EP19. 光が残したものと新たな不安
「陛下がお目覚めになったぞ!!」
―この声は騎士団長だな―
視界が、ぼんやり広がる。
目が覚めたのは馬車の中だった。
―体が殆ど動かない。そうだ、他の兵は無事なのか―
そう思った瞬間から、意識がはっきりしてきた。
「皆は無事か?」
「全員無事です」
「そうか、よかった」
皮膚が焼けるように熱く、鋭い痛みが走っていたのに
今は何も感じない。
団長を見ると、腕にあった切り傷が綺麗に治っていた。
―どういう事だ……? ―
治癒出来る者はこんなに短時間で綺麗に治せない。
回復薬も底をついていた状態で――
頭の中で考えを巡らせていると、団長が口を開いた。
「今、一番近い街へ向かっております」
「あぁ」
「陛下。私のせいで怪我を負わせてしまい、
大変申し訳ございません……」
「気にするでない。よく一緒に戦ってくれた」
「はい……このご恩は必ず――」
―私が展開した結界は過去一度も破られたことが無い。
まさか、いとも簡単に壊されるとは……―
馬車に揺られながら、魔物と戦っていた光景を思い出していた。
街の入り口へ着くと、兵士達は絶句した。
ボロボロの木の門。崩れた石の壁。
進むにつれて、大通りから逸れた小道の路上には
やせ細った民が力なく座り込んでいる。
「団長、どうしましょう」
「心苦しいが‥‥‥今は治療が先だ」
悲惨な光景に顔を歪ませた騎士団長と兵士は、それ以上は口を開かなかった。
それから治療院を探し、事情を説明すると中へ通された。
「陛下。この度は、街を救ってくださり、本当にありがとうございます」
市長が頭を下げた。
「魔物被害が酷く、お食事など色々とご不便をかけるかもしれませんが、
精一杯のおもてなしを致します」
「気にするな。大変な時はお互い様だ」
「これから医者が、陛下の状態をお話するかと思います」
「ああ」
暫くすると、入れ違うように医者が入って来た。
「お初にお目にかかります。
この治療院で医院長をしております、ネイマと申します。」
「世話になる。して、我の怪我は? 」
「診断結果ですが、魔力枯渇です。
背中の傷は、かすり傷程度かと――」
「かすり傷……だと?」
目を見開きながら、発した大声が部屋に響く。
カランッと、鉄の容器を落とす音が遠くで聞こえた。
「大声をだして、すまない」
「ひっ! は、はい……」
ビクッと肩が跳ね、怯える医師。
「怒っているのではない。
魔物からブレスを背中で浴びたから……不思議に思ってな」
穏やかな声で医師に言った。
「恐れながら。魔力で内部も確認しましたが、
異常は見つかりませんでした」
医師は、他の兵士達を見渡す。
分厚いメモをペラペラめくりながら、首をかしげる医師。
「兵の方々も、軽傷や完全に治っている方も居まして……。
我々も、理由が分からず――」
「そうか……」
「陛下の治療は、魔力補給をして静養して頂きます」
「あぁ、よろしく頼む。城に戻ったら全員分の治療費を払おう」
「そんな! めっそうもございません!
魔物から街を救って頂いたのです。費用などお気になさらず」
「復興にも金が要るだろう。まぁ、そこは市長と話をする」
医者は一礼して、違う兵士への治療へ向かっていった。
―あの攻撃を受けて軽傷とは―
「城に帰ったら一度、話し合わねば」
小さく呟くとベッドに入り、瞳を閉じた。
最後に戦った時、白い鳥がまとっていたのは光属性。
―娘は、覚醒しているのか? ―
もし、娘の力を周りの者に知られたら――
妻のように戦場に駆り出されるか、
利用しようと企む貴族も出てくるだろう。
―絶対に知られてはならぬ。娘の未来を守らねば―
◇
「号外でーす! 」
ルイーナ王国の街では、号外の新聞が飛び交う。
「まぁ!さすが国王ね! 」
「ドラゴンみたいな魔物って大きそう」
「死者を出さない討伐は初めて聞いたぞ! 」
魔物壊滅のニュースは、瞬く間に広がっていった。
コンコンッ
「皇女様!討伐隊が魔物を壊滅させたと報告がありました! 」
走って来てくれたのだろう。メイドは息が上がりながら部屋へ入って来た。
「パパは無事なの? 」
「はい、ご無事です。ただ、負傷し近くの街で治療しているそうです」
―あの強いパパが……。―
「え、傷の具合いは……? 」
「詳細は分かりませんが、ルーカスが調べるとは言ってました」
首を横に振るメイドを見て、不安が募っていき俯く。
「そう……教えてくれてありがとう。下がっていいわ」
ふと、メイドが持っている新聞が気になった。
「その新聞、見てもいい?」
「はい。大丈夫ですよ」
「読み終わったら、すぐ返すね」
メイドが出て行った後、新聞に目を通す。
表紙の見出しには
『国王が隣国の暗闇を打ち払う!』
と大きく書かれていた。
記事には魔物を倒し、兵士の死亡者が0人という偉業を成し遂げたこと。
討伐隊へ市長や、民が感謝の言葉が綴られている。
私は、新聞に記載しているパパの名をそっと触れた。
「パパ、すごいな。でも、怪我が心配よ……」
溜息をつくと、次のページを開いた。
『尋ね人』の欄が目に入った。
そこの描かれていた肖像画を見て、息が止まる。
―この姿……あの少年に似ているわ―
椅子に座り直した私は、新聞をじっくりと読み進めた。
隣国の第二王子という身分。髪や目の色。ほくろの位置の特徴……。
そして多額の懸賞金。
―王子が暗殺者……これは一体どういうことなの?! ―
「訳ありとは思っていたけど、かなり複雑ね」
新聞を静かに閉じると、指で机をトントン叩いた。
暗殺者ギルドはこの事を知らないとは思えない。
それに変化の魔法をかけた後、もし少年が国へ帰りたいと言われたら?
私は、頭を抱え小さく唸る。
「この先……どうしたらいいの」
―このままじゃ、きっと何かが起きる。―




