EP.18 実の謎と光の正体
ガタガタッ……
「ふわぁ~……」
口に手を当て、欠伸をしていると
「皇女様。護衛を付けなくて、よろしかったのですか? 」
「うん。大通りしか通らないから大丈夫」
メイドを連れた私は、王都の一番大きい図書館へと馬車を走らせていた。
―馬車の揺れは苦手だ……腰が痛いよ―
「皇女様。着きました」
「ここから先は一人で行くから、また後でね! 」
「え、皇女様――?! 」
メイドを置き去りにして馬車から飛び降りると
目の前には、城のような巨大な建物がそびえ立っていた。
その手前には、長く白い石畳の階段が続いている。
「立派ね。さすが国一とされる図書館だわ」
あらゆる本があるこの場所には、貴族や王族じゃないと入れない。
長い階段を上ると、入口に5人くらいの警備が横並びに立って居た。
「通行証を」
「はい」
「こ、皇女殿下?! どうぞ、お入りください」
私の名を見て、慌てて頭を下げた警備兵の顔は青ざめていた。
―まさか護衛もつけずに、一人で入るとは思わなかったよね―
ドアが両側から開かれると、別世界が広がっていた。
「わぁ~」
両側に広がる本棚の森。中央の螺旋階段。
パンッ
係りが返却場所で手を叩くと、空中で一回転をした本が一斉に棚へと戻って行く。
―素敵な場所ね。木と本の匂いがする―
私は目を輝かせ、辺りを見渡しながら足を進めた。
「皇女殿下、お探しの物はありますか? 」
後ろを振り返ると、紺色の服に木の形の腕章を着けている係の人が微笑んでいた。
「珍しい植物が載っている図鑑はあるかしら? 」
「はい。いくつかありますゆえ、お席までお持ちしましょう」
「ありがとう。助かるわ」
私は二階へ上がり、椅子に深く腰を掛けた。
ドサドサッ
暫く待っていると、机の上に分厚い本が置かれる。
―わぁ、量が多いわ……! ―
「お待たせしました。また何かありましたらお呼び下さい」
「ありがとう」
積みあがった本を横目に、鞄からノートとペンを取り出す。
分厚い本のページを一枚ずつめくっていくと。
以前、城で出された毒草が見えて手が止まった。
―葉野菜と見分けつかないわ―
あのまま気づかなかったら出され続けていたのだろう。
次のページを開こうとした瞬間。
「皇女様、ここで何を読まれているんですか?」
私は手を止めて顔を上げると、毒草事件でお世話になったあの魔導師の老人が立って居た。
「ごきげんよう。珍しい植物が気になって、調べてるの」
「植物の名をお聞きしても? 」
「‥‥‥あまゆいっていうんだけど知ってる?」
少し驚いた表情をした老人は、すぐ元の穏やかな表情に戻る。
「恐れながら……その植物は、今から200年前に絶滅し
この世界には無いと言われています……」
「こちらの本に、載っておりますぞ」
魔導師は積まれた本の中から、一冊の赤い本をパラパラ目の前でめくり
開いたページを差し出した。
「ありがとう。もうこの世界にはないのね……」
部下と思われる若い男が、魔導師を呼ぶ声が聞こえた。
「私はこれで、失礼します」
老人が立ち去ると、私は再び本へ目線を戻した。
「何々? 実を付けるまでに2年――」
大きい実はオレンジ色。とてもみずみずしく甘い。
病人が食べれば、病はたちまち治り。別名、森の奇跡。
副作用:別人のような目の色・髪になる。
一時的な記憶障害になる場合がある。
他の説明を読み進め、最後のページにあった挿絵を見ると私の手は止まった。
―あれ? 昨日食べた果物に似てる……―
『本当にこれうまいな!』
少年と一緒に食べた記憶が頭に思い浮かんだ。
「……まさかね?」
昨日食べたあの実がもし『あまゆい』だとしたら……。
でも、アイテムBOXには種も実も少し残したのが幸いだと思った。
「全部食べなくて良かった……」
―またあの妖精に会ったら、聞いてみよう―
私はそっと本を閉じ、図書館を後にした。
◇
ザシュッ!
グァアアアァァーー!!
魔物の雄たけびと、剣が魔物を切り裂く音が響く。
「ハァハァ……。後、もう少しで中心部だ!」
魔法と剣を使いこなしながら、森を進んでいく。
―絶対に誰一人、死なせはしない ―
王の剣を握る手にグッと力が入る。
ブワッ――!
突然、頭上から強い風が吹き見上げる。
「あれが、主だな」
体長が20mくらいの巨大な赤黒いドラゴンのような魔物が地面に降り立った
黒いブレスをばらまき、ブレスにあてられた草木がパラパラと枯れていく。
「陛下!小物は私たちが!!」
魔物をなぎ払いながら、一人の兵士が叫ぶ。
「ああ!頼んだ!」
「団長!一緒に挑んでくれるか?」
「もちろんです! 」
スッ―――ブオォンッ
剣を握り直し、魔力をまとわせると青白い光が剣を包んだ。
騎士団長に目配せをして、二手に分かれた。
バチバチッ! グサッ!
グワァアーー
「外したか……」
雷魔法と短剣を投げたが額を外れ、片目を突き刺した。
暴れた魔物の尻尾が騎士団長へ向かった。
「団長!!」
「ガハッ……! 」
太い木の幹へと、投げ飛ばされる騎士団長。
魔物へ次々と魔法を放ったが、弾き返されてしまった。
「クソッ……」
グゥォォオオ―――!
竜の唸り声が鳴り響き、次のブレスが団長へ飛ぼうとしていた。
瞬時に結界を張り、団長を庇うように飛び出した。
パリンッ!
―――ッツ!!
「陛下!!」
私が作った結界魔法がボロボロ崩れ落ちた。
―皮膚が焼けるように痛い―
そのまま団長の上に倒れ込んだ。
「無事か?」
「なぜ私を、庇ったのですか……」
騎士団長の目元が涙で光る。
―体が動かない。毒なのか痺れてるな―
「ハハッ、体がとっさにな。すまない。私はここまでのようだ」
「そんなこと言わないで下さい。私が仇を打ちますから! 」
騎士団長が魔物の主を見上げると、魔物の口から次の黒い球体が徐々に大きくなっている。
「誰か――」
団長はギュッと目を瞑り、呟く。
すると、陛下の体からまぶしい光が出てきた。
パァァア……
「なんだ……この光は? 」
陛下と団長を包んだ光は空高く舞い上がり、一羽の鳥の形になる。
大きく翼をバサッと広げた白い鳥がドラゴンの後ろに移動した。
魔物がギロリと鳥を睨みつけると、その黒い球体を鳥へと飛ばす。
ドゴォオオ――!!
爆発音と衝撃波で、あたりを揺らし土煙がたっていった。
煙が薄くなると、光の鳥から黄金の光を出し魔物の主の体を貫いていた。
「ケホッケホッ……なんと、美しい光」
「あぁ……」
ドォオオン……
主が倒れサラサラと黒いチリになって消えると、大きな音がした。
ゴドッ……ガランッ
巨大な魔石と、空からボロボロの紙で作られた鳥が落ちてきた。
「アイビー……守ってくれたんだな」
その形は、まぎれもなく出陣前に貰った愛する娘からのプレゼント。
「陛下、あの鳥は一体」
「……神が味方してくれたんだ」
―この光は……あの子の魔力だ―
そう言い終わると同時に、団長の腕の中で私は気絶した。




