EP12. 過去の傷跡と森の鍛錬
パキッ……パチッパチ
静寂の森に、焚火の音が響く。
オレンジ色の淡い光が、討伐部隊の野営テントを照らしていた。
ザッザッ――
騎士団長が足早に陛下のテントへ向かった。
「陛下、今よろしいでしょうか」
「ああ。入れ」
「魔物の発生源ですが……。先ほど、新たに2ヵ所報告がありました」
「なんだと……!」
「それと、明日討伐予定の近くに街があるのですが――
かなりの被害がでています」
「国から避難指示は出ておらんのか? 」
「出ていないようです……」
グシャッ!
地図の紙を握り潰し、テント内に大声が響いた。
「何故だ!ふざけやがって!」
―民を何だと思っている……―
バンッ!
やり場のない憤りを机に向けた。
「分かりかねます……」
騎士団長は。大きく首を振り目線を地面へと落とした。
「とりあえず、明日行く発生源を片付けたら……
その街の復興を手伝うぞ」
「陛下なら、そうおっしゃると思っておりました」
騎士団長は微笑んだ。
「報告感謝する。皆で生きて帰るぞ」
「御意」
騎士団長が去った後、テント内は静寂が再び訪れた。
胸元からペンタントと、娘が作ってくれた鳥の形のような折り紙を取り出した。
―さて、どうしたものか―
1ヵ月もかからず、帰れると思っていた矢先の報告に肩を落とした。
「娘に会いたい。城の皆も大丈夫だろうか」
発生源はその場所の一番大きい魔物。主を倒せば周囲の魔物は消える。
それが明日行く場所を含めて3体。
「若ければ、有無を言わさず突き進むだろうな」
―大量の兵士を犠牲にしても。―
私は、白い鳥の紙を撫でながら呟いた。
「過去の私は……愚かだった。自分を過信していたのだからな」
過去に私は、愛する妻を亡くした。
妻は元王族直属の農家の娘だった。
家臣や親には、身分の差で反対されたが
森で魔物に襲われそうになった時、氷魔法で俺を助けてくれた。
それをきっかけに妻として、討伐へ行く戦友として共に歩んできた。
あれはまだ、娘が2歳になったばかりの頃。
北部地方へ討伐要請があり、討伐へ向かった時のこと……
『陛下。一旦、物資や兵を補充しに引き返しましょう』
『何を言っている! あと少しで壊滅が出来るんだぞ! 』
何度周りに言われても、聞く耳を持たずに進み続けた。
兵の犠牲もあった中で、やっと最後の場所で主を倒した。
安心して背を向けた瞬間。
グゥォオオオオッ!!
最後の力を出した主は、動き出し俺に牙を向けた。
「!! 」
私が振り返った時、目に映ったのは……。
時がゆっくり流れるように倒れていく妻と、
騎士団長が魔物の主の息の根を止める姿だった。
俺は駆け出し、妻を両手に抱える。
「あなた……」
苦痛に顔がゆがみ、どんどん顔色が青白くなっていく。
「今、治してもらう。大丈夫だからな」
「誰か!回復担当の者!お願いだ!助けてくれ!」
「陛下。恐れながら……もう治せるものは――」
「なんだと?! 頼む……妻を……助けてくれ」
妻の手が俺の片頬を包んだ
「……いいのよ、これも……運命よ」
「違う!運命なんかじゃない!俺が、俺が……」
「あなた……アイビーを、この国を…お願い」
妻は小さく微笑むと、その手を力なく下した。
腕の中で息絶えた妻の顔を思い出していた。
「いかん……少し気が弱っているな」
溜息をつきながら、首を大きく振る。
いつまで経っても終わらない、いたちごっこの魔物討伐。
苦しむ民と命を落としていく兵達を見る度、心が冷たくなっていく。
―騎士達には、全員生きて帰還してほしい―
「今の私を妻が見たら、どんな言葉を話すんだろうな」
小さく呟いた後、フッと息を吹き手元のランプを消した。
早朝の森はまだ薄暗く、薄い霧に包まれている。
「全員整列!」
騎士が一斉に並び、騎士団長が前に数歩進んで止まる。
「本日、魔物の発生源を壊滅させる! 気を引き締めていけ!
