
「そっか、それで元気そうに見えたのね」
私は沢山食べれば魔力回復するけど、パパは違う。
「今、役に立てる事は何があるんだろう? 」
パパだけじゃない、実際に被害の跡が残る街の皆へ
何か出来ないかと考えを巡らせていた。
―ダメだ、まだ考えたいのに眠い……―
そのまま、ゆっくり瞼が落ちて夢の世界へと向かった。
翌日の昼過ぎ、午前中の授業がおわった私は自室に戻っていた。
コンコンッ
「皇女様宛にお手紙がいくつか届いております」
銀色のトレーを差し出されると、様々な色の封筒が乗っている。
私は手紙を受け取ると、机の端に置いた。
「ありがとう。下がっていいわ」
パタンッ
扉が閉まる音が小さく響くと、椅子に深く腰を掛け
引き出しからペーパーナイフを取り出す。
最初、見た時に気になっていた分厚い手紙を取った。
「誰だろう?」
カサッ
そこには、強い筆圧で大きな文字が書いてあった。
「パパだ! 」
―元気にしているか? パパは元気だ! ――
必ず帰るから待ってておくれ―
手紙には、私と城の皆を心配していることや
復興の手伝いをすることが記載されていた。
でも、魔力枯渇の話や治療をしている話は一切書いていなかった。
「きっと、不安にさせないように書かなかったんだわ」
手紙の『私は元気だ』という文字へ、私はそっと指を置いた。
「パパ、治療頑張ってね。早く帰ってきて……」
手紙をそっと胸に当て抱きしめると、次の手紙へと手を伸ばした。
花柄の可愛らしい便箋を開けると、フワッと香水の香りが漂った。
「お洒落ね。デイジーからだわ」
先日の茶会で、他の令嬢から飲み物をかけられた令嬢だ。
細く整った文字で綴られている。
―拝啓 皇女殿下
先日のお茶会では、失礼な態度をとってしまい申し訳ございませんでした。
ぜひ、謝罪の機会を頂きたく――
手紙の最後には、屋敷の住所が記載されていた。
視線を下に向けたまま怯えた表情だった令嬢を思い出す。
―親が罰を受けるのを怖がっていたものね―
私は引き出しから便箋を取り出し、筆を走らせた。
「う~ん。手土産に何持って行ったらいいんだろう? 」
手紙を書き終わると、深い溜息をつく。
―そういえば、リボン猫と髪飾りが好きなのよね? ―
「無ければ、作っちゃえばいいのよ! 」
ガタッと椅子から立ち上がると、机に向けて手をかざし始めた。
ポォワ――
金色の光が体を包み、髪飾りを想像して魔力を込めると
光の粒が二つの塊になって落ちる。
コロンッ
机の上に、赤いリボンがついた猫の髪飾りと花柄の空箱が現れた。
「良かった。上手く出来たわ! 」
出来上がった髪飾りを、手持ちのリボンを箱に巻き付け
キュッとリボン結びをすると引き出しにしまった。
―転生者か気になるけど、令嬢達からの嫌がらせも何とか解決できたら……―
「考え出したら止まらなくなるわ。一旦、次の授業へ行こう」
大きく首を振り、廊下に出た私は足早に講義場まで向かった。
カッカッカ……
先生が黒板に白いチョークで書いていく音で歴史の授業が始まった。
カタッとチョークを置くと、私の方へ振り返り先生が口を開いた。
「本日は、奴隷制度についてお話をしましょう」
黒板には、この国でも数年前にその制度があったことや
王族が街の子供から差し出された果物で毒殺された事件について書いてある。
「この制度を無くすために、陛下は腐った組織をぶっ潰し……
コホンッ。組織を壊滅されました」
―うん? この先生もパパと同じ口調になるのね―
「皇女様も今後、色んな国へ行く機会がございましょう。
その際はご注意下さい。民に気を許してはなりません」
まっすぐ見つめる先生に私はゆっくり頷いた。
「心に留めておきます」
程なく授業は終了し、私は宿題の用紙を握りしめ自室へ歩き始めた。
宿題は『奴隷制度を壊滅した後、大切だと思う対応策』、
お金だけで全て解決出来るほど単純じゃないことは明白だった。
―身分や貧困の差は、そう簡単に変えられない―
「弱い者が苦しむ世界は、前世も今も変わらないのね」
キュッと口を閉じた私は、自室のドアノブに手を掛けた。
ガチャッ
扉を開け用紙を机の上に置いた瞬間、不思議と少年の笑った顔が頭をよぎった。
『生きていく為に――』
そう言った少年は、どんな過去を背負ってここまで生きてきたのだろうか。
「あの少年も、きっと今まで沢山苦しかったんだろうな――
今日は少年の所へ行かなきゃ。ちゃんと食べれてるかな」
食料はあるけど、やはり顔を見るまでは心配になってしまう。
「フッ……。まるで親みたい。
前世では子供なんていなかったのに不思議なもんね」
私は笑みを浮かべながら椅子に腰を掛け、ガチャを回した。
―♪
【LR 真実の目 ―他者へ付与可― 】
心は読めないが、他人が嘘をついているのかが分かる。
発動か停止を切り替え機能付き。
最近あの人の帰りが遅い! あやしい! そんな時に!
「うん。作った人、出ておいで? 一緒に酒飲もう? 」
私は苦笑いをしながら呟くと、使わずにアイテムBOXへ移動した。
「ステータスも順調に上がって来てるけど、最大レベルがいくつなのかが分からないわ」
半透明のステータス画面の一部は、もう∞マークがいくつか付き始めている。
画面を暫く見つめて首を傾げていた。
―また女神に会ったら聞いてみようかな? ―
それから私は書いた手紙をメイドに渡し、少年の元へ転移した。
◇
「くっ……」
「陛下、後もう少しです」
小さい個室に通された陛下は、今日も魔力補給の治療を行っていた。
魔力の質が合わず、体中に鋭い痛みが駆け巡り思わず顔をしかめる。
「申し訳ございません……魔力の質が弱く――」
治療していた者が頭を何度も下げている。
「気にするな。助かっているぞ、また明日も頼む」
―必死に治療してくれているのに、質が合わないとは言えないな―
治療を終えた私は、少しふらつきながら騎士団長の元へ向かった。
「陛下、顔色がまだ悪いですよ。お休みになられては……」
「いや、ジッとしているのが苦手でな。何をしていたのだ? 」
「明日行く予定の孤児院で、炊き出しを行う準備です」
団長の手元を見ると、狩ってきたばかりの肉を血抜きしていた。
「私も手伝おう」
「へ、陛下?! あの――」
慌てる団長を無視して、しゃがみ込むとナイフを手に取った。
「野営で若い頃にやっていたが、案外覚えているものだな」
フッと笑いながら下処理を手伝い、葉で1つ1つ包んでいく。
キュッ
「ほれ! 二人でやれば早いだろう? 」
「本当に陛下は……敵いませんな」
包み終わった物を袋に詰めながら、団長は苦笑いをしていた。
「さ、今日も一緒にあの食堂へ行こうではないか」
「飲み過ぎないで下さいね? 」
―苦しい姿は出来るだけ見せたくない。辛い時こそ笑わないとな―
「フハハハッ! ほどほどにするさ! 」
夕焼けの下、二人の笑い声が小さく響いていた。




