EP16. つまみ食い妖精達とオネエ妖精王
「クシュン」
熱が出て数日経ったが、完全にはまだ治っていなかった。
コンコンッ
「皇女様。お着換えをお持ちしました」
「ご気分はいかがですか?」
「喉は平気になってきたけど、体が重たくて」
メイドは手を額に当てると首を横に小さく振る。
「まだ熱が下がりませんね……ルーカスに相談してみます」
そう言い残し、部屋から去っていった。
パタンッ
「……はぁ。自分に治癒をかけたけど治らなかったな」
そう呟きながら、タブレットを操作し始める。
「あれ? また画面が……」
ガチャ画面だけが、以前より表示される色が薄くなっていた。
『ある一定のレベルになれば、ガチャは不定期』
女神の言葉が脳裏によぎりながら、今日もガチャを回そうと指を置いた。
―♪
【∞ 豪華な宝玉(大)】
あらゆる願いを1つ叶えることが出来る。
嫌いな人を消すのもよし!世界を滅ぼすのもよし!
「いやいや。最後の文おかしいって!しない、しないから! 」
慌てた私がスライドしようと触れると
【実行しちゃう?】
「……しちゃう?じゃないのよ。ノリ良すぎでしょ」
―このシステム作った人どうした?! 話きこうか? ―
心のなかでツッコミをいれながらBOXにしまい、溜息をついた。
「たまに変な説明の物が出るんだよな……」
水飲もうとベッドから降りようとした瞬間、光が横切った。
「はぁ……とうとう私は、幻覚を――」
また違う光が横切り、目で追うと……。
目線が止まった先には、複数の妖精が飛び回っていた。
その中に、見たことがある妖精もいる。
「あれ、レイチェル先生と歌ってた妖精……」
サクサクッ
音がした先に目を向けると、机に置いておいたクッキーを
大きく開いた口でかぶりついている妖精が居た。
―え、羽をパタパタしてて可愛い! ―
「クッキー美味しい?」、
ビクッ
食べていた妖精の肩が跳ね、動作が止まってしまった。
ゆっくりこちらに顔を向けるが、その表情はこわばっている。
「……」
「その隣のクッキーも美味しいよ」
「ゴクンッ……。あなたは、私がみえるの?」
「うん」
私が見える人間だと分かると、他の妖精達が一斉にバーッと散らばった。
「捕まえないで」
「どうしよう……」
「見える人間めずらしー! 」
―ありゃ……怯えてる。話しかけちゃダメだったかな―
「私、体調が悪くて寝てたの。皆を捕まえないから安心して?」
「……」
羽がパタパタ鳴る音が室内に響く。一人の妖精が枕横に近づいてきた。
「あなた、病気なの? 」
「うん。熱が中々下がらなくて」
眉毛を下げ困った表情をしている妖精が、仲間の妖精の元へ飛んでいった。
ヒソヒソ何かを話している。
「私、眠るから。お菓子全部食べていいからね」
そう言って布団の中に入ると、妖精が集まって来た。
「この子……やっぱり」
「私達じゃ全部治せないね」
「なんで人間界に闇煙が」
―え、『闇煙』って……もしかして―
「黒くて苦しい煙を見なかった? 」
「触っちゃった? 」
私は布団から顔を出し妖精を見つめた。
きっと何かを知っていると思いながら口を開く。
「黒い煙……触ったというか。絡みついてきたかな」
―少年とパパを治療した時にね―
ブワッー
開いた窓から一瞬、強い風が入って来た。
「遅いわよ~蕾ちゃん達。って、何この人間……」
「あ! 妖精王!」
薄い金色に緑のメッシュが入った髪。
葉の形をした金のピアスを付けている。
男の人の姿だけど、口調はオネエ言葉だ。
「あなた、穢れに触れたのね」
私を見つめる目は、とても冷たかった。
「ねぇ! この子の病気治してあげて」
「この子可哀想だよ」
「嫌よ! 私、人間が嫌いなの」
顔を背けて腕を組んでいる妖精王。
窓から差し込む太陽の光に照らされた髪はとても美しかった。
「綺麗……」
私は思わず呟いてしまい、ハッと口を両手で塞いだ。
「……あら、あなた見る目あるじゃない。
毎日、肌のお手入れを念入りにしてるんだから――」
片目を開けてこちらをチラチラみながら、美容について話し始めた。
「美は一日にしてならずよ!あなたもお手入れはしっかりね!」
「はい! 」
「よろしい! ハッ……あたしったら、なんで人間に……」
