EP2. 朝食に毒を盛られましたが、チートスキルで回避しました
「声を荒げて申し訳ございません。
この料理の中で、この野菜。嫌な予感がするので……食べないでもらえますか?
念の為、詳しいものに調べさせてください」
椅子へ静かに座り直した私は、一斉に向けられた視線が恥ずかしくなり目を伏せた。
根拠もない。頭の中で警報音が鳴ったことも、野菜が光って見えたことも説明できない。
それでも、どうしても止めなければならない気がした。
「誰か、この野菜を調べてくれ」
陛下はすぐ側に居た執事へ命じた。
「娘が初めて自ら声を上げたのだ。よほどのことなのだろう」
その言葉に胸を撫で下ろす。よかった。信じてもらえた。
「アイビー、他に気になることはないかい?」
「いえ…。それだけです」
そう答えた瞬間、頭の中で鳴り続けていた警報音が消えた。
どうやら最悪の事態は避けられたらしい。
しばらくすると、一人の老人が食堂へ入ってきた。白い髭を蓄えた魔術師のような人。
老人は野菜へ手をかざす。すると葉が紫色に染まり、次の瞬間には真っ黒になって崩れ落ちた。
老人は深々と頭を下げる。
「陛下。大変申し上げにくいのですが、これは毒草の一種で間違いありません」
「なんだと?!」
陛下は怒りに満ちた表情で椅子から勢いよく立ち上がった。
「即座に症状は出ません。しかし一定量を摂取することで、体を蝕む類の毒です。
発覚しづらく、長期間の使用を前提としたものでしょう」
老人の声が低くなり重く響く。
「直ちに原因と主犯を調査いたします」
「ころす・・・・絶対にころす…」
陛下が握ったグラスが砕け散った。
「わが娘にも同じ草を出しやがって……。クソが……」
ーひぃ!血が出ないほど手の皮厚いんかい!この人に逆らいたくない…… ー
「陛下…皇女様の前でございます」
陛下の後ろに居た執事の恰好をした初老の男が口を開いた。
「ごっほん。そうだな、声を荒げてすまない。」
すると先ほどまで鬼のような顔をしていた陛下が、一瞬で笑顔になった。
「助かったよ、アイビー!」
目を輝かせながらこちらを見る。
「本当に可愛くて賢い娘だ!我が娘は最高すぎる!」
さっきとの温度差がすごい。
「悪い奴らは、パパがお仕置きしておくから安心するんだぞ!」
語尾は優しいのに内容が怖い。笑顔なのに目が笑っていない。途中でお口悪いの出てる……。
私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
老人が騎士へ何かを耳打ちし、部屋を出ていこうとした瞬間。
入口付近にいたメイドの一人が目に入る。彼女の手は小刻みに震え、顔色も明らかに悪い。
―もしかして、あの人か?―
でも、証拠はない。私が見たのは震えている姿だけだ。
余計なことを言うのも違うだろう……。私は黙って視線を外す。
その後は、当たり障りのない会話をしながら朝食を終えた。
部屋に戻ってきた私にメイドがやってきて
「本日の授業は朝食の一件で、一日無いことになりました。
自由にお過ご下さい。」
それだけ告げて部屋から出て行った。
「ふうぃ~~ 疲れたあ……」
毒殺未遂とか聞いてないよ、なんなんだ……この世界。
神様の手違いで転生とかなら、せめて説明くらいあってもいいじゃないか。
「神様いるなら説明してよー!」
私は、天井へ向かって叫んだ。
その時。
指パッチンみたいな音で、全部が真っ白な世界になっていた。
次の瞬間、部屋もベッドも消え去り、辺り一面が真っ白な空間へと変わる。
「うわっ!?」
慌てて立ち上がる。床はある不思議な空間だった。
周囲を見回していると、少し離れた場所に小さな女の子が立っているのが見えた。
緑色の長い髪に透き通るような白い肌の小さい女の子が泣いている。
「ご、ごめんなさいぃぃ……」
私と目が合った瞬間、さらに泣き始める。
「えっ!?」
私が泣かせたみたいになってる……。
「と、とりあえず泣き止もう?あなたの名前は?」
すると少女は慌てて涙を拭いた。
「私は緑の女神、ファーリル と申します。……私が悪いんです…
私が皇女様が辛そうだから、あなたを器に入れたのです…。」
泣きながら小さい少女は私に告げた
「私は、元の世界には帰れないの?」
ファーリルは小さく首を横に振る。
「……。帰れません。」
私は思わず額を手で押さえた。ファーリルはさらに青ざめる。
予想はしていた。でも実際に言われると少しだけ寂しい。
「そっか、それじゃあ仕方ないね」
心残りは、ガチャ引きたかった事くらい。それ以外は意外と思い浮かばなかった。
両親も、もういない。一人暮らしと仕事の往復。
だからだろうか?自分でも驚くほど冷静だった。
「怒らないんですか……?」
「怒ったら帰れる?」
「帰れません……」
「じゃあ仕方ない」
私が笑うと、ファーリルはぽかんとした顔になった。
「今の状況を説明してほしいな」
ファーリルは何度も頷いた。
「もちろんです!」
そうして彼女から、この世界の話。ルイーナ王国や皇女の話を聞いた。
「お母様は、私が幼い頃に亡くなっているの?」
「はい」
魔物討伐の最中に命を落とした出来事がきっかけで、皇女は心を閉ざし。
父は娘を守ることだけを生きがいにするようになった。
……朝食の様子を思い出し、なんとなく納得した。
―だからあんなに溺愛してたのか―
「皇女様は生まれつき特別な祝福を受けています」
「祝福?」
「はい。全属性への適性です。ただし光と闇は隠蔽されていますので、他人には見えません」
「そうなんだね。なるほど」
女神が言い終わると、手を差し出した。淡い光が集まり、一枚の薄い板になる。スマホに似ている。
「それと、こちらをお渡しします」
タブレットのような、スマホのような物を差し出された。
「スマホ?」
「いえ!違います」
見れば見るほどスマホだった。
「今後必要な情報はこちらで確認できます」
受け取った瞬間、画面に文字が浮かぶ。 異世界なのに文明レベルが高い。
「詳しい説明は少しずつします」
ファーリルは真剣な顔になった。
「急がなくても大丈夫です。まずは、この世界で生きることに慣れてください」
その言葉に私は頷いた。確かにその通りだ。初日から情報を詰め込まれても覚えきれない。
「分かった」
まずは生きる。
そして少しずつ、この世界を知っていこう。
そう思った瞬間。
先ほどまでいた空間から瞬時に私の部屋の景色に戻った。
私の中で、異世界生活への不安よりも期待の方が大きくなった。
手元には一枚のタブレットだけが残されている。
「……まずは異世界生活か」
画面を開く。
すると右上に赤い通知マークが表示されていた。
【未確認のお知らせがあります】
「ん?」
私は何気なく、そのアイコンを押した。
画面いっぱいに金色の文字が表示された。
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