負傷した兵士は後方で待機!重傷者はこの場に残れ!」
「御意!」
騎士団長が数歩後ろに下がると、私は前に出て口を開いた。
「皆の者、連日ご苦労。昨日よりも今日は困難になるだろう。
危ない時は逃げろ。皆で生きて、家族のもとへ帰るぞ!」
「御意!」
剣を空へ掲げると、騎士たちは一斉に叫んだ。
「うおおおぉぉ!! 」
「出陣!!」
森の中で、団長の声が響く。
騎士達の武器を握る手に力が入り、森の深くへと駆け出した。
◇
アイビーは勢いよく目を開いた瞬間、両手から光が放たれる。
―集めて……放つ!―
赤い光と、青白い光が交差しながら目の前にある大きな岩へと向かっていく。
シュゥウーーー
ドドドッ!
……ドォン
大きな岩が崩れ落ちた。
「ハァハァ……。まだ、複数魔法を発動するのに時間がかかるわね」
両手の手のひらを見つめ、肩を落とす。
私は、時間を見つけては転移して練習をしていた。
「森で魔法の練習が出来るのは最高ね」
授業で、炎が出なかっただけじゃない。
少年を助けたあの日、チートだと過信していた自分の力は
不安定で未熟だった。
―この力を、もっと人の役に立てたい。その為にも絶対諦めたくない―
体が少しふらつきながら呼吸を整え、顔を上げるとすぐ手を前へかざした。
「練習あるのみね! よし! もう一回! 」
それから何回も魔法を放ち、帰る前にと最後放った魔法。
シュゥウー ドドドドッ!!
ドォォオンッ!!
「やった! 少し早くなったわ! 」
岩を貫通し、その先の土壁に穴が出来ていた。
私はフッと足の力が抜けて、その場に座り込む。
「ちょっと、連続で魔力を使いすぎちゃったみたい」
苦笑いをしながら、ふらふらと立ち上がる。
―♪
【ポイントを獲得しました】
【ポイントを……】
鳴りやまない通知音が頭で響く。
「ケホッケホッ……ポイントも入ったみたいね」
小さく私は咳き込んだ。土煙を吸ったからだと思い。
その時は気にしなかった。
「ふぅ……。少し休憩してから帰ろう……」
息を切らした私は、近くの切り株に腰を掛け
空を見上げていると……。
遠くから、土を蹴るような音が聞こえてきた。
……ザッザッ
「デカい音がして来てみたら、どうしたんだよ」
「魔法の練習をしてたの! 」
私は笑顔で答えると、少年は奥の砕け散った岩を見て驚いていた。
「これお前がやったのか? すげぇ!! お前カッコイイな! 」
「そんなことないよ、まだまだ私は未熟よ」
―危ない、危ない。大人の姿に変身してきて良かった……―
少年は、私の顔をジッと見つめて眉をひそめた。
「お前、顔色が悪いぞ。……家でなんか飲むか? 」
「そうかな? うん! お茶しよう」
家に帰った私たちは、それぞれお茶の準備をしていた。
私がテーブルにお菓子を用意していると、少年は何も言わずにキッチンでお湯を沸かしている。
「昼間にお前が居るのは珍しいよな」
コップにお湯を注ぎながら口を開いた少年。
コトッ
「お茶ありがとう。そうだね」
私は椅子に深く腰を掛け、部屋を見渡す。
この森で練習した日は、家に寄らずに城へ帰っていた。
昼間の家は夜と違い、大きい窓から射しこむ太陽の光が部屋に広がっている。
「今日は、何して過ごしていたの? 」
「体を動かしてた。なぁ…‥‥お前、俺が怖くないのか? 」
「なんで?」
コップをゆっくりテーブルに置いた私は、小さく首を傾げた。
「前やってた仕事の話を聞いただろ? 」
「好きで選んだ仕事じゃなさそうだし、別に怖いとか思わないよ」
私は微笑みながら首を振った。
「俺が出した茶も確認しないですぐ飲むし……変な奴」
少年は私から顔を背け、クッキーを一齧りした。
「ま、何を言われてもかまわないよ」
笑いながらお茶を飲んだ。
―少しずつでいい。この子が安心して過ごせる場所になれたらいいな―
それから私達は、食べ物の話で盛り上がり
窓の表情は青空からオレンジ色に変わっていた。
「じゃ、そろそろ帰るね」
椅子から立ち上がった私は、扉の方へ体を向けると小さい声が聞こえた。
「……楽しかった」
「え?」
私は振り返り、驚いた表情で少年を見つめる。
「な、なんでもねぇ! 早く帰れ! 」
パタンッ
転移場所へ歩き出そうと一歩前へ足を出した、その時
「う“……」
刺すような痛みに、思わず顔を歪ませ手を胸に当てる。
「何これ、どうしたちゃったのよ」
体が熱くなり、鼓動の音が体に響く。
「城へ、早く帰らなきゃ……」
痛みの波が収まった私は、ふらつきながら城へ転移した。




