EP15. 失うのはいつも満月
親父が家を出て行ってから 母親がおかしくなっていった。
俺は、親父が出て行って間もなく 奴隷商人へ売られた。
人権なんてない。首輪をつけられた犬みたいな生活を送った。
たまに貴族が来て、檻に入った俺達を見ながら品定めをしては
俺以外の子供が消えていった。
俺は、目が赤い事と黒髪だったため。見た目から不気味と言われ。
力仕事も出来なさそうだという理由から売れ残っていた。
月日だけが流れていく。
その日は満月だった。深い夜に月の光がいつもより差し込んでいた。
焦げ臭い匂いがする。警備が煙草を吸っている匂いと明らかに違う。
「何だ、この匂いは…」
檻の柵に近づき、あたりを見渡す。
月の光ではなく、炎が俺がいる牢屋の斜め前まで迫っていた。
鍵が開くはずもない。
「はっ。俺はここで終わるのか… 散々な短い人生だったぜ。
この檻の中にはあと二人、売れ残った子供がいる。
「助けて! お母さん!!! いやだ!死にたくない!!」
「誰か!!助けてーーー!」
「鍵もない、もう無理だ。あきらめろよ」
他の牢屋の子供達も異変に気付いたのか、体当たりする音と泣き叫ぶ声が聞こえてくる
「最後くらい、穏やかに死なせてくれよな」
俺はもうあきらめていた。これで人生を終わらせれるならそれでいいと。
静かに座り、最後の時をただ黙って過ごしていると
ドン!ドンドン!!! 大きいドアを何かで叩くような鈍い音が響いてきた。
バーーーン!!
一番奥のドアから大きい音と木材の破片が飛んでいくのが檻から見えた。
「おーーーい!誰かいるかーーー!!」
奴隷商人の賭博犯罪を調べていた 近衛兵の一人が助けてくれたのだ。
それから、俺達はそれぞれ修道院へ行ったもの、メイド見習いとして屋敷へ仕えたもの
城下町の養子になったもの
バラバラに違う人生へ歩みだした。
俺? 俺はまたそこでも売れ残った。
この目の色が赤く、不気味だという理由はたったそれだけで。
行く当てがない俺を、助けてくれた近衛兵ギルの家で引き取ってくれる事になった。
名前は無いと俺が言うと、夜に出会ったから ミッドと名付けてくれた。
薪割りや洗濯など家事をして、夜は読み書きを教えてくれて。休みの日は剣の稽古もつけてくれた。
生きていた中で一番幸せだったと思えた 平穏な日々。
俺の不吉だと言われた目も 太陽のように赤く綺麗だと言ってくれた。
食料などの買い出しは 俺の耳に嫌な言葉が聞こえないように 色々配慮してくれて一緒に行動してくれた。
平和な生活が2年続いた時、今度 商家の女と結婚するとギル本人から聞いた。
「実は、俺…半年後に結婚することになったんだ。」
この一言を言われて、出ていけと次の言葉を予想した俺。
「おめでとう。」
「そこで、俺の家族になってほしい。養子になってくれるか?」
固まってしまった俺、出て行けと言われるものだとばかり予想していたから…
「でも、俺は邪魔じゃないのか?」
「何言ってるんだ。もう家族みたいなもんじゃないか!」
椅子から立ち上がり、ギルは俺を抱きしめてくれた。
「ありがとう、分かった 養子になるよ。」
完全に喜べなかった。
そう言ってくれたが、俺が邪魔になるのは目に見ていた。
夜中、また満月の日に俺は家を出た。手紙を残して
ーけっこんおめでとう。ごめんおれはいっしょにいられない。たすけてくれてありがとう。しあわせに―
おぼえた文字をこんな形で最初に使うとは悲しいものだ。
でも、世話になった人が不幸になるのはもっと嫌だ。
「ははっ、満月って俺と相性悪いのかな」
使わずに貯めておいたギルからもらったお小遣いと
昨日の残り物のパンとハムだけ小さい鞄に入れ
フードを深くかぶり、あてもなく歩いていた。
「なんだ?ガキが こんな真夜中に うぅ ひっくっ」
ー あぁ 最悪だー
鞄を取り上げられ、金が入った小袋を出す 酔っ払い
「ガキが使うには大金だな!俺がもらって使ってやるぜ!ひっく」
「おい!返せよ!!くそジジイ!!」脛を蹴る
「あ”?! 調子こくんじゃねぇ ガキがよおお」
酔っ払いは、腰から何かを取り出した。ナイフだ…月明りに照らされ 振り下ろされた瞬間
鈍い音が聞こえ 生暖かいものが少し顔にかかった
「人が胸糞悪い時に うるせぇんだよ クソ野郎。」
上下真っ黒な服を着た ひょろっとした男が 酔っ払いが倒れたと同時に俺の前に現れた
不思議と目の前で起こった事や目の前の黒づくめの男に恐怖心は全然なかった。
「おい、坊主。これもって家へ帰れ。」
そう言いながらお金が入っていた小袋をこちらに投げてきた。
「…家も家族も居ない。俺には帰る場所なんて…ない…。」
地面を見ながら俺は呟いた。
「… 一緒に来るか? ただ、もう二度と太陽の下で遊ぶ子供には戻れないぞ」
「行く当てなんてないんだ、遊びたいとも思わない。一緒に行く。」
これが俺が暗殺者ギルドに入ったきっかけだった。
―この選択が、俺の人生を完全に壊すことになるとは、この時はまだ知らなかった。―




