EP13. 熱の向こう側に落ちていた知らない記憶
「皇女様!起きてください」
メイドの声で瞳を開くと、視界がぼやけていた。
―あれ、体が熱い……喉が痛いな―
「……ん”ん”! ……は”い”」
「皇女様?! 失礼します」
ガラガラな私の声を聞いたメイドは、そっと額に手を当て始めた。
「熱があるじゃないですか! 」
「誰か! 医師を! 皇女様が!! 」
メイド達が慌てた様子で部屋から出て行った。
―ここ数日の疲れが出たのかな―
「ケホッケホッ……。あ”ーやっぱ話すと喉痛いな」
しばらくして医者がやって来た。私が起き上がると、手を前に出して静止させる。
「皇女様。診断しますので、そのまま寝ててください」
緑の光が私を包み始めた。
医師の目線が、左から右へ往復し文字を読んでいるように見えた。
―すごい、私の診断スキルと同じことしてる―
「風邪のようですね。あと睡眠不足と表示されています」
医師が診断結果を私に話していると
「陛下が不在の中、お茶会で気苦労もあったのでしょう……」
「皇女様。おいたわしや……」
数人のメイド達が、私のベッドを囲んで話している。
「皇女様。処方する薬を毎食後に飲んでください。
メイドに持たせますゆえ、ゆっくり養生してください」
「は“い”」
「執事のルーカス様へ報告しに行ってまいります」
医者とメイドは部屋から出て行った。
パタンッ
扉が閉まる音が静かに響くと、私は起き上がり溜息をついた。
―やりたい事が沢山あったのに……風邪を引くなんて―
タブレットを出しログインガチャ回した。
~~~♪
【LR 真実の剣:自動修復】
―これ、少年にいいな―
アイテムBOXへ移動すると、通知音が鳴った。
――♪
【メールが届きました】
―緑の女神からだ! ―
―体調が悪そうに見えたのでメールしてみました!
お話があるので、元気になったら会える日を教えてほしいです。
追伸
よければ食べてくださいね―
添付が付いているボタンが光る。
押してみるとタブレットから、小さい光が出たあと姿を現した。
ふよふよと、金平糖みたいな形の塊が宙に浮かんでいる。
「飴?一応食べれるって事だよね?」
恐る恐る口に入れた。
わたあめみたいな、優しい甘さの飴だった
「おいひぃ」
喉のキリキリとした痛みが和らいだ気がする。
口の中で、コロコロと舐めながら
少年が欲しがっていた木刀のページを見ていた。
通販は食材だけではない。娯楽や雑貨、武器など様々だ。
―お!これ良さそう―
スクロールをしている手が止まった。
子供用の木刀。軽くて練習にピッタリらしい。
私は、木刀と真剣も両方カートに入れた。
―風邪移すとまずいし。今日は少年のところへ行けないな―
コンコンッ
「昼食をお持ちしました。こちらは医者が言っていた薬です」
配膳されたトレーには、お粥みたいな皿と
その横に泥団子を小さくしたものが乗っていた。
薬の色と薬草の匂いに一瞬少し目をつむった後、空を仰いだ
―うぅ、飲みたくない。後で、こっそりアイテムBOXに入れて……―
「こちらの薬を飲むまで、私はこの部屋から出ませんので」
「……!」
私は、目を見開きメイドを見つめた。
―え、心を読まれた?―
メイドは笑顔でお茶の準備をし始めた。
―逃げられないわ……この薬は、そうチョコレートよ!個性的なね!―
私は、何度も薬を菓子だと思い込むように心の中で唱えた。
ご飯を食べたあと、メイドに監視……見守られながら薬を飲みこんだ。
ゲホッゲホッ
―クッソ苦い!まずい!無理ぃぃ-
苦さで顔が歪みながら、水をガブガブ飲む。
「熱が下がっても3日は、こちらの薬を飲まなければなりません。
苦いかもしれませんが、頑張ってくださいね! 」
私は、涙目でゆっくり頷いた。
―さっきの金平糖みたいな飴、取っておけば良かった……―
「皇女様、苦い薬を飲んだ後のお口直しによろしければ こちらをどうぞ」
白い包を差し出され、私は首を傾げた。
「ルーカスには内緒ですよ?」
ウィンクをしたメイドは、そっと白い布の包を私の目の前で広げると
、マシュマロが数個入っていた。
―うおぉ! このメイドは女神様だ! ―
私は、笑顔で何度も頷いた後マシュマロを口に入れた。
―美味しい! 口の中が苦味から甘さへ塗り替えられていく―
「あ”り”がと”」
「ふふっ、それでは別の仕事に戻りますので 失礼致します。」
メイドが部屋から出ていくと、
