EP20. ドタバタな授業と結界のカーテン
青空の下、私は芝生をサクサクッと音を立てながら歩いていた。
今日から私は、通常の授業に戻る。
私が壊した部屋の修繕はまだ続いていた。
魔道具と結界で強度を高めるらしい。
キートン先生が、大きな魔法陣の形を空に掲げて
結界魔法を張っているのが見えてきた。
内側から外側へ何重にも光の層が連なっていく。
「ふぅ――これなら大丈夫でしょう」
結界を張り終えた先生が振り返ると、私を見て微笑んだ。
「ごきげんよう皇女様。体調は大丈夫でしょうか?」
「ごきげんよう。はい、すっかり良くなりました」
「よかったです。今日は思う存分に魔法を放っても大丈夫です! 」
ウィンクをしながら、以前の規格外魔法をおかわり!と
いわんばかりの表情で言ってきた。
―楽しそうな顔してるわ―
「それでは、どうぞ!! 水・火と続けてやってみましょう!」
小さく深呼吸し、軽く目をつむる。
―大丈夫よ。何度も森で色んな練習をしてきたじゃない―
シュゥ――
体を金色の魔力が柔らかく包み始め、髪がゆらゆらと揺れた。
バッと両手を前に出すと、片手に水の雫、もう片方は火の灯が出来た。
「わぁ! 出来たー! 」
シュッン……
思わず言葉を発すると、片方の炎が消えた。
「あ……」
―持続できなかった……練習では出来たのに―
口を強くキュッと閉じ、肩を落とした。
先生へゆっくり視線を向けると真顔で動かない。
「キートン先生……その、一瞬でしたが両方出来ました」
「……」
―出来たとは言えないよね……持続してないんだから―
ゆっくり私の方へ近づく先生。
「皇女殿下……」
「はい」
「んまぁー!! 種類違いの魔法を無詠唱で!
これは、無限の可能性が秘めております! 」
―あ、良かった。いつもの先生だ―
「成人後は魔導師になりましょう!
この私が、推薦状を何カ月も長文で書きます!
あ、でも皇女様はなれないか……」
「でも、持続できませんでした」
うつむく私の肩を、先生は両手で力強くつかんだ。
「だから何だというのです? 出来るまで努力すればいいだけです! 」
キートン先生は、私の目線に合わせるように膝をついて微笑んだ。
「沢山練習したのでしょう? 」
私は静かに頷いた。
「天才は、もちろんいます。
でも私はこうして努力を重ね続ける人こそ、一番強いと思うのです」
―成長の過程を感じ取ってくれてたのは嬉しいな。いい先生じゃん―
心にジーンと温かさが広がっていた矢先、次の言葉で少し歪む。
「以前のような、もっとこう……ドカーン!も見たい……。
コホンッ 制御が上手に出来たので次へいきましょう 」
―先生……? さっきの感動を返して? ―
私の少し輝いた目は、影を宿し先生を見つめた。
「では、防御魔法も新たにお教えいたします」
「大きな結界が張れれば数十人、数百人の人間を守れます。
内側から外側に向かって広げるイメージで魔力を使ってみてください」
「はい」
自分の魔力を徐々に広げていく。
―どのくらい魔力を込めたらいいんだろう? -
パリッ、パリパリ……
遠くで卵の殻が、ひび割れるような音が聞こえる。
―この音は何? いやいや、集中よ―
「なぜ……わ、私の張った結界が……皇女様?」
「……」
「皇女殿下!! 」
先生の大声で、ハッ!と我に返り目を開けた瞬間。
バリンッ!!
サラサラ――
音がした先の空へ顔を上げると、先生が張った結界魔法がガラスのように砕け散っていた。
「え――」
それから、キートン先生は嬉しそうに結界を張り直した。
直している間、興奮した口調で独り言を大声で話している。
「では、私が今から初めて使う攻撃魔法を放ちますので。
弾くイメージで、結界の維持をお願いします! 」
先生は、持っていた本を勢いよくパラパラめくる。
―ん? 今、初めて使うって言った? ―
「大地の女神よ……万物の――」
何やら、ブツブツ小声で詠唱している。
シュルル――
徐々に大きくなっていく、緑と白い光が混ざり合う球体と
強風が吹き荒れ始める。
「先生! そんなの放たれても無理ですーー!! 」
「何ですかー? ダメそうなら、避けてくださーーい!」
―ギャァァア!! こっちに投げないでぇぇえ!! ―
ゴゴゴゴゴッ――
すごいスピードで迫ってくる。
「逃げれない! 無理! 無理だよぉお! パパー!! 」
ギュッと目を瞑り、魔力を外へ押し出す力を強めた。
パッパッパ……
結界の層が重ねられていく。
パァーン!!
