二十四話
コラボグッズのマグカップとコースターを買って、バンドのコーナーを見回る。さすがにグッズは自分で買うから! と佐々木くんに念を押したので、これ以上払わせなくて済んだ。
バンドメンバーがMVで着ていた衣装が飾られていたのでその写真を撮ったり、佐々木くんはアルバムしか買っていないのでシングルも全部欲しいと言い出して、棚の前で悩んだり。結局お小遣いを沢山もらったと言っても、今日一気に全部買えるほどの額ではないらしいので、またの機会にということになったけれど。
冬華となら、せっかく少しばかりの遠出をしているのだから他にもどこか行こうかとなるところだけど、男の子とこうして出かけるのは初めてなので、提案しづらい。佐々木くんも少しこの後どうしようかと悩んでいるように見える。同性の友達同士なら、ウインドウショッピングでもいいのだけれど、男女となると難しいところだ。
結局、電車での移動時間は少しかかるので、最寄り駅まで戻ることにした。戻っても、コラボカフェでお腹はいっぱいだし、バンドの話題は話し尽くしたし、特にすることはないのでこのまま解散になりそうだけど。
最寄り駅について、改札を出る。
「今日は本当にありがとう。それじゃあまた部活で」
そう言って手を振り、背を向けようとすると。
「紬先輩っ」
佐々木くんは、私の手を取った。駅の喧騒の中で、私たちの周りだけが静寂に包まれたように感じる。
「俺、紬先輩のこと、好きです」
──佐々木くんのその言葉が、頭の中をぐるぐる回る。私のことが、好き? 佐々木くんが?
人から好意を向けられるのは初めてな私は、手を振り払えないまま固まってしまう。佐々木くんは、そんな私を、揺れる瞳でまっすぐ見つめている。そして、言葉を続ける。
「でも、紬先輩には、きっと──。だから、付き合って欲しいとかではないです! 紬先輩のこと、応援してます!」
彼の言葉を、何度も反芻する。私には、きっと? 応援してます? もしかして、冬華のこと? 彼に、冬華の話をしたことはないのに、どうして。
戸惑いを隠せない私が言葉を発するのを、佐々木くんは待っている。けれど、今この場では、何を言えばいいのか、正解が分からない。それでも。
「えっと、ありがとう。その、なんて言ったらいいのか……うん、とにかく、ありがとう」
佐々木くんは、真剣な表情から一転して、ふにゃりと頬を緩めた。
「すみません、紬先輩は困るの分かってたんですけど、それでも顔を見てちゃんと伝えたくて。今日はありがとうございました! 楽しかったです! また、部活で」
そう言って佐々木くんは私の手を離し、軽くお辞儀をして帰路についた。
ここで呆然としていては人目につくので、私もそそくさと駅をあとにする。
家に帰って自室に今日の戦利品を置き、ベッドに身を委ねる。全く意識していなかった相手から好意を向けられるのは、こんなに戸惑うものだったのか。それにしても、いつから? そんなこと、聞けるはずもないけど。そして、応援してます、という言葉が引っかかる。あの言い方での心当たりは、冬華のことしかない。
人生で初めて、真正面から好意をぶつけられるだけでなく、私の恋の応援までされるなんて、頭の整理が追いつかなさすぎる。
私が普通の女の子なら、普通に佐々木くんと付き合っていたのだろうか。私の視界には冬華しか映っていないから、気づかなかったのだろうか。
この後の休日は、佐々木くんのことと、冬華のことで頭を悩ませながら過ごすことになるのは、明白だった。