妖精が、王の耳へ近づき何やらヒソヒソ話している。
「はぁ……分かったわよ」
やれやれと首を振り、数歩前に出た妖精王は
「蕾ちゃん達が、無断で食べた菓子の謝罪よ」
手をかざし始めると、金色の光にのって花びらと小さい葉が
私の体へと包み始めた。
「わぁ~。とてもいい匂い」
花の優しい香りと、ミントのようなスッとしたハーブの香りがして
そっと目を閉じる。
心地よい冷たい風が、私の体を優しく冷やしていった。
カサッ……
音がして目を開いた。
視線を下に向けると、何枚かの葉が茶色く変色し落ちている。
「闇煙の残骸が取れたわね」
「闇煙? 」
私は首を傾げた。
「禁止されている呪いの1つよ。人間界の薬じゃ治せないわ」
妖精達が嬉しそうに私の周りを飛んでいる。
「よかった! 全部治った! 」
「王はやっぱり、すごい! 」
「勘違いしないで、一部の残骸が取れただけよ」
「え?」
私と妖精達は、王を見つめた。
「あたしの力は今、全盛期の魔力量じゃないのよ――」
妖精王は、俯きながら拳をギュッと握っている。
「それでも、体は楽になりました。ありがとう妖精王」
私は、微笑むと王は顔を背けた。
「さ!蕾ちゃん達、帰りましょう」
「は~い」
妖精達は王の髪や肩へと飛び乗り始めた。
「待って、あなたの名前は? 私はアイビーよ」
「あたしはジゼル。
美容の話なら……また教えてあげてもいいわ」
「治してくれてありがとう。ぜひ今度来てください」
私は頭を下げ、微笑んだ。
「まったく~王は素直じゃないね」
「ぷぷっ」
「またお菓子食べに来るねー」
緑の光に包まれて、王と妖精は部屋から消えた。
「行っちゃった……。それにしても、すごい体が軽い」
両手を上げ、ぐーっと背を伸ばす。呼吸も楽になっていった。
ステータスを見ると通常に戻ったが、魔力値が低い。
「治ったし、田島食堂へ行こうかな」
私はタブレットを手に取った。
「マスター。大丈夫ですか? 」
「うん! もう大丈夫よ」
影武者に体調不良だった事を説明して、私は城下町へ転移した。
カランカラン
「いらっしゃい! あら、疲れたような顔をしてるじゃない」
水を持ってきた女将さんが、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「最近、忙しくて――」
「無理はしないようにね? 今日は何にする? 」
「唐揚げとオムライスで、あの……」
「大盛で」
「大盛でしょ?」
声が重なった私達は、目を合わせた後フッと笑い合った。
「はいよ! お待ちどうさん! 」
「う、うわぁあ~! 美味しそう! 」
一口食べれば、ふわふわの卵とケチャップライスが広がる。
「ん~美味しい! この玉ねぎのスープも最高ね」
おかわりをしたのもペロリと平らげ、お腹も心も満たされた。
「ごちそうさまでしたー!」
今日は、銀貨で初めて支払いをして店を後にした。
転移場所まで歩いていると、親子の会話が耳に入る。
「家に帰ったら薬を飲まないとね」
「えー苦いからヤダ!!」
その瞬間、すっかり忘れていた事に気づき足を止めた。
―ハッ忘れてた! 影武者……今頃―――
◇
「完食できましたね! さ、皇女様。お薬飲みましょうか」
「え……」
美味しい夕飯を部屋で食べ終わったら、
メイドに、この土色の塊を飲めと言われている。
―マスターこの薬は何ですか? 聞いてませんよ? ―
いつもなら、食事を置いたらすぐ居なくなるメイドが……。
食べ終わるまで部屋に居る事は不自然だと感じていた。
―これのせいだったのか。―
私は、ジッと薬を見つめたまま口を開いた。
「後で飲みます」
「いーえ。私は飲むまでお部屋から出ません!」
頬を膨らませたメイドは、中々口にしない私を見て首を傾げた。
「どうしたのです? 今日は、甘えん坊さんなのでしょうか? 」
「いえ!決っして、子供扱いをして欲しいわけじゃ……」
薬を半分に砕き始め、スプーンですくったメイドが
笑顔でにじり寄ってくる。
「はい!これなら飲み込みやすいですよ。口を開けて~」
「う“っ……」
初めて口にする泥団子のような薬を、飲み込めず顔をしかめた。
目に涙が少し浮かび上がる。
影武者は、マスターを初めて恨んだ。
―マスター……後で覚えておいてくださいね―