衝撃で飛ばされた私は、地面に尻もちをついた。
「痛っ……」
立ち上がると、自分の無事を確認するように体を触った。
「おい!!! あたしを殺す気かああぁぁぁ!!」
私の怒鳴り声が芝生の広場に響く。
「おおおお!! す、素晴らしい!!」
―聞いちゃいねぇわ、この先生。―
「上級を放っても無傷っと……」
サラサラと音を出しながら、紙に筆を走らせた先生は満面の笑みだった。
―物騒なことをサラッと呟くんじゃないよぉお! ―
「コホンッ、失礼」
嘘くさい咳き込みをした後、先生が真顔に戻る。
「結界を、自分に常時まとわせる練習をしてみてください。
続きはまた次の授業にしましょう! 」
スキップをして、楽しそうな先生の背中を見送り溜息をついた。
「はぁ……。朝から魔力じゃない方で疲れちゃった」
少しぐったりしながら、トボトボと私も帰道へ足を向ける。
途中、訓練している兵士達の訓練場所を通った。
討伐隊が居なくなった後の訓練が気になり、立ち止まって見ていると
模擬戦が始まろうとしていた。
「両者、始め! 」
ガッ!ガガッ――
ドサッ
「もう一度お願いします」
「もう一度――」
倒れた兵士が立ち上がり、何度も挑んでいる姿を見て
先生が言っていた言葉が頭をよぎる。
『努力を重ね続ける人が一番強い』
―私も、あの兵士のように頑張らなくちゃ―
本を持つ手に力が入り、再び歩き出すと後ろから声をかけられた。
「皇女様。本日の新聞です」
メイドが渡してくれた。
「ありがとう」
自分の部屋に戻り、椅子に腰かけ新聞を開いた。
―パパの容態は書いていないわね―
「パパ……」
~~♪
タブレットから着信の音が鳴る。
「こんにちは!今お時間大丈夫ですか?」
「はい。ごめんなさい。日程をお伝えするのを忘れていました」
「いえいえ!大丈夫です!
「さっそく本題ですが、3ヵ所の結界場所の浄化の件で――」
―メールが来ていたのをすっかり忘れていた―
数日前、来ていたメールにはこう書いてあった。
この世界の3ヵ所に壊れた結界場所がある。
そこを修復する(結界石を埋める)というのが、私の任務らしい。
「王が討伐した場所なんです。」
「え?」
「3ヵ所の1つがその場所なんです。
結界石を埋めないと、早くて数か月後
また魔物が発生してしまう可能性が――」
「結界石を作って頂きませんか?もちろん、私がサポートします」
「私の魔力でも作れますか?」
「はい!今からそちらへ行きますので!お待ちください!」
プツッ
ほどなくして女神が現れ、少し待つように言われ待っていると……。
「眠りなさい」
女神の手のひらに溢れてくる花びらに息を吹きかけると、
花びらは、緑と銀色の蝶の姿へ変わり
部屋を素通りして広がっていく。
扉の外で、ドサッドサと鈍い音が続くのが聞こえた。
「一体、何を……?」
「皆さんには、少しお休みしてもらいました。さ!始めましょう」
「手を出して、イメージは大きい宝石のような石を――」
シュゥウウウ―――
私の小さい手から光が少しずつ集まって球体になっていく
「クッ……ッ」
体がどんどん冷たくなっていき、手が揺れ始めた。
「もう少しです! 頑張ってください!」
―魔力が体から吸われていく……―
女神が私の手の甲の上に手を重ねた。
「私の魔力も混ぜます! 」
緑と黄金の光が絡み合い、球体は綺麗に輝きだした。
ゴトッ……ガランッ
「これで終わりです! 大丈夫ですか?」
息があがっている女神と私。
私はペタンと床に座り込み、暫く動けなかった。
それから女神と夜に埋めに行く約束をして解散した。
◇
「それじゃ、よろしくね」
「マスター行ってらっしゃいませ」
夜になると女神と一緒に森へと転移した。
シュンッ
三日月が、深い森を優しく照らしている。
歩いていると、大きな傷が刻まれている木を見つけ立ち止まった。
―パパと皆はここで戦ったのかもしれない―
そっと木の幹に触れ、再び歩き出す。
「ケホッケホッ……まだ瘴気が残ってますね」
顔を歪め咳き込んでいる女神を見て、私は首を傾げた。
―全然私は感じないけどな―
暫く歩いていると、女神の足が止まった。
「ここです」
目の前に、穏やかな湖が広がる。
女神は、作った結界石を取り出す。
「風魔法で、中心だと思う場所へ移動させてください」
いつも穏やかな表情の女神は、真剣な表情で言った。
「はい。分かりました」
私は、風魔法で移動させていく。
「そこに石を落としてください!」
ドボンッ!!
ブクブクッ……
パァアーー
落とした場所から、一気に広がる光のカーテン。
さっきは見えなかったが、光に包まれた紫色の粒が消えていく。
「これでいいんですか?」
「はい!これで暫くは大丈夫でしょう!お疲れ様でした!」