机の上に残ったマシュマロをアイテムBOXにしまった。
―早く治さなくちゃ……あの薬をもう飲みたくないし―
ベッドに再び入り、目を閉じた。
「おや……」
ルーカスが飲み物の補充をしに、皇女の部屋に来ていた。
蹴とばされた掛け布団と、豪快に大の字になって眠る皇女を見て
フッと口元が緩む。
「早く良くなってくださいね」
布団をかけ直したルーカスは、ふと机の上にあるノートを見つめた。
「熱があるのに、書き物をしていたとは……勤勉ですな」
開かれたページを閉じようとした時、日本語で書かれていた文章が目に入る。
手が止まり、ハッと息をのんだ。
「……この文字をどこで……」
紙の文字に、そっと触れた手が微かに震えた。
ルーカスは目を細め、暫くページを閉じられなかった。
◇
私はその頃、夢を見ていた。
真っ暗な空間に一人ぼっち。
光の元へ歩いていくと、空間が明るくなりガラッと変わった。
「どこよ、ここ。うぅ――頭痛がする」
こめかみを抑えながら、辺りを見渡すと走っている小さい女の子が見えた。
―私と同じ姿。でも、幼いわね―
ガゼボの周りには、薔薇やダリアなどが咲いていた。
雨が降った後だったのだろう。朝露がキラキラと輝いている。
「ママ!! 」
「アイビー走ったら危ないわ」
「えへへ。抱っこしてー」
ママの足に飛びつき、笑顔で見上げている。
―幼い頃の私ね。か、可愛いわ―
私はすぐ後ろで見ていたが、誰も気づかない。
「よいしょぉ~。重たくなったわね」
抱っこして微笑む王妃。
「パパも、抱っこしたい! おいで!」
パパが手を広げているが、首を横に振る少女。
「やー! ママがいい! 」
「振られたわね」
「ああ。ママには敵わないな」
3人の笑い声が、ガゼボに響いていた。
パッ
『え? さっきと場所が違うわ』
「ママ……」
声の方へ視線を向けると、猫のぬいぐるみを抱えて部屋の隅に座り込んでいる。
「皇女様。ご飯をお召し上がりになってください」
「……いらない」
首を大きく横に振り、俯いていた。
「はぁ……」
溜息をついたメイドは部屋から出ていった。
―ここは、私の部屋ね―
見慣れた家具と絵本がある。
「私が、いい子にしてなかったから死んじゃったんだ」
『そんなことないから!』
思わず肩に触れようと手を伸ばしたが、自分の手がすり抜けた。
『あ……無理なのか』
バンッ!
その時、扉が勢いよく開かれた。
「皇女様!いいかげんになさってください!! 」
―誰だ。この女は―
「王妃様は、最後までご立派でした。
皇女様もいつまでも塞ぎ込まないで気丈にふるまいなさい!」
―は? こいつ何言ってんの?―
私は、女を睨みつけ少女を後へ匿うように前に出た。
女へ手を広げ威嚇する。
『あんただって、親が死んだら落ち込むだろうし
切り替えなんてすぐ出来ないでしょうが! 』
聞こえないと分かっていても、怒りで叫んでしまう。
「ごめんなさい」
幼い皇女の消え入りそうな声が後ろから聞こえた。
パッ
また空間が切り替わった。
「皇女様って、見た目だけ似てるだけよね」
「王妃様みたいにもっと――」
『なんなのこいつら……まだこの子は子供なのよ? 』
怒りで握った拳が震える。
広い廊下に居たルーカスへ走り出す少女。
「パパはいつ帰ってくるの?」
「もう少しで帰ってきますよ」
「そうなんだ……」
「ねぇ、おとっているってどんな意味なの? 」
ルーカスがその言葉を聞いた瞬間。
険しい顔になり、少女の両肩に手を置いた。
「誰にその言葉を言われたのですか? 」
「え……な、なんでもない」
少女はルーカスの顔色が変わったことに驚き、自分の部屋へ走っていった。
―そうか、親が立派だから比較され続けてたのか―
それから、いくつもの空間が切り替わった。
最後の空間に切り替わった時、初めての夜の場面だった。
「ママ。私をお空へ連れて行ってください。ここはとても悲しい場所だよ」
少女は窓から見える星に願いを伝えている。
『……』
言葉が出なかった。ただ、私は触れられないと分かっていても
少女を後ろから抱きしめていた。
―辛かったね。よく耐えた。あなたは劣ってなんかない。素敵な女の子よ―
緑の女神が、辛そうだったから器を変えたって言ってたのを思い出した。
『きっと、女神はこの子が過ごしてきた時間をずっとみていたのね』
パチッ!
「ハァハァ……」
夢から目覚めた私の頬には、涙が流れていた。




